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No.25 白人からの差別

 星明かりが薄れ、静かにオークランドは目覚める。しかし、タイとは違い人々が動き出すのは、もう少し遅い。私は、サイクリングバックに改良を加えた。これで後輪に荷物が擦らないだろう。バンコクの紀伊國屋で手に入れたニュージーランド自転車マップを頼りに、ハミルトンへの道を進んだ。計画はあるが、私の旅は常に予測不可能なものだった。そして、またそれが私の心を踊らせる。

 ニュージーランドの絵画のような美しさに私は息を呑む。ペダルを漕ぎ続けた。150キロの道のりを淡々と。空が徐々に明るくなり始めた頃、後輪にまたリズムを刻むように打ちつけ始めた。まだ先は長い。昼には、雨を予感させる空の下、青い芝生の公園でインスタントラーメンを啜った。

 明るいうちに、ハミルトンのキャンプサイトへ到着しテントを立てて街を散策した。
 ニュージーランド第4位の人口がいるはずだが、閑散としていた。廃れているのではなく単に人が歩いていない。自然に優しく整備され、小川のせせらぎが聞こえてくる。
 私は、地元の人におすすめのステーキハウスを尋ねた。疲れているのか、どうしても肉が食べたかったのだ。アメリカンスタイルのウッド調店内でTボーンステーキを地元のドラフトビールで流し込んだ。

 テントサイトには他のテントはなく、モーターサイトで一台の車だけがバーベキューをしていた。私は缶ビールを飲み、暗く星のない空の下、薄い寝袋に潜り込んで眠りについた。夜中、テントに叩き付けられる雨音で目を覚ます。時間を確かめるのもめんどくさく、頭から寝袋をかぶり眠った。

 朝、目が覚めると雨は止んでいた。テントから顔を出し芝生の湿った空気を吸い込んだ。開け切らない薄い青空が気持ちよく、遠くで小鳥が鳴いている。昨夜バーベキューをしていた体格のいい白人が、こちらに向かって何かを叫んでいた。
「ここは、俺たちの土地だ!お前らの住むところではない!」
 目を剥き出して怒っていた。
 「昔、サンフランシスコでも同じようなことを経験したことがある。量販店の服屋に入ろうとした時も同じようなことを言われたな。」私は、気にも止めずに笑顔で手を振りかえしてやった。

 次の目的地ロトルアへの道は、上り坂が続く。温泉が湧き出ていると聞いていたので楽しみだった。自転車の旅にも余裕が出てきて綺麗な小川を見つけると、竿を出した。
 ​​ロトルアは、観光地らしく、街の雰囲気は明るく温泉の蒸気に包まれている。明るいうちにユースホステルにチェックインし、竿を持って湖へ行った。
 私は湖畔に立ち、静かな水面を見つめる。ここは、マオリの伝説が息づく地。湖の深い青さは、大物が潜んでいるのではと思わせる。
 私は竿を手にし、湖の神秘に触れる。水面は鏡のように、私の姿を映し出す。ルアーを投げると、水中の生命が微かに反応した。突然、水面が揺れ、魚が跳ねる。私の心は高鳴り、竿を握る手に力が入る。竿がしなり、慎重にリールを巻く。引きは強く、やがて美しい虹色のトラウトが姿を現した。
 


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