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『ロミオとジュリエット』の舞台となったイタリアの古都ヴェローナ:見逃せないのスポット〜歴史・建築編〜

0. ロミオとジュリエットの舞台、ヴェローナへ

2019年クリスマス、筆者はイタリアのヴェネト州に位置する都市ヴェローナへ旅立った。

ミラノ中央駅のクリスマスツリー。

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所要時間は列車でミラノから1時間20分ほど、切符は日にちや時間帯によって値段が変わるが、今回は、ミラノ・ヴェローナ間で10ユーロ前後の切符を購入することができた。

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席もゆったりしておりコンセントが付いていて充電もバッチリ、快適なイータロー(italo)の旅。

あっという間にヴェローナに到着。

なぜかファラオのオブジェが建っていた。

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またこちらは街中のマクドナルドの様子。

京都のマクドナルドより控えめな印象を受けた。

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ヴェローナの歴史は古代ローマの時代にまでさかのぼるが、特に都市が発展したのは、11世紀以降、中世の時代であった。

この頃、ヴェローナは、他のイタリアの都市コムーネと同様に、自治都市としてコンタード(都市の周辺領域)を支配する公権力を持っていた。

ところが12世紀後半になると神聖ローマ帝国皇帝フリードリヒ1世が、イタリア支配再建を目指して、イタリアに長期にわたって断続的に遠征を行うようになる。

このような神聖ローマ帝国の進出に対して、ヴェローナを含むイタリアの各都市コムーネは「ロンバルディア同盟」(1167年)を結んだ。

皇帝に対抗して同盟を結んだ都市コムーネであったが、その中でも皇帝支持派とこれに対する反対党派に分かれていた。

前者は「皇帝派」(ギベッリーニ)、後者は「教皇派」(グエルフィ)と呼ばれたが、次第にその対立は複雑化していった。

13世紀半ばにもなると、実際に皇帝か教皇、どちらかを支持しているかどうかはおいておいて、各地で存在していた党派を指す名前にこの呼称が使われるようになっていった。

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この複雑化する党派抗争は、イタリア半島の中世からルネサンス期を特徴付けるものであり、ヴェローナもまた激しい党派抗争が繰り広げられた地の一つなのであった。


前置きが長くなったが、今回のnoteでは、筆者が訪れた場所を中心にヴェローナのおすすめスポットを紹介していきたい。

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1. アレーナ(円形闘技場;Anfiteatro Romana)

3世紀に建設された古代ローマの円形闘技場のアレーナ。

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大きさは、長さ約152m、幅約128m。

6月から9月にかけては、野外オペラの会場として使われるために、オペラ好きの人が注目する会場でもある。

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光が飛んでしまっているが、星のオブジェが石造りのアレーナから伸びているのも面白い。

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残念なことに、12月24日に訪れたところ中は閉まっており、見学することができなかった。

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星のオブジェはすごい迫力。

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アレーナがあるブラ広場前も、クリスマスマーケットがあり、人々で賑わっていた。

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よく晴れたクリスマスの朝に撮影したアレーナ。

同じ古代ローマの円形闘技場でも、ローマのコロッセオは観光地となっているが、ヴェローナのアレーナは、今でも劇場として使われているのが面白い。

オペラのチケットを予約する必要があるが、夏に訪れた方はオペラを聴きに行くのもまた風情があってよいであろう。


アレーナ(Arena)

住所:Piazza Brà

開館時間:8:30-18:30(閉場19:30)、月曜のみ13:30-18:30(閉場19:30)

入場料:6ユーロ



2.ドゥオーモ(Duomo)

ヴェローナのドゥオーモ(大聖堂)。

ミラノやフィレンツェのドゥオーモに比べたらこじんまりしているが、ロマネスク(12世紀)とゴシック(15世紀)の混合様式という面白い造り。

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正面に立つ天使の像。

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入場料は3ユーロ。

こちらのドゥオーモは、写真に写っている正面から入るのではなく、裏口にチケット売り場と入口があるので、迷わないように注意。

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ヴェローナの建築家ミケーレ・サンミケーレ(Michele Sanmicheli; 1484-1559)が16世紀に完成させた主祭壇の様子。
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赤大理石の柱と美しい模様の床。

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このドゥオーモの内部には、14世紀から16世紀の絵画や彫刻などが所狭しと並べられてる。


こちらは、ニッコロ・ジョルフィーノ(Nicolò Giolfino)作『東方三博士の礼拝』(Adorazione dei Magi; 1529)など。

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こちらはティツィアーノ・ヴェチェッリオ(Tiziano Vecellio; 1488 or1490-1576)の『聖母被昇天』(Assunta; 1535-1540)。

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ティツィアーノがヴェローナで制作した唯一の作品である。


またこちらはジャンベッティーノ・チグナローリ(Giambettino Cignaroli)作『キリストの変容』(Transfigurazione di Gesù; 1741)。

側面のフレスコは、フランチェスコ・モローネ(Francesco Morone; 1471-1529)作の『聖ジャコモ』と『聖バルトロメオ』。

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こちらは大聖堂に併設する聖エレナの教会(Chiesa S. Elena)。

その起源は9世紀にまで遡るが、1117年の地震の後、再建されたという。

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このエリアにあったフレスコ画がとても印象的だった。

(説明のパネルがなかったため制作年・作者不明)

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長い時間をかけて手を加えられ作られたため、一つの建物の中に、様々な年代の建築様式や美術品が凝縮しているドゥオーモ。

お気に入りのフレスコ画や絵画を見つけに行くのもまた楽しいかもしれない。



ドゥオーモ(Duomo)

住所:Piazza Duomo

開館時間:10:00-17:30(3-10月の平日)、13:30-17:30(3-10月の日曜祝日)、10:00-17:00(11-2月の平日)、13:30-17:00(日曜祝日)

※土曜は一年を通して16時まで。

入場料:3ユーロ




3. シニョーリ広場(Piazza dei Signori)/ エルベ広場(Piazza delle Erbe)

街の中心部にあるシニョーリ広場とエルベ広場。

シニョーリ広場には、中世(12世紀)のヴェローナにおいて政治の中心であった市庁舎(Palazzo del Comune)が残されている他、有名な文学者ダンテ・アリギエーリ(Dante Alighieri; 1265-1321)の像が建っている。
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『神曲』の作者であるダンテは、党派抗争に巻き込まれてフィレンツェを追放された後、このヴェローナに逃亡してきたのであった。

そしてこちらはエルベ広場の様子。

鮮やかな色の壁の建物がとても趣がある。

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また、様々なお店が出店するクリスマスマーケットも開かれていた。

エルベ広場は、もともと野菜(エルベ; erba/e)の市場が集まっていたためにこの名前がついたが、徐々に色々なものが売られるようになったという。

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こちらは今回登ることができなかったが、12世紀から15世紀にかけて建設されたランベルティの塔(Torre dei Lamberti)。

高さは84mもある。

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12月24日・25日と市内のお店がクリスマスのため閉まる中、このエリア付近のカフェやレストランは営業していた。

観光客の人々で一番賑わうのがこのエリアだと言えよう。




4. ジュリエッタの家(Casa di Giulietta)

シニョーリ広場とエルベ広場のすぐ近くにあるのジュリエッタ(ジュリエットのイタリア語読み)の家。

ヴェローナ(Verona)は、『ロミオとジュリエット』の舞台となった街であるため、街中にはロミオゆかりの、またはジュリエットゆかりの場所が色々ある。

このジュリエットの家は、ヴェローナで一番観光客の人々が集まるスポットといっても過言ではないと感じた。

なぜならば、12月25日はジュリエッタの家が閉まっている日であったにもかかわらず、人々は鉄格子の間からスマートフォンを構えてジュリエッタの像を撮影していたからである。

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中に入ると中庭にジュリエッタの像があり、彼女の右胸に触ると幸せになれるということで多くの人が彼女と写真を撮るために列をなしていた。

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ジュリエッタの家の建物自体は、13世紀に建てられたとされており、とても趣がある。

家の中に入ると『ロミオとジュリエット』の原作者ウィリアム・シェイクスピアの胸像がある。

実はシェイクスピアは、ヴェローナを訪れたことさえなかったという。

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こちらはバルコニーのある階からみた中庭の様子。

冬に訪れたため枯れてしまっているが、春夏に訪れれば中庭を囲む壁には緑の蔦が伸びているという。

緑の蔦をバックにすれば、バルコニーで愛を交わすロミオとジュリエットの姿を想像できるのではないであろうか。

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室内に飾られる絵。

このロミオは少し老けているようにも感じる。

(作中の設定はロミオ16歳、ジュリエット14歳)

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家の中はいたってシンプルな作りである。

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各部屋にストーリーを紹介するパネルがある。

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ジュリエットの衣装。

オリビア・ハッセーが赤い衣装を着てジュリエットを演じた映画『ロミオとジュリエット』(1968年)のイメージが強いせいか、この衣装は少し色味に欠けているように感じる。

それでもこちらの方が、当時の衣装の色味に近いのかもしれない。

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ロミオの衣装。

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こちらはジュリエットのベッド。

意外に小さい。

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ある一室にはロミオとジュリエットの様々な解説を見ることができるタブレットと、ジュリエットに手紙を送ることができるタブレットが設置されていた。

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このようにハイテクな機械でジュリエットに手紙を送るようになっている。

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建物の上層階から見た中庭。

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ある部屋の壁は、赤が基調のお洒落なデザイン。

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人々の関心を集めるジュリエットの家の周りには、ロミオとジュリエットをモチーフにしたお土産がたくさん売られている。

中には「"Romeo e Giulietta"って書かれているだけじゃない」といったような何でもござれのお土産もあるため、それを見つけに行くのもまた楽しい。


人で賑わうジュリエッタの家に比べて、ひっそりと建っているのがロメオの家。

ロメオが属していたモンテッキ家の邸宅であり、中には入ることはできないが、外からは自由に撮影することができる。

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ロミオとジュリエットをモチーフにした映画や舞台などは数多く作られている。

この家に訪れる前に、何か映画でも観ておけば、この家の見学も楽しくなるであろう。



ジュリエッタの家(Casa di Giulietta)

住所:Via Cappello 23

開館時間:8:30-19:30、月曜のみ13:30-19:30

入場料:6ユーロ


5. サン・ゼーノ・マッジョーレ教会(San Zeno Maggiore)

中心部より少し離れたところに位置するロマネスク様式のサン・ゼーノ・マッジョーレ教会。

ちょうど12月25日のクリスマスのミサの後、ほんの小一時間ほど解放している時に入ることができた。

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観光客の方々が集まるエリアから少し離れているせいか、そこにいる人はミサに訪れた街の人ばかりであった。

その起源は11世紀まで遡るとされ、鐘楼は11-12世紀の間に建てられたとされている。

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正面扉に設置されている青銅のレリーフは、旧約聖書・新約聖書をモチーフにしており、1138年に作られたという。

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中に入ると基本的にシンプルな構造ながらも、細やかな装飾が施されていることが分かる。

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両側の壁に絵に描かれるフレスコ画は、13世紀から15世紀に描かれたもの。

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文字が書き込まれているフレスコ画を珍しく感じた。

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漫画のよう。

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ファザードにはめられた窓は、運命の車輪(La Ruota della Fortuna)と呼ばれているとのこと。
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この教会の主祭壇は鮮やかながらも温かみのある色使い。

主祭壇の上部にある7つのアーチには、13世紀に制作された『キリストと12使徒』(Cristo e Apostoli)が描かれる。

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主祭壇に設置されているのは、アンドレア・マンテーニャ(Andrea Mantegna;1431-1506)作『聖母と諸聖人』(Madonna e santi)。

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実は裾絵の部分はレプリカで本物はフランスのルーブル美術館に所蔵されているという(フランス人が持ち去ったため)。

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自然の光が差して美しい。

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ガイドブックを見るとこの教会は入場料を払って入る必要があり、入場時間も限られているようである。

今回はたまたまクリスマス後のミサの後に解放されている時に入ったので、チケットなどの情報は下の概要を参照されたい。

(ホテルの方にミサの後は入っていいよと言われていたので入ったのであった)


サン・ゼーノ・マッジョーレ教会(San Zeno Maggiore)

住所:Piazza San Zeno

開館時間:8:30-18:00(3-10月の平日)、12:30-18:00(3-10月の日曜祝日)

10:00-17:00(11-2月の平日)、12:30-17:00(11-2月の日曜祝日)

入場料:2.5ユーロ     


6. カステルヴェッキオ(Castelvecchio)・スカリジェロ橋(Ponte Scaligero)

ヴェローナの街の中心部には、アディジェ川(Adige)が曲がりくねった形で流れているため、いくつもの橋がかけられている。

その一つであるスカリジェロ橋は、要塞としての機能を持っていたカステル・ヴェッキロと中心部をつなぐ橋である。

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逆光になってしまったが、別の橋からスカリジェロ橋を眺めた様子。

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筆者が訪れた時には残念ながらカステルヴェッキオにある市立美術館は休館日となっていたが、スカリジェロ橋は自由に渡ることができた。

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スカリジェロ橋から見た街。

この煉瓦造りの橋から、冬の淡い日光に照らされた水面がとても美しく見えた。

ただなかなかの高さがあるため、少し足が竦んだ。

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絶好の撮影スポットであるため、カメラを持った人を多く見かけた。


カステルヴェッキオ(Castel Vecchio)/ 市立美術館

住所:Corso Castelvecchio 2

開館時間:8:30-19:30、月曜のみ13:30-19:30

入場料:6ユーロ


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以上 、ヴェローナの見どころをいくつか紹介した。

筆者が訪れたのは、12月24・25日ということもあって、入ることもできない施設もあった。

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それでもヴェローナの楽しめるスポットはたくさんあり、また街のどこの風景を切り取っても歴史の重みを感じることができるところばかりであった。

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なお、このnoteにはそれぞれの施設のそれぞれの入場料を書いているが、ヴェローナの美術館や教会など色々な施設をまわりたいという人には、ヴェローナ・カード(Verona Card)がおすすめである。

このカードがあれば、市内の指定の公共交通機関を使うことができる他、様々な施設の共通入場券として使える。

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自分の滞在時間やプランに合わせて、カードを使うかどうか決めても良いかもしれない。

いずれにせよ、歩いているだけで楽しい街、ヴェローナであった。



参考:

・『地球の歩き方 2015-16:ミラノ ヴェネツィアと湖水地方』ダイヤモンド社、2014年。

ヴェローナ公式観光サイト

・藤内哲也編『はじめて学ぶ イタリアの歴史と文化』ミネルヴァ書房、2016年。

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