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【中編】シャンボール城(Château de Chambord):レオナルド・ダ・ヴィンチが若き騎士に捧げたフランス・ロワール地方の美しい城【建築編】

前回のnoteでは、シャンボール城の歴史について説明したが、今回のnoteでは、シャンボール城の建築について詳述したい。


1. フランス・ルネサンス様式建築の傑作、騎士道精神を受け継ぐ城

重厚感のある要塞のような外観がとても凛として美しいシャンボール城。

ところがシャンボール城が建設された16世紀の時点では、こうしたルネサンスの建築形式は、時代遅れと看做されていたことも否定できない。

というのも騎士が馬に乗って敵を攻撃し、味方の要塞を守るという伝統的な戦術は、すでに火器が使われていた1494年に勃発したイタリア戦争*を契機として通用しなくなっていったのである。

つまり小銃を持って進撃する歩兵を大砲が擁護するというような新しい戦術に対し、要塞化された城はその攻撃に耐えられなくなっていたのである。

*イタリア戦争… フランス国王シャルル8世がナポリの王位継承権を主張しイタリア半島に進軍

それでもなお、シャンボール城に中世・ルネサンス期の建築の特徴が残っているからといって、それが時代に取り残されたという証では決してないということは主張できるであろう。

主塔(ドンジョン*)、翼棟、水の流れる堀といったシャンボール城の造りは、シャンボール城が完成した16世紀半ばの時点ではすでに主な機能を失っていた騎士たちの生活や活動を思い起こすものである。

(シャンボール城の見取り図、日本語版公式パンフレットより)

これらは過去の時代の建築の引用に過ぎないかもしれないが、フランソワ1世と同時代の人々にとっては、衰退しつつあった騎士道の世界が映し出すものであり、ノスタルジーを抱かせるものでもあったのである。

*主塔、ドンジョン(仏 donjon; 英語 keep)… 城の中心となる建物のこと、日本語では「天守閣」と訳されることもあるが、ここでは「主塔」と訳す。



2. 魔法の二重螺旋階段

シャンボール城の中心に設置された二重螺旋階段も、この城のまた一つの魅惑的なストーリーを提供してくれている。

(日本語版公式パンフレットより)


上の見取り図のように、階段(番号1)は主塔の中心に、ギリシア十字で区切られた四つの大きな部屋の中心に設置されている。

この階段は、空洞になった中心部に、螺旋状のスロープが2本ずつねじれるように配置されている。

(セリーヌのキャンペーンを意識して白黒で撮影)

この二重螺旋階段からは、建物の主要なフロアから、城で最も高い場所にあるテラスに至るまで、すべてのフロアにアクセスできるようになっている。

またこの階段は、二重になっている二つの階段を二人の人がそれぞれ利用する場合、窓の隙間からお互いの姿を見ることはできても、決してすれ違うことがないように造られている。

この城に訪れた客人たちは、このドラマチックな演出を楽しむことができるのである。



3. 壮観なファサードと繊細な装飾彫刻

シャンボール城のファサードは156mもの長さを誇り、イタリアのトスカーナ地方や都市ミラノの宮廷の装飾からインスピレーションを得た幾何学的な装飾で飾られている。

ピラスター*やリンコー**、そして王のマークなど、様々な装飾が城の至る所に施されている。

*ピラスター(pilaster)… 付け柱(つけばしら)。壁に貼り付けられた、または埋め込まれた装飾用の柱。

**リンコー(rinceaux)… 連続した波状の茎のようなモチーフからなる装飾模様。

さらに城ののテラスは、フランソワ1世はコンスタンティノープルの地平線に現れる屋波をイメージして造らせたとされており、その広がりと垂直性はまるでゴシック様式の聖堂のような印象も与えている。

このテラスからは、シャンボールの領地や村などを見渡すことができるという。

またテラスの中央には、フルール・ド・リスと呼ばれるフランス王室を象徴する百合の紋章を冠した塔が高くそびえ立っており、絶対的な王の権力を示しているかのようである。

写真を撮影しているとちょうど鷹?が空を横切った。

しかしこうして下から塔たちを見ると、丸や菱形などの模様がどこに配置したら最も美しいか、計算し尽くされて配置されているのが見てとれる。

ある意味、シャンボール城では、イタリアの伝統を程よく破壊し、フランス王の趣味に合わせつつ、これらの要素が職人たちの巧みな技術によって自由に組み立てられているのである。

途中、冷たい雨が降り震えるほど寒かったが、これもまたシャンボール城の壮麗かつ神秘的な雰囲気を楽しむのには良い環境だったかなと思っている。

イタリアの真っ青な空の下に建つ城や教会も美しいが、なるほど、シャンボール城は曇天が似合う城でもある。



シャンボール城(Château de Chambord)

住所:Château, 41250 Chambord, France

開館時間:9:00-17:00

公式サイト:chambord.irg/fr/



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