アルマーニ/ シーロス(Armani/ Silos):ミラノの巨匠ジョルジオ・アルマーニの美術館
ミラノ市内には、ジョルジオ・アルマーニ監修の美術館アルマーニ/ シーロスがある。
2年ほど前、こちらのnoteでもアルマーニ/ シーロスを取り上げたのだが、2021年7月に来館した時、その時より常設展の構成が少し変わっていたことに気づいたので、今回のnoteでは改めてこの美術館を取り上げることとする。
参考:
(↑こちらの2019年のnoteはiPhone SEで撮影していた写真を使用しているため、今回のnoteでは、より画質の良い写真をお楽しみいただきたい)
1. ジョルジオ・アルマーニが手がけた美術館アルマーニ/ シーロス
1-1. アルマーニという人
アルマーニは、1934年、ピアチェンツァで生まれた。
ミラノ大学医学部に入学するも兵役を経て中退。
1957年から64年まで、ミラノの百貨店リナシェンテで勤務した後、1975年にブランド「ジョルジオ・アルマーニ」を立ち上げる。
その後、食品や花、化粧品、レストランにも事業を拡大し、86歳(2021年現在)となった今もアルマーニは精力的に活動している。
1-2. 2015年、ミラノ万博の年にアルマーニ/ シーロスをオープン
2015年5月1日、ジョルジオ・アルマーニは、ブランド設立40周年を記念して、ミラノ市内に文化施設アルマーニ/ シーロス(Armani / Silos)をオープンした。
ちょうどこの頃、ミラノ万博が開催されており賑わいを見せていたミラノの街。
アルマーニ/ シーロスのオープン前日には、世界各国からセレブリティーとファッション関係者がアルマーニ/ シーロスに集まり、その中にはレオナルド・ディカプリオやケイト・ブランシェット、トム・クルーズの姿もあったとのこと。
アルマーニ/ シーロスは、1950年代に建てられた穀物倉庫を改装し、再利用する形で生み出された。
中央は吹き抜けとなっている4階建ての建物には、展示室やイベントスペース、カフェテリアが入っている。
シンプルな内装なだけに、展示品の美しさがいっそう際立つ造りとなっている。
なお、グランドフロア(日本の1階に相当)には特別展のスペースとカフェテリアがあり、ファーストフロアより上は、常設展の会場となっている。
以下、常設展を順番に紹介していこう。
2. アンドロジナス(Androgynous)
常設展のスペースには、1980年からこれまでのショーで使われた衣装やアクセサリーが展示されているが、それぞれのテーマに沿った名前が付けられている。
「中性」(androgynous)と名付けられたファースト・フロア(日本の2階)には、アルマーニの定番であるスーツスタイルとエレガントなレディースの衣装が展示される。
可能な限りシンプルで純粋、そしてクリア。それがジョルジオ・アルマーニの考えるファッション。
アルマーニは、伝統的な男性のテーラスタイルと、柔らかな女性のドレスの要素を融合させて作品を作ることを好んだ。
ベーシックなスーツスタイルがモチーフとなっていながらも、アルマーニの女性服は実になだらかなラインを保っており、気品とエレガンスを忘れてはいない。
時を経て数々の作品を生み出してきたジョルジオ・アルマーニであるが、常に基本のテーラリングに忠実であり続けているのである。
3. アルマーニのジュエリーたち
ファーストフロアの中央には、これまでのコレクションで発表されてきたアルマーニのジュエリーが展示されている。
色や素材ごとに陳列されたジュエリーたち。
ゴージャスで大ぶりなアクセサリーが目立つが、シンプルなスーツスタイルにもスッと馴染むようなアイテムも多い。
絵画のような色使いのジュエリーにうっとりしてしまう。
4. 民族(Ethnicities)
「民族」(ethnicities)と名付けられたセカンド・フロア(日本の3階)には、中国、日本、アフリカ、ペルシャ、シリア、ポリネシアといった国々をモチーフにした作品が並ぶ。
(覗き窓から会場を見下ろした様子)
ファッション界でも度々「文化の盗用」が問題となっているが、北イタリア生まれのジョルジオ・アルマーニは、どのようにしてヨーロッパ以外の地域を解釈したのであろうか。
確かにヨーロッパの人々(ヨーロッパといってもかなり広いが)にとって、オリエンタルなものは魅力的に映る。
しかしながら、それを自分の作品に使う時には、他者の文化を理解しようとする態度が重要となってくる。
アルマーニが主張した「エスニシティ」とは、単に奇抜さを全面に押し出したものとは異なる。
最初にあるのは、異国のモチーフへの敬意、それにジョルジオ・アルマーニのスタイルが見事に融合していることが分かる。
中には各地の民族衣装を思わせる大胆な色使いのものも。
あ
単に展示の構成上そうなっただけかもしれないが、この「民族」のフロアに展示されるほとんどの作品が女性服であることに気づいた。
つまり女性服の割合が他のフロアに比べて圧倒的に多いのである。
よく言えば、女性服はある程度の柔軟性を持って「民族的なもの」を取り入れることができるという一つの見方とも取れるであろう。
その一方で、男性はスーツ、着飾るのは女性という社会的な役割が反映されているとも考えることができる。
もちろんここに展示されていないだけで、エスニシティをテーマとしたメンズコレクションもあるのかもしれない。
体型が全く異なる男性服と女性服の差を完全に無くすのは、このようにタイトかつクラシカルな服では難しいのかもしれない。
それでも今後は、煌びやかでエレガントな男性服という選択肢も出てくるのかもしれない。
しかも体型を選ばない服であったのならば、エキゾチックな装いというものの門戸はより多くの人に開かれることになるであろう。
5. スター(Star)
最後に、「スター」(Star)と名付けられたサード・フロア(日本の4階)には、これまでハリウッドのスターたちが身につけた衣装が展示されている。
アルマーニと映画の世界は切っても切り離せないものである。
ブランド設立初期、無名に近かったアルマーニであったが、リチャード・ギア主演『アメリカン・ジゴロ』(Amerivan Gigolo; 1980)に衣装を提供したことから一気に知名度を上げた。
レオナルド・ディカプリオやエイドリアン・ブロディなど、ハリウッドには、アルマーニを愛するスターが大勢いる。
またデジタルアーカイブでは、衣装の他、バックステージの映像、デザイン画も公開されている。
そこは、「探究心を刺激し、未来を作るために過去の重要な瞬間を回顧する」場とのこと。
普通デザイナーにとってアイディアは自分のものとして秘密にしておきたいものである都思うが、それを惜しみなくデジタルアーカイブという形で公開するあたりにアルマーニの「粋」を感じる。
ずらりと並ぶロングドレスたち。
もちろんそこに女優はいないのだが、かつてこれらのドレスに袖を通した女優たちはどんないでだちだったのであろうかと思いを馳せる。
かつて「アルマーニは妻に、ヴェルサーチは愛人に」と言われたそうだが、確かにアルマーニは常に「正しい」、そう思わせてくれる気がする。
最上階の吹き抜けから下を見下ろした様子。
姿形だけではなく、強く、正しく、美しい生き方をしている人しか、この衣装を着こなすことはできない。
まるで自分がレッドカーペットのスターたちを目撃しているかのように、うっとりとした気持ちで美術館を後にしたのであった。
アルマーニ/ シーロス(Armani/ Silos)
住所: Via Bergognone, 40 Milano, Italy
電話番号: +39 02 91630 010
公式サイト: armanisilos.com
開館時間: 水・木曜日11:00-21:00(水曜・木曜日)、11:00-19:00(金曜から日曜日)
入場料:大人 12ユーロ/ オーディオガイド 3ユーロ(日本語あり)
参考:
・「ジョルジオ アルマーニ40周年記念し「アルマーニ シーロス」オープン ミラノの新名所に」『WWD JAPAN』(2015年5月1日付記事)
・「ジョルジオ・アルマーニ独占インタビュー。」『FIGARO.jp』(2019年9月19日付記事)
(文責・写真:増永菜生 @nao_masunaga)
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