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応援の力

高校野球、夏の甲子園。

私の母校は、その地区で公立校には難しいとされる甲子園出場を、しかも2度勝ち取っている。

それも、初出場した2年後に2回目の出場を決めている。

これは、その2回の甲子園出場に挟まれた年のお話。

初出場を決めた予選の準決勝と決勝を球場で観戦した私は、その時の興奮が醒めやらず、翌年は初戦から観戦した。

春季大会で好成績を収めて第2シードを獲得し、その勢いのままに甲子園行きを掴んだ前年とは異なり、ノーシード(2回戦)からの登場。

初戦を圧倒的コールド勝ちで突破すると、3回戦は終盤の突き放しで、4回戦は逆転で勝ち上がった。

5番打者の主将が特に好調で、打線の軸になっていた。

迎えた5回戦。

この日は日中に降ったり止んだりの天気が続いたせいで昼間の試合が長引いてしまい、この日の最終戦に我が母校が登場する頃には日が暮れかかっていた。

球場はプロも使う大きな球場で、1塁側の母校側も、3塁側の相手校側も、観客が増えてきた。

1塁側、母校側スタンドには、ちょっとイキっちゃってる、現役生と思しきヤンチャ集団もいる。
クラスメイトの応援なのかもしれない。

試合が始まる。

初回は両チームとも無得点。

そして照明に灯が入ってナイターなった。

0-0で迎えた2回裏、相手校の攻撃。

二死ながら四球二つで走者がたまったところで、続く打者の打球は右翼へのライナー。

捕球体勢に入った右翼手は、打撃好調の主将だ。

誰もが3アウトチェンジを確信した刹那、球場内にどよめきがあがった。

右翼手が打球を顔面で受けて転倒してしまったのだ。

慣れないナイターで、打球が照明に入ってしまったのかもしれない。

中堅手が懸命にフォローするが、二死だったため塁上の走者はスタートを切っており、このプレーで相手に2点が入る。

倒れた主将は起き上がることもできず、担架で退場となった。

この後チームを覆うのは、先取点を奪われた何か以上に、主将を突然失った動揺だった。

スタンドから観ていても、選手たちが本来の精神状態を保てていない事は明らかだった。

それでもエース投手が奮起して後続を断ち、続く3、4回は得点を与えなかったが、一方の打線は相手エースの好投に抑えられ、チャンスを作っても得点できずにいた。

迎えた5回裏。

安打と四球で一死満塁のピンチとなると、押し出し四球、適時打、失策であれよあれよの5失点。

グラウンドの選手たちにさらなる焦りの色が浮かぶ。

そのうえ、それを見守るスタンドの応援団まで沈んでいた。

応援団と言っても、ベンチ入りできなかった野球部員と急造のチアガールにブラバンという構成。
その誰もが、完全なる劣勢の前に意気消沈してしまっていた。

その時、スタンド後方、階段の上の位置に陣取る、それまで声をそれほど出していなかった一団が叫んだ。

例の、ヤンチャ集団である。
(ヤンチャと言っても、曲がりなりにも文武両道の進学校なので、きっと真面目な子なのだ)

「おい!こういう時にピッチャー応援しないでどうすんだ!」

「〇〇(投手の名)!頑張れー!」

「せーの」も何もない、見方によっては不恰好かもしれないその声は、しかし、この場面で一番必要な応援だった。

そしてこの一声で応援団の目が覚めた。

声を揃えて投手を応援し、野手を鼓舞した。

選手たちもその声に応えるように息を吹き返し、それ以上の失点を防いだ。

そして、0-7となった6回表も二死。

ここで打席には懸命の投球を続けるエース。

振り抜いた打球は外野手の頭上を越え、三塁打となった。

ナイター照明に照らされながら一塁を回って二塁へと駆けていく背番号1の姿は、今でも色褪せず目に焼き付いている。

前の回の応援に応え、主将の無念を晴らさんとするかのような力強い走塁。

次打者も安打で繋いで1点を返すも、その裏に相手に追加点を奪われ、7回表は走者を出すも得点ならず。

1-8。7回コールド負けで試合は、そしてこの年の母校の戦いは終わった。

何とも言えぬ脱力感。

負けちゃった〜というため息。

でも、それ以上に、ヤンチャ集団のおかげでスポーツの、特に高校生の部活動の大切な側面に出会い直せた気がした。

翌年、母校はまたもやノーシード、しかも1回戦からの登場となったが、死力を尽くし、全8試合を勝ち抜いて2回目の甲子園出場を果たす。

その予選で活躍した4番打者は、前年2年生ながら4番に据わるも、敗退した試合の最後の打者となった選手だった。

そんなドラマもまた、高校野球の醍醐味である。

今年は夏の甲子園がやって来る。

各地で甲子園を目指す戦いが始まる。

母校の応援に加え、我が子の応援も加わる今夏。
また今年も様々な形で球児を応援しよう。

数々のドラマが生まれることを期待して。

そして、何よりも選手の皆さんの健闘を祈って。


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