ミラノで開催、世界最大の国際眼鏡見本市MIDO(ミド) 2023をレポート
1. MIDO(ミド)とは? その50年の歴史を辿る
1-1. 世界最大の国際眼鏡見本市
イタリア・ミラノで毎年2月に開催される国際眼鏡見本市MIDO(ミド)をご存知であろうか?
世界各地で眼鏡の展示会は開催されているものの、毎年9月にフランス・パリで開催されるシルモドール(SILMO D’OR)とこのMIDOは、特に注目度も高く、歴史ある展示会なのである。
一流の眼鏡デザイナーやメーカーのブースが立ち並ぶ見本市には、世界各国のバイヤーたちが逸品を求めてやって来る。
眼鏡を作る人と売る人が直接コミュニケーションを取ることによって、新たなビジネスのチャンスを生むこともあるため、ここは双方にとってとても貴重な場なのである。
今回のnoteでは、MIDOの成り立ちを紹介をしつつ、2023年のMIDOの様子をレポートしたい。
なお、筆者は2023年のMIDOの会場に入ることができたのだが、そこは公式には発表前の新作のメガネが展示される場。
そのためにこのnoteでは、会場内の写真、特にメガネの写真を掲載することを控えている。
肝心のメガネの写真がなくてちょっと物足りなく感じるかもしれないが、メガネが気になった方はMIDOの公式ホームページや「MIDO milano 2023」などと検索し、公式のニュースの画像・映像を参照いただきたい。
1-2. MIDOの歴史
まず50年の歴史を持つMIDOの成り立ちを説明していくことにしよう。
1970年代初頭、アイウェアに目をつけたイタリアの企業家たちは、眼鏡専門の見本市を立ち上げることを決めた。
MIDOと名付けられた国際眼鏡見本市は、1970年5月14日にミラノで第一回目が開催されて以降、そこは、世界中の眼鏡専門業者が集まる場所となっていった。
第一回目のMIDOには、イタリアの企業は67社、海外の代理店28社、海外のメーカー39社の合計95社が参加した。
そのわずか2年後の1972年には、230社が出展したほか、世界50ヶ国から参加者が集まった。
1970年代初頭の航空便の運行状況を考えると、このイベントがいかに世界から注目を浴びていたかが分かるであろう。
年を経ることにますますその規模を拡大していったMIDO。特に1978年は、アンジェロ・フレシュラ(Angelo Frescura)とジョヴァンニ・ロッツァ(Lozza)が1878年に設立したイタリア初の眼鏡工場が100周年を迎えた、イタリアの眼鏡業界にとって記念すべき年でもあった。
また1980年代以降、眼鏡業界は、それぞれのメーカーによる小規模なビジネスから、よりグローバルなビジネスへと変貌を遂げていった。
それと同時に眼鏡のデザインや技術をめぐる競争も激化していった一方で、やはり家族経営による連携の取れたビジネスや伝統的な職人の手仕事は眼鏡造りにとって欠かせないものでもあった。
21世紀に入ってからも順調に来場者を増やしていったMIDOは、特にミラノ万博が開催された2015年には、来場者5万人という驚くべき数字を記録した。
SNSの普及もあり、MIDOの広告もよりクールかつインパクトのあるものになっていた2010年代。
順調に成長を続けてきたMIDOは、2020年2月、記念すべき50周年の年を迎えるはずであった。
2. コロナに翻弄されたMIDO
結論から言うと、誰もが楽しみにしていた第50回目のMIDOは、2020年に開催されることはなかった。
2020年2月、イタリア国内でのコロナウィウルス感染者の急速な増大により、MIDOは開催直前に延期となった。
その後、イタリアは3月から5月にかけて街は全面的にロックダウンし、人々は厳しい行動制限にひたすら耐える日々を送った。
とうとう本部は2020年中にMIDOを開催することを断念し、第50回目のMIDOは2021年に延期することを発表した。
ところが2021年に入ると今度は変異株が流行し始め、ロックダウンが断続的に続いた。
そのために2021年のMIDOは6月5日から7日にかけてオンライン上で開催されることになった。
さらに2022年初めもイタリアでは行動制限が続いていたが、春頃にはようやく、マスクの着用義務はあったものの人々は自由に活動できるようになっていた。
こうして2022年6月、3年ぶりにミラノのローフィエラの会場に帰ってきたMIDOは、2年越しに50回目を迎えることになったのであった。
この2022年の春にはミラノ・サローネも2019年以来3年ぶりに開催されるなど、長らく失われていたミラノの日常が戻ってくるかのように感じられた。
3. 完全にコロナ前に戻ったMIDO 2023
このような変遷を経て、2023年2月4日から6日にかけて、第51回目のMIDOがミラノのローフィエラで開催された。
例年通り2月にMIDOが開催されるのは2019年2月ぶり、実に4年ぶりのことであった。
当日、ローフィエラの会場は、次の7つのセクションに分かれていた。
アイウェア分野に進出した大手ファッションブランドが集まる「ファッションディストリクト」(Fashion District)、矯正レンズに特化した「レンズ」(Lenses)、アバンドギャルドなメーカーが集う「デザインラボ」(Design Lab)、手仕事と革新に着目した「モア!」(More!)、クリエイティビティーにフォーカスした「ラボ・アカデミー」(Lab Academy)、極東から300以上の企業が参加する「ファーイースト」(Far East)、そして検眼機器とスペアパーツにクローズアップした「テック」(Tech)。
今回のMIDOには、フランス、スイスやドイツ、イギリスなどイタリアの近隣の大きな国からのみならず、キプロスやギリシアなど小さな国々からもそれぞれのお店を経営するバイヤーやメーカーたちが参加した。
さらに2023年は、渡航制限が世界的に緩和されていったこともあり、2019年以降、ミラノに来ることができなかったアジアや北米、中東のバイヤーも続々と会場に訪れた。
来場者たちの様子を見ていると、家族で来場しているバイヤーやメーカーも目立った。
特にお店をイタリアの各都市でそれぞれ経営しているイタリア人のバイヤーは、共同経営者としての成人した子供のみならず、今回のビジネスには直接関係のないような小さな子供まで会場に連れてきていた。
このようにアイウェアビジネスに関わる家の子供は、幼い頃からMIDOに訪れ、ビジネスの場に自然に親しんでいるような印象を受けた。
またMIDOでブースを出しているのは、眼鏡メーカーだけではなく、展示用のメガネケースやキャリーケースのメーカーなど眼鏡に関わる全ての企業がここに集まり、「MIDOに行けば何かしら良いものが手に入るだろう」というようにビジネスのチャンスを生んでいるのである。
また来場者一人一人を見てみても、それぞれがこだわり・お気に入りの眼鏡をかけているばかりか、特にヨーロッパやアメリカからの来場者は、その眼鏡フレームのデザインや色に合わせたコーディネートを楽しんでいるようであった(逆にアジアや中東からの来場者たちはスーツを着ていることが多かった)。
写真で紹介できないのが残念だが、筆者が個人的に感銘を受けたコーディネートは、欧州から来たあるバイヤーの女性である。
彼女は真っ青なアセテートの眼鏡をかけ、まるでアントニオ・ロペスが描いたヴェルサーチェのファッションイラストのようにカラフルなジャケットに、ブルーとブラウンの薔薇の模様のズボンを合わせ、ビジューのついたシャープな黒のパンプスを履いていた。
彼女と話をする機会があったので話を聞いてみると「コロナ以降、人々は黒やアースカラーを好むようになった。
私はアイウェアに色を取り戻したい」と熱心に語っていた。
このようにMIDOでは、身につけているものやお互いの近況が会話の糸口になり、和やかに次のビジネスの話につながる印象も受けた。
MIDOの会場にはドリンクサービスがあるほか、ブランドによってはお菓子やフィンガーフード、ドリンクを振る舞っているところもあり、これらのちょっとしたサービスは、いずれもビジネスを潤滑に進めるのに重要なツールであったようである。
4.アイウェアに力を入れるファッションブランド
近年、各種大手ブランドもアイウェアの展開に力を入れている印象である。
Eコマース大手のファーフェッチ(Farfetch)の傘下にあるニューガーズ・グループ(New Guards Group)は、マルセロ・ブロン・カウンティ・オブ・ミラン(Marcelo Burlon County of Milan)、オフ- ホワイト(Off-White)、パーム・エンジェルス(Palm Angels)、アンブッシュ(Ambush)の4つの旗艦ブランドのアイウェアーを発表するために、2023年、MIDOにデビューした。
2021年1月にオフ-ホワイトとパームエンジェルスが、自身のブランドの眼鏡をデザインと開発するというプロジェクトに着手したことを皮切りに、ニューガーズ・グループのクリエイティブ部門で眼鏡がデザインされているとのこと。
このように製造された眼鏡は、各ブランドのブティックやオンラインショップ、世界中の優れた眼鏡店やパートナー企業で販売されている。
ジェンダーレスなサングラスがグループの主力商品であるが、現状では、唯一オフ-ホワイトのみ、サングラスだけではなく度付きの眼鏡を展開している。
今後はパームエンジェルスなどの他のブランドも同様の展開が予定されているように、ニューガーズグループは、ビジネスの強力な柱としてアイウェア部門に今後も力を入れていくつもりだという。
2023年2月現在、MIDOだけではなく、ミラノの街中の至る所でパームエンジェルスのアイウェアの広告を見かけることが多くなったが、太めのフレームによるアバンドギャルドなデザインが印象的である。
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以上、MIDOについて駆け足でまとめたが、2023年のMIDOを介して一貫して感じたのは、作っている人、売っている人の顔が見えるビジネスのあり方がコロナ以降完全に戻ってきたということであった。
特に筆者が日本人だということを話すと、「日本製のメガネは精巧な技術やチタンを使った優れたデザインが世界的に人気」ということを話してくれた人もいるほど、日本製の製品はアイウェア業界では熱い視線を注がれているようである。
渡航がしやすくなった今、2023年9月のシルモドール、そして来年2月のMIDOと更にビジネスの活発となることが期待されるであろう。
MIDO(ミド)
会場:フィエラ・ミラノ(Fiera Milano)
住所:Strada Statale Sempione, 28, 20017 Rho, Milano, Italy
公式ホームページ:mido.com
参考:
・”Cadore, l’occhaleria compie 125 anni”, in: WMIDO(2003年4月11日付記事)
・”50 years of MIDO, 50 years of history and growth in the international eyewear industry”, in: WMIDO(2020年1月15日付記事)
・”Mido cancels 2020 shows”, in: Dispending Optics(2020年4月2日付記事)
・”New Guards Group debutta a Mido con la divisione eyewear”, wrriten by Edoardo Meliado, in: Fashion Network(2023年2月5日付記事)
・”Boom di presenze per Mido 2023: 35mila ingressi (+60%)”, in: Pambianco News(2023年2月8日付記事)
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