ヴァチカン美術館(Musei Vaticani)vol. 3:知の巨人たちが一堂に会す、ラファエロの間『アテナイの学堂』
コンスタンティヌスの間 (Sala di Costantino)、ヘリオドロスの間 (Stanza di Eliodoro)、署名の間 (Stanza della Segnatura)、そしてボルゴの火災の間 (Stanza dell'incendio del Borgo)の4つの部屋からなるラファエロの間(Stanze di Raffaello)。
特に署名の間には、ラファエロの代表作である『アテナイの学堂』があり圧巻の迫力である。
今回は、ラファエロの間を中心に紹介を進める。
1. コンスタンティヌスの間(Sala di Costantino)
コンスタンティヌスの間(Hall of Constantine)は、公式の儀礼のためにデザインされた部屋であり、ラファエロとその弟子たちによって装飾が施された。
ちなみにラファエロ・サンティ(Raffaello Santi;1483-1520)は、この部屋が完成する前の1520年に亡くなっている。
この部屋の名前は、キリスト教の教義を認めたローマ皇帝コンスタンティヌス(Constantine;306-337)に由来している。
その壁画には、キリスト教の勝利を証言する彼の生涯が描かれている。
またレオ10世(Leo X;在位 1513-1521)の時代に作られた木の天井は、グレゴリウス13世(Gregory XIII;在位1572 -1585)に新しいものと変えられた。
2. ヘリオドロスの間(Stanza di Eliodoro)
ヘリオドロスの間(Room of Heliodorus)は、もともと教皇の私的な謁見の間として使われていたものであり、次に紹介する署名の間の完成後にラファエロによって装飾が施された部屋であった。
ラファエロのほかにルカ・シニョレッリ(Luca Signorelli)、ロレンツォ・ロット(Lorenzo Lotto)、チェーザレ・ダ・セスト(Cesare da Sesto)らも制作に携わった。
その天井画や壁画には、旧約聖書のエピソードから中世の歴史までが描かれている。
さらにそこにはユリウス2世(Julius II;在位 1503-1513)の政治的意図も反映されている。
それは、その当時、イタリア半島に進軍するフランス軍に対して、教皇庁の世俗の力を回復させるというものである。
3. 署名の間(Stanza della Segnatura):『アテナイの学堂』
この署名の間(Room of the Segnatura)の壁には、ラファエロの代表作の一つである『アテナイの学堂』が描かれている。
もともとこの部屋はユリウス2世(Julius II;在位1503-1513)の私的なオフィス兼図書館として使われていた。
1508年から1511年にかけてラファエロたちによって製作されたこの部屋のフレスコ画は、真、善、美をそれぞれ表している。
超自然的な真を表すのは、『聖体の論議』(La disputa del sacramento/ 神学)のフレスコ画。
その一方で理性的な真を表すのは『アテナイの学堂』(School of Athens/ 哲学)である。
ここでは古代ギリシアの哲学者たちが描かれている。
中央にいる二人の男性は、プラトン(レオナルド・ダ・ヴィンチがモデル)とアリストテレス。
(数カ国語で説明が書かれたオブジェが邪魔であるが『アテナイの学堂』全体を写した様子)
(下から撮影したので少し歪んでいる)
肘をついて屈んでいる男性は、ヘラクレイトスに扮したミケランジェロであると伝えられている。
黒い帽子を被り、目線をこちらに向けている若い男性はラファエロ自身だとされている。
カトリック・キリスト教的な世界観とキリスト以前のギリシア哲学の世界観が見事に調和した、ラファエロの最高傑作とも言われる本作。
淡く鮮やかな色使いのフレスコ画は、500年の時を超えてもなお美しく、生き生きとしている。
右側の一部分しか写っていないのだが、善を表すのは『枢機卿と神学の美徳と法』(Cardinal and Theological Virtues and the Law)のフレスコ画。
また美は『パルナッソス山のアポロンとミューズたち』(the Parnassus with Apollo and the Muses)によって表されている。
さらに天井画も神学、哲学、正義、詩などといった概念を表している。
(それぞれ反対の向きで写した天井画)
レオ10世(Leo X;在位1513-21)の時代になると、この部屋は小さな書斎と楽器を置くための音楽の部屋として使われていた。
その前の教皇ユリウス2世の時代に使われていた家具は、撤去され、修道士ジョヴァンニ・ダ・ヴェローナ(Fra Giovanni da Verona)が作成した新しい家具が置かれた。
ところがこれらの家具は、1527年のローマ劫掠の際に破壊されてしまったのであった。
4. ボルゴの火災の間(Stanza dell'incendio del Borgo)
最後に、ボルゴ火災の間(Room of the Fire in the Borgo)は、ユリウス2世(Julius II;治世 1503-1513)に会合の場として使われていた部屋である。
天井画を担当したのは、 1508年にユリウス2世によって制作を命じられたウンブリアの画家ペルジーノ(Pietro Vannucci, Perugino)である。
レオ10世(Leo X;治世 1513-1521)には食堂として使われていたこの部屋の装飾は、1514年から1517年にかけて行われた。
ここには、レオ3世とレオ4世といったレオ10世と同名の教皇たちが描かれており、これらの教皇との繋がりを誇示するというレオ10世の政治的意図が見られる(最も教皇の座は世襲制ではないため、血縁による繋がりではなく、教皇としての資質や功績に繋がりを見出していると考えられる)。
5. ウルバヌス8世の礼拝堂(Chapel of Urban VIII)
ボルゴ火災の間の隣にあるこの礼拝堂は、1631年にウルバヌス8世によって作られたものである。
天井のフレスコ画にはキリストの受難が、壁のフレスコ画にはピエタが描かれる。
また繊細な植物の模様が施された壁は羊やヤギ、牛などの皮からできていることにも注目である。
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今回も見どころ満載であったが、次回はいよいよボルジアの間の説明に入る。
ヴァチカン美術館(Musei Vaticani)
住所:00120 Città del Vaticano
開館時間:8:30-16:30
入場料:17ユーロ(一般料金)、8ユーロ(割引料金)
公式ホームページ:museivaticani.va
(写真・文責:増永菜生 @nao_masunaga)
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