姫の一億円札を盗ったのは誰 Vol.2
親父の引っ越しが決まる1か月前、俺は親父に頼まれて嫁と実家まで向かう事になった。
どうやら親父は引っ越し前に家電を買い揃えておきたかったようだ。
「9時にはきてくれよ」
俺の家から実家までは高速を使っても1時間はかかる。
電気屋が開くのは10時からだったが、親父から9時には実家に来て欲しいと連絡があった。
親父は昔から休日は喫茶店に行かないと気が済まないという習慣があった。
だからこの日は電気屋に行く前にモーニングに行きたかったようだ。
かなり早く家を出ないといけなかったが、仕方ない。
俺と嫁は9時までに実家へ到着し、親父と一緒に喫茶店へ向かった。
親父はずっと通っているだけあって、メニューも見ずにモーニングのセットを頼んでいた。
俺は朝は米派だったから正直、喫茶店の朝のメニューに魅力を感じなかった。
それでも頼まない訳にもいかず無難にトーストのセット頼んだ。
程よく焼けたトーストを食べながら親父に引っ越しの日の相談をする事にした。
「引っ越しの日、貴子も手伝いたいってよ」
親父は俺のその言葉を聞いて嫁の方をチラッと見た。
「あいつは呼ばんでいい」
一瞬3人に気まずい空気が漂った。
そりゃそうだろう。
別れた嫁を、今の嫁の目の前で呼びたいと言っているのだから。
俺は非常識と言う事は重々分かっていたが、息子の願いだったから無下にできなかった。
親父はこれ以上、前妻の話を聞きたくなかったのか、新聞を見ながら週末の競馬の話を饒舌に語りだした。
(だから貴子の話はしたくなかったんだよ・・・)
俺はトーストを味わう間もなく、なんだか不完全燃焼な気持ちに苛まれた。
その後は電気屋に行って親父が買い替えたい家電をさっさと決め、当日の配送についての手続きなどを済ませた。
昼前にはこの日の用事が全て終わったので、昼ごはんを3人で食べに行く事になった。
実は親父と嫁は大の酒好きで、俺が嫁と再婚してから2人で度々お酒を飲んで盛り上がっていた。
この日も当然の如く2人は昼から酒盛りだ。
何が楽しいのか40歳も歳の離れた2人が酒を飲みながら盛り上がっている。
まあ、親父と嫁が楽しそうなら何よりだ。
そんな2人を横目に、俺は息子に前妻を呼ばないという事を、どうやって伝えるのか考えて憂鬱だった。
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