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1961年 僕の旅行記

1961年5月20日 横浜

1961年5月20日16時過ぎ、横浜港の南桟橋では出港時間まであと1時間弱に迫った客船LAOSを見送る人々で賑わっていた。
旅に出る人と船内での別れを済ませた見送りの人々の下船もピークである。
憧れのヨーロッパを目的地に僕は今、出発しようとしている。夢のような話だ。

出港準備が整い盛大な見送りを受ける客船LAOS

LAOSは今から7年前の1954年にフランスで建造された13,212トンの客船。M.M.ラインが誇る年子の3姉妹の末っ子である。長姉は1952年生まれのVIET NAM、次姉は1953年生まれのCAMBODGE。
フランスの船会社らしい(?)お洒落な感覚に満ちた船内らしいが、まだ船上の人になって間もない僕にはよく分からない。

そもそも、海外旅行も初めてだし、英語は少しは出来ると思うけど、フランス語は全然出来ないのである。見たところ、日本人というか、アジア系は明らかに少なそう。横浜から搭乗した乗客にも日本人は殆どいないみたいだ。
船酔いはしないと思うけど、この先長い航路、楽しめるか一抹の不安もある。でも、長い旅なので、とにかく一生の思い出に残るようにしようと思う。

盛大な送別会も開催してくれた僕の友人達だが、見ると、桟橋の上で、仲間内のおしゃべりを楽しんでいる様子である。
主役は船上なのに、、「君たちは何をしに来たのか?」と言いたくなるが、何であれ若い男女が集まれば、それは楽しいだろう。僕が旅に出ている間に、今日をきっかけにカップルが生まれるかも知れない。それはそれで幸せな気持ちになる。

勝手におしゃべりに興じる友人達

徐々に出港の時間が迫ってくる。
あっ、さっき船上で別れを惜しんだ母も来ているようだ。
船上の乗客は次々に桟橋に向かって色とりどりの紙テープを投げて、見送る人と「握手」をしている。
僕もそうすることにした。
うまい具合に母親や友人がいる所に、紙テープが着地し、掴んでくれた。
「いってきまーす」と大きな声で叫ぶが、周りの喧噪で声は届かない。でもできる限りの大声で、何度も何度も。「いってきまーす」と。

紙テープを交替で手に取る友人(と母)

別れを惜しむ時間は意外に短い方がいいのかも知れない。
列車であれば、走り出したらすぐにホームの人の目の前から去って行くが、船は、そうはいかない。
そもそも紙テープの握手なんて、3分位で飽きてしまうよな、と思っていたら、音楽隊の演奏に加え、ドラが鳴りいよいよ出港時間の17時となった。

いよいよ出港。皆さん御元気で!いってきます。

こうして、心温まる見送りを受けながら、僕の長い旅が始まったのである。

to be continued.



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