フィリッピーノ・リッピ『受胎告知』:ルネサンス期フィレンツェを代表する画家、ミラノのマリーノ宮にて展示
1. 毎年恒例、ミラノ・マリーノ宮での特別展
毎年12月になると、ミラノのマリーノ宮では、イタリアの美術館から貸し出された作品が期間限定で展示される。
これは、イタリア有数の銀行インテーサ・サンパオロ(Intesa Sanpaolo)が、文化活動の一環として行っているものである。
今年展示されるのは、フィリッピーノ・リッピ(Filippino Lippi; 1457-1504)『受胎告知』(Annunziate; 1483-84)。
このマリーノ宮の展示は、複数の美術品が展示されるのではなく、展示される作品は一点のみで、その作品についてスタッフが解説してくれるというスタイルが特徴的である。
それゆえに、一度に入場できる人数は25人までと限られており、15分ほどの解説を聞きながら鑑賞することになる。
ちょうど見切れていて写真には写っていないが、この建物の周りにはたくさんの人が並んでいる。
筆者が行った時には、20分くらいの待ち時間であった(日曜日の昼時)。
今回のnoteでは、2019年12月に展示されていたフィリッピーノ・リッピの『受胎告知』を紹介していく。
2. フィリッピーノの父フィリッポ・リッピ:お墓をめぐるメディチ家とスポレートの論争
フィリッピーノ・リッピ(Filippo Lippi;1457-1504)は、主にフィレンツェのメディチ家の元で活躍した画家。
父は、有名な画家フィリッポ・リッピ(Fra Filippo Lippi ;1467-69)。
フィリッピーノの解説をする前に、父フィリッポ・リッピの話に触れておくのが良いであろう。
父フィリッポ・リッピは、修道士でありながら家族を持ち、妻ルクレツィア・ブーティ(フィリッピーノの母)と子をモデルにして聖母子画を製作した。
父フィリッポ・リッピが描く優しい聖母子画は、フィレンツェのウフィッツィ美術館にも展示されている。
フィレンツェの時の権力者メディチ家の保護を受けて活躍したフィリッポ・リッピは、1469年、教会国家の地方都市の一つであったスポレートで客死した。
この有名画家有名画家であったリッピの墓を巡り、「有名人の墓を我が街に建てよう」ということで、フィレンツェのメディチ家とスポレートは争うことになる。
結果的にスポレートが勝ったため、父フィリッポ・リッピは、スポレートのドゥオーモに眠っている。
父フィリッポ・リッピが書き残したスポレートのドゥオーモの天井画・壁画を完成させたのは、息子フィリッピーノ・リッピなのであった。
(画像は著者がスポレートに調査に行った時に撮影してきたもの。
このnoteのヘッダー画像として使うほどお気に入りである)
3. フィリッピーノ・リッピ:ルネサンス期フィレンツェを代表するサラブレット画家
ここからは、今回鑑賞したフィリッピーノ・リッピの作品の解説である。
フィリッピーノ・リッピは、1457年、当時フィレンツェ共和国の領域に入っていたプラートで生まれた。
幼少期に父フィリッポ・リッピを亡くしたため、父の弟子であったサンドロ・ボッティチェリの弟子となり、以降、メディチ家の保護を受けて活躍した。
このフィリッピーノ・リッピが26歳の時の作品は、1482年にトスカーナ州の都市サン・ジミニャーノの政府が製作を依頼したものである。
翌1483年から84年にかけて製作されたこの『受胎告知』は、告知する大天使ガブリエルと告知される聖母マリアがそれぞれ別々の絵として描かれている。
またこの頃、フィリッピーノは、フィレンツェのブランカッチ礼拝堂(Cappella Brancacci)での仕事も依頼されている。
(『受胎告知』の鑑賞の前に流されたビデオの映像より)
15世紀にはすでにフィレンツェ共和国の影響下にあったサン・ジミニャーノであったが、この都市には、ベノッツォ・ゴッツォーリ(Benozzo Gozzoli;c. 1420-1497)、ピントゥリッキオ(Pinturicchio;1454-1513)、ドメニコ・ギルランダイオ(Domenico Ghirlandaio;1449-1494)といったルネサンス期を代表する画家たちが訪れていた。
現在、この二枚組の『受胎告知』は、サン・ジミニャーノ市立絵画館(Pinacoteca civica di San Gimignano)にて保存されている。
フィリッピーノ・リッピ(Filippino Lippi; 1457-1504)『受胎告知;天使』(Angelo Annunziate; 1483-84)
『受胎告知』という主題は、フィレンツェにとって、またその統治下にあったサン・ジミニャーノにとっても重要なテーマなのである。
なぜならば、フィレンツェでは、キリストの誕生(12月25日)から9ヶ月遡り、聖母マリアがお告げを受け、キリストを身ごもったとされる日、つまり3月25日を一年のスタートとして考えていたからである。
それゆえに、フィレンツェでは、1749年になるまで3月25日が元日のように考えられており、新年を象徴する『受胎告知』は、とてもめでたい主題でもあるのである。
床に跪く天使の持つ百合の花のバックには、光が描かれている。
フィリッピーノ・リッピ(Filippino Lippi; 1457-1504)『受胎告知;聖母マリア』(Maria Annunziata; 1483-84)。
一方でお告げを受けるマリアは、その光を受けて一層神々しく描かれている(著者が撮った写真では光が反射してしまって綺麗に見えないのが残念)。
そして筆者が写真撮影中に次の説明の番の人たちを入れるために、照明が切られてしまった時の様子。
天井が高いマリーノ宮、ワイヤーと照明を使い絵画の中の光を再現した背景のもとで作品が設置されていた。
このインテーサ・サンパオロ銀行によるマリーノ宮での展示は、まだあまり知られていないイタリアの地方都市に保存される優れた作品にスポットライトを当てて紹介するという試みを行っているとのことである。
2018年はペルージャに保存されるペルジーノの『東方三博士の礼拝』、2019年はサン・ジミニャーノに保存されるフィリッピーノ・リッピの『受胎告知』がミラノにやってきた。
(2018年12月にマリーノ宮で撮影したペルジーノの作品)
2020年にはどんな作品がミラノにくるか楽しみでもある。
フィリッピーノ・リッピ『受胎告知』
会期:2019年11月29日から2020年1月12日まで
会場:マリーノ宮(Milano, Palazzo Marino, Sala Alessi)
住所:Piazza della Scala 2
入場料無料
開館時間:9:30-20:00(最終入場は19:30、木曜は22:30まで)
※12月7日は12:00閉館
※12月24日と31日は18:00閉館
公式ホームページ:www.comune.milano.it
参考:
・La Repubblica(2019年11月29日付記事)
・Comune di Milano(2019年11月29日付記事)
(写真・文責:増永菜生)
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