甘い甘い朝のひととき
タイトルを見て、甘い朝の睦言を想像した方には先に謝っておきたい。
今回の話は、男女のソレではなく、文字通り、イタリアの朝ご飯は甘いということである。
いや、イタリアの朝ご飯は、甘過ぎる(troppo dolce)。
チョコやピスタチオなどのクリーム入りのブリオッシュにコーヒーかカプチーノ、オレンジジュースというのが、最もシンプルなイタリアの定番朝ご飯である。
ここ10年ほど、一人暮らしの気軽な身なので、朝ごはんをきちんと食べることが少ないのだが、朝ごはんを食べるとしたら、やはりツヤツヤの白いご飯、キノコや海藻、豆腐が入った味噌汁、納豆、生卵が食べたい。
このような朝ごはんを食べて育ってきたので、なんとなく朝からダイレクトに血糖値を上げにくるような甘いパンには食指が動かないのである。
パンが好きな方にこの話をしたら「朝から甘いパンが豊富にあるなんて羨ましい!」とのことであったが、私も昼かおやつの時間に甘いものを食べることは好きである。
ただ朝起き抜けに食べるものとしては、これは違う!と思ってしまう頑固者なのである。
夢の中で美味しいものが出てきて、食べたいのに食べれずに目が覚めるという経験をした方はいるのではないであろうか。
夢の中、ではないが、私は、このフードロスが叫ばれる時代に食べたくても食べれないということをアッシジのホテルで体験した。
2020年秋、私はウンブリアでの史料調査の最終日にアッシジへ観光に行くことに決めた。
聖フランチェスコゆかりの都市アッシジは、小高い丘の上にあり、丘の斜面にはオリーブの木が植えられている。
朝露をふんだんに含んだオリーブの葉っぱは、柔らかな朝日に照らされ、とても若々しい。
そんなアッシジの街を満喫したくて、市街地のホテルに一泊することにした。
街の至るところにバールがある大都市のホテルやホステルでは、朝食がつかない安いプランを選ぶのだが、この時は朝食込みのプランしかなかったので大人しく宿で朝食をとることにした。
朝起きて、朝食会場へ行くと甘くないパンやブリオッシュ、ジャム、ヌテラ、ハム、チーズ、りんご、ヨーグルト、牛乳、シリアル、オレンジジュースなどが所狭しと並んでいた。
日本のホテルの朝食に比べたら簡素なものかもしれないが、ジャム一つとっても種類が多く、いく通りもの朝食が生み出せそうである。
そしてエスプレッソマシーンは必ずどこのホテルにもある。
本来ならば、これらのものを自分で取りに行くことができるのだが、この時は感染対策のためということで、ホテルのマダムが欲しいものをサーブしてくれるとのことであった。
この日は、そこまで朝から胃が元気ではなかったので、マダムに「オレンジジュースとマキアートを」と告げた。
するとマダムは「それだけでいいのか?ヨーグルト食べる?甘くないのがいいならチーズもハムもあるよ」と言って、あれよあれよという間に食卓にいろいろなものを運んできた結果、以下の写真のような朝ごはんが完成した。
ひとまず、左に置かれた絞りたてのブラッドオレンジジュースを一口飲んだ。
甘い。
とんでもなく甘い。
砂糖などは一切入っておらず、文字通り100パーセントのオレンジジュースなのだが、濃縮された甘さである。
左手奥には、普通のオレンジジュースも置かれたが、とてもこちらは飲めそうもない、水が欲しい。
真っ赤なオレンジジュースを飲んで食欲を満たされてしまったのだが、たくさん持ってきてくださったマダムの手前、シリアルはなんとか片付けた。
別に私は少食なわけではない。
おそらく胃が目覚めてきた午後に、この朝食を二回くらいに分けて出されたならば喜んで完食したであろう。
ただ朝からガツンと甘いものを食べれなかったのである。
子供の頃は、蜂蜜を舐めるクマのプーさんやヘンゼルとグレーテルのお菓子の家を見て、思う存分甘いものを食べることができて羨ましく思っていた。
好きな食べ物を買うくらいはお金を持っている今、子供の頃の憧れを叶えたいとは思えないのである。
繰り返しになるが、私は決して少食なわけでも、甘いものが嫌いなわけでもない。
ただ量が食べれないのである。
先日、自分より年下の友人が食後にタピオカを飲んでいるのを見て「30代になるとフラペチーノが全部飲めなくなる」と言ったことがあった。
これはただの老化である。
甘いものは、食べることができるうちに思う存分食べておくのがよい。
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