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アメリカ長期滞在の雑感:格差と日本への学び

アメリカ長期滞在ももう終わりです。寂しいような、ほっとしているような感じですが、10ヶ月近くの滞在でいろんな人にお話を聞くこともできました。
20年ぶりの長期滞在で、今回は西海岸も東海岸も経験することができました。本当にありがたいですが、改めて印象に残ったことがありました。

1.「スーパースター都市」とそれ以外の都市の差の大きさ

[1]スーパースター都市
スーパースター都市」とは

ニューヨーク、サンフランシスコ・ベイエリア、ボストン、ワシントン、シアトルであり、これらはアメリカで最も大きく、生産性の高い地域である。
これらの地域は一人あたりのGDPや収入が平均より非常に高く、高い価値を生み出すセクターの拠点となっている。ニューヨークなら金融セクター、サンフランシスコならハイテクセクターである。

Aaron Renn「Scaling Up: How Superstar Cities Can Grow to New Heights」
Manhattan Institute p.4から引用、筆者翻訳(Jan 2020)

とこの資料では定義されています。
今回滞在したのはシアトルとニューヨークエリアなので、どちらもいわゆる「スーパースター都市」です。なので、日々開発の圧力が感じられました。
[2]シュリンキング・シティ
一方で、フルブライトのセミナーで行かせてもらえたクリーブランド(オハイオ)のような縮小問題を抱える都市では、ダウンタウンのすぐ外側の幹線道路沿いに空き地が拡がるという状況でした。
中心部では、廃棄物の捨て場になっていた敷地を農地として活用し、地域に安全な食料を提供したり、地域の雇用を生み出し、子供たちの教育にもつなげる「アーバン・ファーム」づくりが行われていました。

クリーブランド中心部近くのアーバン・ファーム

その活動をしている人になぜ空き地が多いのか聞いてみたのですが、ご本人もすでに中心部近くからは引っ越しており、彼の認識としては「レッドライニング」(※アフリカ系アメリカ人の集中する地域に地図上に赤で線が引かれ、銀行から融資が受けられなかった歴史)が背景としてあるということでした。その後アメリカの大学の先生からは、さすがに60年くらい経っているので、もうレッドライニングが理由とは言い難いとは言われましたが。[3]アメリカの都市格差
アメリカは多極都市型ではありますが、資本が集中する都市(=人口の継続的増加)とそうでない都市の格差がさらに拡大していると感じました。
一方で、シアトルのような西海岸ではそういった「スーパースター都市」でダウンタウンの開発はどんどん進んでいますが、犯罪が増加したという印象を持たれていることによって地上は結構閑散としていたります。

夏になってシアトルのダウンタウンには人が戻ってきたのでしょうか。
観光客は増えていると聞きました。
(これは去年の秋の状況です。右のデパートは閉鎖しています。)

2.東海岸(北東部)と西海岸(北西部)はまるで違う国のようだ

これは単なる印象で、根拠があることではないのですが、東海岸に引っ越してきたときにまるで他の国に来たような気持ちになりました。この感覚を説明するのは難しいのですが、例えば
・アジア人比率(シアトルはもちろんアジア人比率が中心部で高い)
・スペイン語の存在感(北西部ではそれほどスペイン語は併記していないですが、ニューヨークエリアではテレビ番組やサインなど、ほぼ第二公用語のように使われています。アメリカは公用語の定めはないですけれど)
・・・などがありますが、一番大きかったのが
北西部では目が合うと挨拶するが、北東部では誰も「ハーイ」と言わない
ことです。
これはなぜなのか分かりません。東海岸に住むのが初めてだったので、結構違和感がありました。(ニューヨークエリアだけ?なんでしょうか)

北東部と北西部はどちらも経済的に大きく成長を続けるブルーステート(民主党支持州)であり、アメリカの中ではわりと近い感覚の都市同士だと思います。それでもそれとなく違いを感じるということは、レッドステート(共和党支持州)とブルーステートの間でお互いの価値観の激しい違いから相互理解が進まない、というのはそうなんだろうな・・・と思いました。
(下記NYTの記事でいかに民主党の実態が誤解されているかが書かれています。民主党が全て急進派であるわけではありません。)

20年前の前回滞在時に比べて、両極化と分断が進んでいるというのはニュースを見ていても感じます。ともあれ2回目の長期滞在だったので、特に前回のように経験からたくましくなったとか英語が上手くなったとか(多少は来る前よりマシにはなりましたが)あまりそういった感動はないのですが、その分都市についてより冷静に観察し、考えることができたと思います。

日本への学び

日本への学びは、立場や考えが違う人への相互理解の重要性をより感じたところでしょうか・・・漠然としていますが、分断を拡大することは、都市を不安定な状況に追いやります。アメリカはマクロで見れば分断が拡大している状況ですが、都市空間レベルでは、多様なアクティビティが共存しています。

特に公共空間はいろんな人が出会う場であり、Montgomery(1998)がPlacemakingについての論文で「公共領域(Public realm)」は公的・私的両方の役割を果たす必要があり、「心理的アクセス、受容性、(何が行われているか、場所への)知識」が良い場所を創ると述べていました。(Montgomery, John(1998) ‘Making a city: Urbanity, vitality and urban design.’Journal of Urban Design, Vol. 3, Issue 1)
そういった意味では、マンハッタンは治安の問題はあれど、公共空間では本当に多様な人が、多様な(自由すぎる)使い方をしており、それを当然のように受容することによって都市の活気を取り戻している感じがありました。
シアトルは先述した気軽に挨拶する状況も含めてもともと受容性が高く、公共空間における活動の多様さの共存がどんどん進んでいった結果として、少し進行しすぎた自由さが、逆に不安定さを招いた状況かなと思いました。

ブライアント・パーク:ニューヨークのすばらしい公共空間のひとつです。
多様な時間帯に、異なる種類のアクティビティを提供しています

都市ではもちろん安全が確保されていることが最重要事項ですが。日本の都市の場合、安全性はある程度基盤として存在している中で、もうちょっと受容性を高めてみてもいいのではないかと思いますが、これは長年の課題です。