ビアンネメ(Bienaimé):1935年創業、パリ発 のビューティーブランド、アール・デコ様式の香水瓶
香水文化が古くから根付く街パリ。
パリには数多くの香水専門店が存在する上に、パリ発のコレクションブランドの香水も免税店や百貨店で買い求めることができる。
今回注目するのは、1935年創業のビューティーブランド、ビアンネメ(Bienaimé)の香水とその他の商品である。
90年近く続くこのブランドは、ブランクを経て、2022年にパリ1区に新たにブティックをオープンさせた。
創業当時のアール・デコ様式を伝えるブティックの内装や商品。
今回のnoteでは、そんなビアンネメの魅力について書いていきたい。
なお筆者がパリの店舗に訪問したのは、2022年12月と2023年1月のこと。
その時に比べて、今は値上げされている商品が複数見受けられる。
このnoteに写っている商品の価格ではなく、公式オンラインショップで最新の価格をチェックしていただければと思っている。
1. ビアンネメ(Bienaimé)の歴史
1935年に自身の名を冠したブランドを立ち上げたロベール・ビアンネメ(Robert Bienaimé)。
本業は化学者であったロベールは、当時、評判の調香師としてパリの街で名を馳せていた。
ロベールは、1909年に調香師ポール・パルケ(Paul Parquet)と出会ったことがきっかけで調香の世界に入った。
師のポール・パルケは1775年創業の老舗香水ブランド・ウビガン(Houbigant)の責任者として、ローベル・ビアンネメに香水の技術を紹介した。
1916年にポール・パルケが亡くなると、ロベール・ビアンネメはウビガンの香水店の経営を引き継ぎ、化学者としての知識を活かしつつ、1930年まで新しい香水の創作を監督した。
また1923年から1942年にかけて、ロベール・ビアンネメは、国立調香師協会(Syndicat National de la Parfumerie)の会長も務めた上に、化粧品やクリームの開発に努めた。
こうするうちに自身のブランドを作りたいと考えるようになったロベール・ビアンネメは、1935年ビアンネメというブランドを生み出した。
最初の年に、ロベール・ビアンネメは「Éveil」(目覚め)、「Fleurs d'Été」(夏の花)、「La Vie en Fleurs」(花の中の人生)、「Vermeil」(ヴェルメイユ)などのフレグランスを発表した。
ロベール・ビアンネメの美学に裏打ちされたアール・デコ調の洗練された商品は人気を博したが、1960年にロベール・ビアンネメが後継者がいないまま亡くなると、ビアンネメは、次々と別の調香師の手に渡った。
セシリア・メルギ(Cécilia Mergui)によって「ビアンネメ」が再発見され、復活に向けての第一歩が踏み出されたのは、2019年のことであった。
2. ビアンネメの復活、セシリアの功績
1935年創業の老舗ブランド ビアンネメ(Bienaimé)を見事に復活させたセシリア・メルギ(Cécilia Mergui)について説明することとしよう。
セシリアは、偶然オンラインの蚤の市で1930年代のビアンネメのパウダーケースを発見したことから、「アールデコ様式の美しい容器に入った香水を作りたい」と思うようになり、2019年にビアンネメを買収。
こうして2022年11月16日にパリ1区にて、アール・デコ様式のビアンネメのブティックがオープンした。
ビアンネメの経営を始める前のセシリアのキャリアは、実にユニークであると同時に、彼女が有能なビジネスパーソンであることを物語っている。
セシリアは、パリの名門ビジネススクール・エセック(ESSEC)在学中に、上海、ロンドン、そしてシカゴで学んだ。
フランスに戻り、コンサルティング会社に就職した後、セシリアは、数年ごとに会社を変え、様々な仕事をこなし、着実にキャリアを蓄積していった。
彼女は、パリ・マレ地区のセレクトショップ・メルシー(Merci)のアドバイザーを務めた後、2013年にオンラインで販売開始以降、パリで急成長したブランド・セザンヌ(Sézane)に移り、ヘッド・バイヤーとして活躍した。
前述の通り、セシリアが、ビアンネメのパウダーケースと出会ったのは、彼女がセザンヌで働いていたこの頃のことであった。
アール・デコ様式のデザインを愛するセシリアは、元々、この時代のオブジェや家具を蒐集に熱を注いでいた。
たまたまオンラインショップで出会ったビアンネメのパウダーケースは、セシリアの心を捉え、以降、セシリアは、ビアンネメの歴史や現状について調査し、2019年、ついにビアンネメを買収するに至った。
3. ビアンネメの商品紹介、デザイン性とサステナブルの両立
セシリアは、ビエナイメのアール・デコ様式のデザイン性だけに着目したのではない。
セシリアは、ビエナイメの容器は詰め替えて繰り返し使用可能であることと、それが装飾品として生活を彩るということに目をつけた。
想像して欲しい。
今やコスメやスキンケア用品といえば、オンラインショップやドラッグストアで手頃に大量に購入できる時代。
消費者は自分自身で「これが欲しい!」と思ったものというよりも、口コミサイトやで評価が高いものや、ソーシャルメディアで「バズった」ものを買い求める。
それらの容器は、その大半がプラスチックでできており、あまりデザインにも統一性や美学がない印象である。
こうして購入したものを自分が使う量や時期を見極めて、最後まで使い切れば問題ないのだが、新たな「バズリ」商品や口コミを見つけて、ついつい手を出してしまう。
セシリアが提唱するビジネスモデルは、その真逆である。
セシリアは、詰め替えることで繰り返し使用可能な容器やパッケージ、さらに消費者の生活空間を彩るデザインや装飾をビエナイメの強みとして売り出すことにした。
こうして2021年11月16日には、オンラインでビエナイメの商品を販売するまでこぎつけた。
またセシリアのもう一つのこだわり、それは全てが「フランス産」であることである。
そのためにかなりのコストがかかったものの、ロゴが浮き彫りで入った香水ボトルは、創業は1916年のノルマンディー地方の老舗工場ウォルタースペジャー(Waltersperger)に依頼したものだという。
先述の通り、2022年11月16日には、パリ1区にて実店舗をオープンさせ、今では、香水だけではなく、ハンドクリーム、美しい容器に入ったキャンドル、ハンドソープ、石鹸、日本製のあぶらとり紙と風呂敷などが販売されている。
またセシリアは、ブランドのアーカイブの収集や調査を怠ることなく、創設者のロベールを讃えて、彼の手書きのサインのプリントを商品の説明書きに添えている。
下の写真に写っているのはミニ香水3種類20ユーロのサンプルキット。
2024年現在ではミニ香水4種類30ユーロのキットにリモデルしているとのこと。
ちなみにこのサンプルキットを購入したことがある人は、ビエナイメのフルボトルの香水瓶を購入する際に、サンプルキットの購入記録を店の人に提示するとサンプルキットの分、代金から割引されるという嬉しいサービス付き。
アール・デコ調のデザインの商品が並ぶ店内は、まるで1925年のパリ万国博覧会(アール・デコの名前の起源ともなった万国博覧会)のパビリオンの一つのようであると共に、ブランドを象徴する鮮やかなピンクの箱はまるで『The Grand Budapest Hotel』に登場する菓子屋メンデルの箱のようである。
店内にいると、まるでアール・デコ様式の全盛期である1920〜1930年代にタイムスリップしたかのよう。
自分が生まれるよりも遥か前の時代なのに、甘いノスタルジアを引き起こす1920〜1930年代。
お店のものを見ていると、このようなオブジェやプロダクトを自分の家にも配置し、愛でたいという衝動に駆られるのである。
2023年1月、筆者が最初に購入したのはサンプルキットであった。
初めて使うブランドの香水、まず自分に合う香りを知りたかったためである。
サンプル香水は、旅行用にも便利なミニミニサイズでありながらもちゃんとガラスの瓶に入っている。
3種類のサンプルミニ香水を(現在は4種類)紹介。
まずヴェルメイユ(Vermeil)、トップノートはなんとニンジンの種、ミドルノートはアイリス、すみれ、バラ、ラズベリー、そしてラストノートは、ホワイトムスクやサンダルウッドなど。
例えるならば、それはまるで母親のクローゼットの匂い、こっそりクローゼットの中に入った時にスカーフやブラウスが顔に触れたときにする匂いのようであった。
次に「幸せな日々」という意味のJours Heureux(ジュウールズ)は、トップノートはアーモンド、ミドルノートにはカーネーション、ゼラニウム、すみれ、バラ、ラストノートにはバニラとホワイトムスクで構成されており、温もりのある香りが印象的。
それは、母親の白粉の匂いや白粉がついたスカーフ、化粧をした母親の胸に顔を埋めたときにする匂いを思い起こさせるものであった。
半年ほど月日が流れ、2023年7月、筆者が最終的に選んだのは「花のある生活」ことLa Vie en Fleurs(ラヴィアンフルール)であった。
トップノートにラズベリーとマンダリンの華やかな香り、ミドルノートにピオニーとすみれ、ローズ、そしてラストノートにはホワイトムスクとアイリスと、フレッシュな香りから徐々に甘く濃厚な香りに変化していく感じが好みだったからである。
そして2023年の上半期のうちにもう一つ新しい香水が発売されており、そのサンプルとビエナイメの過去の広告をモチーフに作られたカードをいただいた。
その名も「夏の花」(Fleurs d'été)。
トップノートは、ベルガモットやホワイトライラック、ミドルノートは、マダガスカルイラン、エジプシャンジャスミン、ホワイトチョコレートアコード、そしてラストノートは、アーモンド、バニラ、サンダルウッド、ホワイトムスクなど。
夏の日差しをいっぱい浴びた花々をイメージした、爽やかで若々しい香り、でもどことなく色気を感じる香りである。
以上、ビエナイメについてパリの店舗と購入品をもとに紹介した。
2024年現在、ビエナイメは、ヨーロッパを中心に小売店で購入することができるが、まだ日本で購入できるお店はないようである。
ちなみにミラノでは、以前、「セレクトショップ特集」で紹介した、ポルタ・ヴェネツィアにあるブリティッシュ・ボックスというお店でビエナイメの商品を買い求めることが可能である。
参考:
流行りの、評判の香水をつけるのもいいと思うが、その商品の持つストーリーや理念が好きという理由で、香水を選ぶのも楽しいプロセスである。
筆者も自分のビエナイメの香水を使い切ったら、詰め替え用を購入し、香水瓶を末長く使いたいと思っている。
ビエナイメ(Bienaimé)
住所:30 Rue Saint-Roch, 75001 Paris, France
営業時間:11:00-13:00/ 14:00-19:00(日曜定休)
公式ホームページ:bienaime1935.com
参考:
・「アールデコの香り漂うビューティブランドを蘇らせたセシリア。」『madame FIGARO.jp』(2023年1月13日付記事)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?