わたしの「大事」をあなたが決めるなよ
「大事には至りませんでしたが」
その一文を読んだ瞬間、心の底からヒュッと冷たい風が吹いたようだった。わたしはそんなことを言ってない。ただ、聞き手がそう書き換えたのだ。
「ああで、こうで、そうなった。そこまではされなかったけど、わたしにとってこんなにも苦しくつらい思いをしたのは初めてのことだ」
詳しくは割愛するが、そういったようなことを話していた。相手は眉間に皺を刻みながらそれを聞いて、大きな傷を負ったであろうわたしに対して、絶えず慰めの言葉をくれた。「わかってもらえた」という、嬉しさや安堵。そうした気持ちが、わたしの心の中に生まれていた。
それを、一瞬でへし折る威力があったのだ。あの、「大事には至りませんでしたが」には。
大事じゃない?
わたしにとっては、こんなに大きな出来事はないっていうのに。
え。いや、十分、大事なんだけど。
相手に悪気がなかったのは、承知している。だからあのとき、「これで間違いはない?」と聞かれたとき、「ないです」と頷いたのだ。間違っては、いないのだろうから。
でも、そういうことじゃないんだ。現にわたしは今でも、あれから20年も経った今でも、こんなに鮮明に覚えている。
あれはやっぱり、「大事」だったんだよ、わたしにとって。
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