遊戯

「学校についたら、ブラとパンツをとること。それは靴箱に入れておいて、今日一日は下着なしで過ごすこと」

公藤くん、いや、公藤すばる様からのご命令は、手書きのメモなどの時もあるけれど、今日のそれはSNSのメッセージ機能で届いた。
こういう時には急いで返信をしなくてはいけない。

朝の通学電車の中、他愛ない雑談に花を咲かせていた友人たちに断って、スマホ画面に向かう。

「かしこまりました、ご主人様」

とりいそぎそれだけ送信する。
誰から? と興味津々で聞いてくる友人を適当にいなして、もう少し長く、

「メス奴隷である水沢奈南は、今日一日をノーパン、ノーブラで過ごさせていただきます。下着をつけることも許されない、みじめな立場を深く自覚しながら授業に臨みます。そんな奈南をどうぞ見守ってくださいませ」

「見守る」という言葉がどうかと思ったけれど、友人たちの手前、あまりじっくり文章を練ることも出来ない。
彼女たちは当然、私がそんなことを書いているとは想像もしていない。
まして、今日一日を下着なしで過ごす自分を思い描いて身体を熱くしているなどとは。

私は変態だ。
生徒会副会長もつとめる優等生の仮面の下に、辱しめられ貶められたい被虐趣味を隠し持った、私の本性を知るのはすばる様ただおひとり。

これはすばる様と私の秘密のゲーム。

♦️

「私の靴箱に今つけているブラとパンツを入れておきます。できるだけ早くとりにいきなさい。今日はずっとそれらを身につけてすごすこと」

水沢さん、ううん、奈南お姉さまからのメッセージに、息を飲んでしまう。
この朝までお姉さまのお肌に触れていた下着。
想像するだけで胸が高鳴った。

「ありがとうございます、お姉さま」

もっと色々と書こうとも思うのだけど、興奮のせいで支離滅裂になってしまう。

「お姉さまのペットになれて本当に幸せです」

変態だという自覚はある。
生徒会書記の立場にありながら、いびつな欲望を隠し持ったマゾヒストであることは、奈南お姉さまだけが知っている。

これは、お姉さまとの秘密のゲーム。

♥️

これはふたりの秘密のゲーム。
同じタイプの人間であることは、わりとすぐに分かった。
誰にも言えない内面を抱え、それを実現する勇気も持てずにいた者同士、私たちは惹かれあい、この少し変わった関係を結んだ。

ご主人様でありペットであり、お姉さまであり奴隷でもあるゲーム。

お互いに送りあう命令、指示の内容は、とても実行は無理なものだったり、がんばって現実にできるものだったり、様々だ。
今日の場合は、少しだけ勇気をふりしぼってみようと思う。

がんばってね、すばるちゃん。

扉を閉じた靴箱に手をあてながら、そっとつぶやいた。

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