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【前編】「カール・ラガーフェルド、アンナ・ピアッジ:アンナの着こなしを語るイラストジャーナル」(Karl Lagerfeld, Anna Piaggi. Diario illustrato di un modo di vestire Anna-cronistico)

モードの帝王カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld:1933-2019)と伝説のファッションエディター・アンナ・ピアッジ(Anna Piaggi:1932 - 2012)。

そんな二人の親交を物語る展示が、ミラノのソッツァーニ財団(The Sozzani Foundation)は、アンナ・ピアッジ文化協会(Anna Piaggi Cultural Association)との共同で開催された。

その名も「カール・ラガーフェルド、アンナ・ピアッジ:アンナの着こなしを語るイラストジャーナル」(Karl Lagerfeld, Anna Piaggi. Illustrated journal of an Anna-chronistic way of dressing)。

本展では、そんなカールが描いたアンナのイラスト180点が惜しげもなく展示されている。

今回のnoteでは、カール・ラガーフェルドのイラストを中心に本展の内容を紹介していくこととする。



1. 1973年、パリの中華料理店にて

1973年、パリの中華料理店にて、カール・ラガーフェルドとアンナ・ピアッジは運命的な出会いを果たした。

その時から1997年に至るまで実に四半世紀にわたって、カールは、アンナの着こなしをスケッチし続けた。

お互いの才能を認め、良き友人関係を築いていた二人は、パリやその自宅の他にも、ローマ、フィレンツェ、ロンドンなど様々なところへ旅をし、その様子もイラストに残されている。

そこに描かれるアンナは、どれもさりげなくリラックスした様子で、二人の親密さが伺われる。

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アンナは次のように述べた:

「アンナのクロニクルはパリの中華料理屋のとあるテーブルで始まった。

カールは、ペーパーナプキンの上にサラサラと私のヘアスタイルをスケッチし始めた。

私の髪は、ロンドンのヴィダル・サスーン(Vidal Sassoon:1928-2012)の店で切ってもらったばかりであり、夜用のアクセサリーをつけていた。」

またカールは次のようにも述べている:

「服を纏ったアンナは、イメージを生み出す。それはわざわざ作り出しているというものなんかじゃなくて、自然と湧き上がってくるものなのである。

予想もつかないディティール、矛盾に満ちたアクセサリー、普通ではない組み合わせ、意外性のあるアイディアの集合、不可欠なユーモア、これらは彼女を唯一無二のものにしているのであり、常に私のインスピレーションを刺激するのである。」

本展は、二つに分かれている。

コルソ・コモ10(Corso Como 10)の方で開催される特別展「90年代のファッションダイアリー」(A fashion diary, the 90s)では、1990年から97年までの間にカールによって描かれた50もの未刊行のスケッチが展示される。

一方で、コルソ・コモ10と同じくソッツァーニ財団の管轄下にあるタッツォリ通り(Via Tazzoli 3)の邸宅は、特別展「1970年代から80年代のアンナのクロニクル」(Anna-Chronique, the 70s and 80s)の会場となっている。

ここでは、1986年代にアンナとカールによって編纂された本に使われたスケッチが展示されているほか、アンナ自身の本、宝石や帽子なども見ることができる(一部購入可能)。

早速次の章から実際の展示を見ていくこととしよう。


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(こちらはオンラインチケット)




2. 友人にしてミューズ、アンナ・ピアッジ

タッツォリ通り(Via Tazzoli 3)にあるソッツァーニ財団が管轄する建物。

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こちらの方では、特別展「1970年代から80年代のアンナのクロニクル」(Anna-Chronique, the 70s and 80s)が行われている。


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アンナ・ピアッジは、1960年代にファッションエディターとなる前は、イタリアの老舗出版社モンダドーリ社にて翻訳者として働いていた。

またアンナは、ミッソーニの創業者の一人であるロジータ・ミッソーニ(Rosita Missoni)の才能に早くから注目しており、1967年にはすでに彼女の記事に取り上げていた。

ロジータとアンナは、単なるエディターとデザイナーとしてだけではなく、共に旅に出かけるほど仲の良い友人同士でもあった。

1970年代に入ると、アンナは、ヴォーグ誌に移り、そこではクリス・フォン・ヴァンゲンハイム(Chris von Wangenheim;1942-1981)やジャンパオロ・バルビエーリ(Gian Paolo Barbieri;1938-)といった写真家とともに働いた。

そして1988年、アンナは、ヴォーグにてコラム「D.P. Doppie Pagine di Anna Piaggi」を書き始めたのであった。 

私生活の面では、1962年、あんなは、写真家のアルファ・カスタルディ(Alfa Castaldi)と結婚し、アルファが1995年に亡くなるまで二人は一緒であった。

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アンナを元にした特別展はこれまでにも開催されてきた:

2006年にロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館にて開催された展示「ファッション論」(Fashion-ology)、2013年にミラノのパラッツォ・モランドにて開催された展示「帽子論、アンナ・ピアッジとその帽子」(Hat-ology, Anna Piaggi and her hats)。


一方でモードの帝王カール・ラガーフェルドは、ジャン・パトゥ(Jean Patou;1887-1936)やピエール・バルマン(Pierre Balmain;1914-1982)のもとで働いた後、1964年にはクロエのデザイナーとして契約した。

デザイナーとしての名声を高めていったカールは、1983年よりシャネルと契約し、シャネルの立て直しに貢献した。

写真家やディレクターとしての才能を見せていたカールは、映画やオペラの世界でも活躍した。


アンナを描くカールの様子。

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(Tracy Weed, Karl Lagerfeld drawing Anna Piaggi, 1977)


こちらのアンナが羽織っているラチネ織りのケープは、1977年にカールがデザインしたものである。

こちらのケープは、20世紀初頭のイブニング・ラップ(sortie-de-bal)を元に作られている。

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(Self-portrait of Karl, 1986, and an interpretation of his 'hourglass' look: a 1939 dress and an 'aborigine' scarf)


続いてモノクロのアンナのスケッチ。

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またこちらのブースには、実際にアンナが身に付けていたドレスとネックレスが展示されている。

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そしてその右隣にはこのドレスを着たアンナのスケッチがいくつか残されている。

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また右下の小さな作品こそが、1973年、パリで描かれた最初のカールのスケッチである。

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(右下:Karl's first sketch of Anna, 1973)


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(下:Two views of a 1950s cocktail dress by Jean Dessès)

ヴィンテージや当代一流のデザイナーの作品を組み合わせることに長けていたアンナ。

細やかに描かれたスケッチからは、一つ一つの服を愛持ってきていたアンナの生き方も見えてくるような気がした。



3. 全ては一つの帽子から

ブースにはアンナが実際に身につけたアクセサリーが並べれられたショーケースがあり、一部作品は購入可能である。

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アンナの着こなしを語る上で、帽子はかなり重要である。

まずは帽子を決めてから、その日の洋服を決めるとさえ言っていたアンナ。


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(右:Roxanne Lowitt, Anna Piaggi and Vern Lambert, Paris, 1977)


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(右(Anna):Red wool-knit coat with kimono sleeves, modeled on a 1920s original, 1925 black silk and white-beaded Lanvin dress and Chinese satin trousers/ 左(Vern):Blue Mandarian jacket of 1900 from the collection of Lady Kelly, sold at Christie's)


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(The cape, dated 1909, from the first production of Stravinsky's 'Firebird'. 1920s bonnet with lace and 'broderie anglaise'. Harem trousers made out of a man's Japanese kimono)



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(Mid-1960s Zandra Rhodes cream silk tunic-dress with Empire waist-line and handkerchief points)


アンナは帽子について

「私の帽子は私そのものであり、それは、この小さな世界を動かしさえする魂や感情、激情さえ含むもの。

それは一つの秘密であり、私ができるだけ秘密にしておきたいものでもある。」

と述べている。

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(Raxanne Lowit, Photo-puzzle, Anna and Jacques de Bascher, Paris, 1980)



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(a padded silk cape, printed with a pattern of ducks, based on a collection of toys of 1912)


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(The two framed sketches made in La Coupole, 1977)


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(Anna's friend Marian MacEvoy, the fashion editor, in a toreador's waistcoat of black velvet with fold embroidery)


帽子に対する並々ならぬこだわりを持っていたアンナ。

彼女の帽子は、実際にブースの一角で鑑賞することができる。

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展示品のスケッチと見比べつつ、この帽子はこの絵に描かれているものかなと考えるのもまた楽しい。


ライターとして『Vogue』でも記事を寄稿していたアンナ。

この頃の雑誌は今見ても色褪せない。

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【後編】では、引き続き70-80年代のスケッチの展示と90年代のスケッチのブースを見ていくこととしよう。

乞うご期待!


カール・ラガーフェルド、アンナ・ピアッジ:アンナの着こなしを語るイラストジャーナル(Karl Lagerfeld, Anna Piaggi. Diario illustrato di un modo di vestire Anna-cronistico)

会場:FONDAZIONE SOZZANI

住所1:Corso Como 10, Milano, 20154, Milano, Italy


住所2:Via Enrico Tazzoli, 3, 20154 Milano, Italy


開催期間:2021年9月25日から同年11月28日まで(不定休)

※木曜、金曜、土曜、日曜の日曜の12:00-20:00まで

チケット料金:6ユーロ(一般)

公式ホームページ:fondazionesozzani.org


参考:

"Fondazione Sozzani: Karl Lagerfeld e Anna Piaggi in un diario illustrato", in: First Online(2021年9月21日付記事).

「異才のエディター、アンナ・ピアッジ。【ジーン・クレールが選ぶVOGUEな女性】」『Vogue Japan』(2016年9月7日付記事)





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