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障がい児は社会に育ててもらい、親亡き後にそなえる
一般的に、育児は子どもが社会的・経済的に自立することを目的とします。
自分のことが自分で行えるようになり、就職を経て経済的に自立すれば育児における親の役割は終了となります。
ところが子どもが将来的に自立することが難しいとわかっている場合、少し話が変わります。
親の役割は子どもの持つ能力を最大限に引き出すことであり、そのことが親亡きあとの子どもの生活に対する備えになるからです。
障がいを持つ子どもの親にとっての育児の目的。
それは、親が亡くなったあとも他者の力を借りながら生きていくためのスキルを獲得することです。
子どもも親が健在である期間は、特別不自由を感じることが少ない生活を送ることができるでしょう。
それは自分のことを誰よりも知っている親が、特別な努力をしなくても心中を察して無償で面倒をみてくれるからです。
それ故に、子どもにとって親が亡くなることは世界で1番自分のことを知っている人・大切にしてくれる人を失うということになります。
その後の世界を生きるためには、できることは全て自分で行い、できないことは誰かに助けを借りなければなりません。
「他者に助けを求める」というスキルの必要性が格段に高まるのです。
しかし、知的障がいを持つ人にとって思いを他者に伝えるということは、一朝一夕にできることではありません。
自分のことをよく知らない相手に意思を伝えるとき、自分の意思を理解してもらうために必要な情報を取捨選択し、その内容を伝わりやすい表現で相手に伝えようとします。
このようなコミュニケーションの努力は、親子のように互いをよく理解できている間柄では生じません
家族以外の支援者など、自分をよく知らない相手に何かを伝えようとするときに初めて生じるのです。
親からのサポートだけで生活している人には、自分のことを知らない相手とのコミュニケーションの接点がほとんどないでしょう。
そのようなコミュニケーションに関する経験の不足が、将来的に人に頼るという行動をとる上での障壁になりかねないのです。
障がいがある子どもが親亡き後でもコミュニケーションに困らないためにできること。
それは最も発達が促進される子どもの成長期に家族以外の人たちとの接点をできるだけ多く持ち、サポートを受ける経験を積むことです。
成長の段階から「自分のことを知らない人に困っていることを伝えなければならない」というシチュエーションで試行錯誤することは、子どものコミュニケーションスキルを効率的に向上させます。
特に療育やリハビリでは発達促進の観点から子どもにとって少し難しい課題に取り組む機会が設けらるため、1人では解決が難しい課題を他者に相談したり、助けを求めたりする貴重な経験が得られやすくなります。
しかし、その貴重な経験を得る機会も大人になるとほとんどなくなってしまいます。
発達障がいの公的な発育サポートは就学時期にしかなく、高等支援学校を卒業すると同時に受けられなくなってしまうからです。
人の助けを借りる練習をする最適な時期は子ども時代にあると言えるのです。
親は、子どもに障がいがあると「自分が責任を持って育てなければ」という意識がどうしても強くなってしまいます。
それは責任意識の強さの証なのですが、自分1人でがんばり過ぎてしまうと他者との関わりから得られる経験を排除してしまいかねません。
子どものためを思うならむしろ「社会に育ててもらう」という意識を持った方がいい。
成長の段階から様々な場所や人に支えられて育った子どもは他者を信頼することを覚え、人に頼ることを覚えます。
もちろん、関わってくれる人が必ずしも子どもに優しくしてくれるとは限りません。
しかし、そのような経験ですら「頼れる人」を見分けられるようになる可能性を秘めています。
障がいの有無に関わらず、子どもの成長には社会的な側面があるのです。
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