サン・マウリツィオ教会(Chiesa di San Maurizio al Monastero Maggiore):まるで万華鏡のように内装が美しい教会
ドゥオーモとスフォルチェスコ城のちょうど中間に位置するサン・マウリツィオ教会(Chiesa di San Maurizio al Monastero Maggiore)。
ミラノには数多くの教会や美術館があるが、こじんまりしたこの教会の内装は、とくに色鮮やかで美しく、著者の一押しの教会である。
お気付きの方もいるかもしれないが、あまりにお気に入り過ぎて、このnoteのヘッダー画像に使っているのがこの教会の天井画である。
それくらい著者は、この教会を好きである。
今回のnoteでは、サン・マウリツィオ教会の魅力について語っていきたい。
(教会の見取り図。以下、見取り図番号 ;青・1のように表記する。)
1. サン・マウリツィオ教会の成り立ち
外装はとてもシンプルである。
16世紀初頭以降、サン・マウリツィオ教会には、今に残る建築・内装が施されていくことになる。
それは、イタリア戦争(1494-1555)真っ只中の時期であり、間も無く宗教改革が始まろうとしてた時代であった。
またサン・マウリツィオ教会は、18世紀末までは、ベネディクト派の女子修道院として使用されていた。
教会は至聖所を隔てて、表と裏、二つの部分に分けられる。
(見取り図番号;青・6)
裏側は、修道女のための広間として使われていた。
つまり公にミサを行う場と、修道女のための場は完全に分けられていたのである。
至聖所の様子。
以下の章では、この教会の壁や天井に描かれるフレスコ画について見ていこう。
2. 色鮮やかなフレスコ画:ベルナルディーノ・ルイーニの作品たち
サン・マウリツィオ教会のフレスコ画を担当した芸術家の中でも、レオナルド・ダヴィンチとも仕事をしたと言われるロンバルディ派の画家ベルナルディーノ・ルイーニ(Bernardino Luini; 1480-1532)とベルナルディーノの息子アウレリオ・ルイーニ(Aurelio Luini)が有名であろう。
1532年、父ベルナルド・ルイーニが亡くなると、息子のアウレリオ・ルイーニたちの工房が製作を引き継ぎ、一連のフレスコ画は完成されたのであった。
以下に紹介するフレスコ画は、それ以外の作者の手によるものもあるが、ルイーニ親子が製作したものが多い。
まず教会の表側のフレスコ画から見ていこう。
こちらは至聖所の正面向かって左側に描かれるフレスコ画。
(Bernardino Luini)(見取り図番号;青・5)
上部には、聖ステファノや聖ベネディクトゥスなど。
その下には、聖セシリアと聖ユスティナといった2人の聖女が描かれている。
そしてこちらは至聖所の正面向かって右側に描かれるフレスコ画。
(Aurelio Luini; 1570)(見取り図番号;青・7)
フレスコ画の中に描かれるのは、聖アグネス(右上)、聖スコラスティカ(中央上後部・修道女の格好)、アレクサンドリアの聖カテリーナ(左上)など。
これらの聖女に囲まれ跪く若い女性は、金のバラの模様が入った白くふんわりしたドレスを着ている。
さらに下の方にも歯を抜くやっとこを持った聖アポロニア(左)と目玉が刺さった短剣を持った聖ルチア(右)。
正面向かって右の壁側にあるのは、デル・カレット礼拝堂(The Chapels of the del Carretto)とベルガミニ礼拝堂(The Bergamini Chapel)。
(見取り図番号;青・2-4)
こちらに描かれるフレスコ画は、16世紀半ばに製作されたものである。
こちらは、正面向かって右側の壁に描かれる一連のフレスコ画。
キリストの洗礼から復活までストーリー仕立てになっている。
洗礼から
「私に触れないでください」(ノリ・メ・タンゲレ;Noli me tangere)
そして復活。
また正面向かって右の壁側にあるのは、シモネッタ礼拝堂(The Simonetta Chapel)である。
(見取り図番号;青8-10)
反射して見にくくなっているが、16世紀半ばの作品である。
模様や絵が細部まで書き込まれている。
口から植物が出ている人間の頭部の模様がとても気になった。
続いて、教会の左側にある柵を越えて通路に入り、
(見取り図番号;青5)
扉をくぐると、教会の裏側に行くことができる。
このサロメが描かれた壁の一部が空いており、そこが教会の表と裏を行き来できる通路となっている。
こちらは裏側から見た通路。
(見取り図番号;緑2)
薄暗いが、裏側にも「私に触れないでください」(ノリ・メ・タンゲレ;Noli me tangere)。
教会の表側のフレスコ画をざっと見ただけでも、キリストの受難が繰り返し形を変えて描かれている。
前述の通り、ルイーニの工房が製作したものが多いが、どれも状態が良く色鮮やかに残っていることは驚きであろう。
3. 星空のような天井画:あまりに美しいインディゴブルー
本章では、教会の裏側、つまり女子修道院として使われていた場の天井画を中心に説明を進める。
こちらは裏側から見た教会。
木製の天井の模様が、繊細でとても美しい。
そしてこちらはパイプオルガン。
あまりに豪華でお仏壇のようだと思ってしまったり。
ちょうど内陣仕切り上の桟敷天井に描かれた美しい青の天井。
(見取り図番号;緑1-2)
この天井画こそが、筆者がヘッダー画像に使っているものである。
16世紀に制作されたこちらの天井画は、『創世記』がモチーフとなっている。
天使たちが来ている衣装の色使いまでとても繊細で美しい。
そしてこちらは、下の方の壁にひっそりと描かれる風景画。
吸い込まれそうなインディゴブルーに、思わず目が釘付けになる。
ここまで状態の良い天井画は珍しいと思いつつ、いつもうっとり見上げてしまうのであった。
4. 美しい聖女たちとノアの方舟
本章では、至聖所の裏側の壁のフレスコ画をメインに紹介していく。
まず先ほど紹介した青色の天井画の右下にあるこちらのフレスコ画。
これを見てハッとした方もいるのではないであろうか。
(Aurelio Luini, St. Chaterine of Alexandria and St Agatha; circa the first half of the 16th century)
(見取り図番号;緑2)
右側には、自分の乳房を皿に乗せて持つ聖女アガタがいる。
3世紀半ば、シチリアで生まれたアガタは、その美貌で有名だったとのこと。
彼女に目をつけたシチリア総督は、キリスト教徒だったアガタを改宗させて妻にしようとしたけれども、アガタはそれに従わなかった。(当時キリスト教は迫害の対象)
業を煮やした総督は、アガタを拷問し、その乳房を切り落とした(!?)。
拷問の末亡くなったアガタは、聖女として、様々な街の守護聖人として祀られるようになった。
涼しい顔をして白くて丸い乳房を持っている聖女アガタであるが、その裏にはとても血なまぐさいストーリーがあるのであった。
そしてこちらは、青い天井画の左下にあるフレスコ画。
(Aurelio Luini, St. Apollinia and St Lucy; circa the first half of the 16th century)
(見取り図番号:緑2)
先に表側のフレスコ画でも描かれていた、聖アポロニア(左)と聖ルチア(右)である。
それにしても、黄色や紫、赤、オレンジと色鮮やかな衣装に、白い肌が映えている。
ルイーニが描く聖女たちは、どことなく品があり、優しい表情をしており、とても魅惑的である。
ふと見上げたアーチに施された美しい模様。
以下、3部作のフレスコ画は、アウレリオ・ルイーニ(Aurelio Luini) 作『ノアの方舟』(Noah’s Ark ; 1556)である。
(見取り図番号;緑3)
洪水が起こる前、人間の世界は、悪徳と暴力に満ちており、貧困や飢えで亡くなった人が道端に転がっているほどであった。
そこに、神(鳩)のお告げがあり、方舟の建設の場面。
予言通り、大洪水はやってきて、最初ノアが方舟を真面目に作っているのをバカにしていた人間たちは流されていったのであった。
劇画仕立てで、一つ一つのものが細やかに描かれている作品である。
そして女子修道院の後部の方にもキリストの受難が描かれている。
(見取り図番号;緑4-6)
特に真ん中の絵は、『最後の晩餐』の様子を描いている。
レオナルド・ダ・ヴィンチの有名な『最後の晩餐』よりも明るい色使いであるが、基本的な構図は似ていると言えるであろう。
そしてこちらは、出口側の壁に描かれた『原罪』のフレスコ画。
(見取り図番号;緑7)
(The original sin, Aurelio Ruini; 1556)
りんごを食べようとしたために、楽園を追放されるアダムとイヴが描かれている。
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以上、紹介しきれていない作品もあるが、サン・マウリツィオ教会の見どころを紹介した。
この教会の作品の大半を担当したのが、ルネサンス期のロンバルディアを代表するルイーニ親子であったために、そこはまさにルイーニのアトリエ、博物館と言っても過言ではないであろう。
教会自体はとてもこじんまりとしているが、中に入ってみると、その鮮やかな作品の多さにびっくりすることであろう。
そこに描かれる聖女たちは、どれも優しく笑みをたたえて美しく、お気に入りの作品を探しに行くのもまた楽しいこと間違いなしなのである。
サン・マウリツィオ教会(San Maurizio al Monastero Maggiore)
住所:Corso Magenta 15, 20123, Milano, Italy
開館時間:9:30-19:30
公式ホームページ:chiesadimilano.it
(文責・写真:増永菜生 @nao_masunaga)
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