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山火事のあとで

北カリフォルニアは毎年この時期、山火事が多く発生する。森や町がわらわらと燃えている。それを近年、ま近で見てきた。

火事を発生させないために、計画停電があって店を営業できないこともあった。毎年、火事のためにあちこちで避難警告がなされて、それが嫌で夏のあいだは予め、他州にバケーションに行く人もいる。けれど、その間に家が燃えてしまうことだってある。どこにいようとも、火事は防げるものではないのだけれど。


去年、娘の家が燃えた。ちょうど彼女はその時、他州に狩りに行っていた。彼女と、一緒に暮らしている彼女のパートナーは、年に一度狩りに行って、その年に自分たちが食する肉を採取する。

友人の連絡で自分たちの家が燃えたと知った時、娘は私に連絡してきた。

「大自然が私の家をこんまりしちゃったみたい!」

それが彼女の一声だった。

こんまりって、知ってるよね?

もう世界的に有名な近藤麻理恵さんが提唱するお片付けメソッドを、娘は全焼した自分の家に当てはめていた。何もかも一度捨てて、新しく始めてもいいと思っていたのだろうか。

家はもう燃えちゃったんだし、狩りが終わってないからそれを終えてか戻るわ、とのんきなことを言って彼女らしいな、と思った。狩りの道連れの馬とのツーショットの写真とともに。

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数日後、彼女は焼け野原になった、家があった場所にもどり、近所のモーテルにお世話になりながら、

「たくさんの人が親切にしてくれるの」と、そのことにうれし涙を流していた。そしてこれからはもっと、もっと、ときめくものだけと一緒に暮らしていくのだと、誓った。


火事によって命を落とす人もいる。

カリフォルニアの夏は様々な心象を呼び起こす。自分の心の中に飛び火が散って感情に巻き込まれることも多い。フェイスブックには支援のためのクラウドファンディングの通知が溢れる。

地元でのものではなくても、カリフォルニアのあちこちで発生している火事の煙が流れてきて、朝日が冒頭の写真のように赤い。空気状況は危険信号を出している。

私も北カリフォルニアの山奥で暮らしていたときに、数マイル先に火が起きて、避難したことがあった。避難勧告が解けた、3週間後に戻ってみると、ありがたいことに住処であった山小屋だけは残っていたけれど、それが不思議だと思わせるくらい辺り一面焼け野原だった。置いていったトラックも、食糧庫にしていた小屋も、そして遠く離れた隣人の山小屋も、焼き払われていた。

娘はその時わずか8歳で、変わり果てた山の姿に驚きと恐怖を隠せず、しばらくは家に閉じこもって泣いていた。

灰で覆われた山の中の小さな小屋で、それでも日常は始められた。奇跡的に焼け残ったソーラーパネルで明かりを灯し、そこら中に有り余る炭で火をおこし七輪で料理をし、食卓を囲んだ。

山火事のあとにも続いた、あのささやかな日常を 私は今も熾火がぽっと灯るように暖かく、そして何よりも力強いものとして思い出す。



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