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SOHOは誰のもの?にぎわいと、資本の流れ

SOHOはショッピングの場所として有名です。案内してくれたNYの大学の先生が「NYの原宿」と呼んでいました。(東京に詳しい方です)
確かに土日は人であふれています。ラドガーズ大学の先生もティーンエイジャーのお子さんがSOHOに行きたがるとおっしゃっていました。
とにかく人気の場所です。
SOHOがハウストン通りから南側、NOHOが北側なのですが、この周辺におしゃれな建物とお店が集積しています。

週末のSOHOは買い物客で大賑わいです

ジェントリフィケーションの典型例としてのSOHO/NOHO

ところで去年のニューヨークの都市計画界(そんなのがあるのかどうかわかりませんが)の大きな話題は、SOHO/NOHOのゾーニング変更でした。屈指の高級ショッピング/高級住宅地であるSOHOとNOHOに住宅を増やすためのゾーニング変更です。
基本的には、軽工業用の地域だったのを、現状に合う形のゾーニングにし、

住宅として使ってOK(現在は「アーティスト」以外は表面上は居住を認めていません)
商業用途で使ってOK(現在は個別許可でオープンしています)

とするようです。NYのゾーニング(用途地域)は建てられるものについての指定がとても細かいです。

SOHOはジェントリフィケーションの先駆者として知られていますが、流れとしては大体以下のような流れです

製造業に必要な倉庫(ロフト)の建物の集積
→マイノリティ雇用維持のため戦後の再開発を免れる
→製造業の空洞化
空いたロフトにアーティストが住み着く
→「アーティスト」と認められた人の居住を合法化
→クールな地域としてのメディアによる注目
→証明された「アーティスト」ではない人(お金持ち)が住み始める
→特別な許可を得ながら、大型店舗が次々と開業
→家賃や税金が高くなり、アーティストは外に出て行く
より高級になり、IT系企業などのオフィスも集積、パンデミック中でも史上最高価格で不動産が取引される(現在)
(一部Aaron Shkuda『The Loft of SOHO』University of Chicago Press(2016)参照)

マンハッタンは住宅が圧倒的に足りないので、アフォーダブル(手頃な)住宅などを増やす必要があります。いろんなところでその試みを実行しようとしたのですが、多くが地元の反対に遭い、結局、地元議員の賛同を得られたSOHO/NOHOでゾーニング変更が行われたようです。

賛同意見と反対意見

市のコミュニティ・ミーティングの記録を見ると、意見は真っ二つに分かれています。ゾーニング変更賛成派は
「好きでブルックリンに住んでいるんじゃない!自分たちもマンハッタンに住みたいんだ」
という意見だったり、反対派は
「開発が進んでアーティストが居続けられなくなったらこの地域はどうなるんだ」とか
「地域の人混みにこれ以上耐えられない!」とか
どちらの意見も理解できるものですが、世論的にはお金持ちの恵まれた住民たちが自分たちの権利のために反対している、というような見られ方をしてしまった部分もあり、ゾーニングは変更されることとなりました。

まるで『都市への権利』を地で行くような話ですが、歴史的建造物は保存地域として守られるようです。また、これまで無かった建物形態とサイズの制限が設けられることになります。
ただ、屈指の高級エリアにアフォーダブル住宅を立地させるかどうかは、これもまた難しい問題です。また、住宅を正式に許容することでさらに超・高級住宅が増えるだけ?という可能性もあります。

とはいえ、単純な対立構造で考えるべきでもないようです。前述のNYの先生が一階に商業テナントが入る収入で上に住むアーティストたちが生活を維持していた状況も教えてくれました。
ただし、

去年、SOHOのペントハウスが49million(約65億円)で売れた。それは14ヶ月前に35million(約47億円)強で購入したものであり、地域内の最高記録となった。

「Seagram Heir Eli Bronfman Is the Buyer Behind $35.625 Million Soho Deal; Edgar Bronfman Sr.'s grandson bought the condo in an off-market deal」The Wall Street Journal, 2022/5/6

などという記事もあったり、シアトルと同様に「資本貯蔵庫」としての役割が加速しているのも事実のようです。

現状、実はメイン通りの一階レベルは空き店舗が予想以上に多いです。
(人通りはすごく多いのですが)
これはもちろんパンデミックの影響もありますし、許可の問題もありますが、おそらく、賃料が非常に高すぎることが背景にあるようにも思います。

意外と空き店舗が多いです・・・もっとも、工事中も多いので、もう少ししたら新規開店ラッシュになるのでしょうか。