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魚屋の誇り、情熱の一尾 ~鮮魚店店主・前田尚毅~

私はプロフェッショナル仕事の流儀、という番組が大好きだ。そして、いつの日か、自分のこの番組に出ることをひそかに夢見ている。

やはり、飲食店を経営し、日々市場に通っている人間としては、「前田尚毅氏」の考え方に深く共感した次第である。

前田氏の扱う鮮魚は、全国のグランメゾン、いわゆる客単価2~3万以上のお店ばかり。前田氏の仕事のポイントは、大きく3つある。

1つは、漁師との関係性構築。良い状態の魚を仕入れるために漁師とのコミュニケーションを大切にしている。

2つ目は、良い状態の魚を仕入れて、魚のポテンシャルを最大限引き出してから飲食店に卸していること。

そして、3つ目。高級魚に固執していないこと。鰯や鯵などの大衆魚を、グランメゾンに卸している点。

1と2は鮮魚店としては基本的なこと。ただ、この基本をずっと継続していくことがいかに難しいことなのか。正直、自分にはマネできない。糸を緩めることなく、365日、顧客と向き合える数少ない人材だと思う。

ポイントは3つ目。前田氏はその日一番の魚を選んでいて、それが大衆魚なのか高級魚なのか、天秤にかけていない。ゆえに、前田氏が良いとするなら、料理人はコース料理の〆に迷わず鯵を出すことになるのである。

正直、この世界観は面白い。

一番面白かったのは、前田氏が市場から帰ってくるのは料理人自ら待ちわびていること。序列的には鮮魚店が上である。そして、料理人に譲ってやっているんだ、という矜持。この立場は、絶対的に努力している人間にしかできない。まして料理人が餌を待つ魚のようなまなざしで前田氏を見つめているのだから。本当にすごい話だ。

世の中には、一流の素材や料理人を嘱望する富裕層がたくさんいる。一晩で5万の料理に舌鼓をすることに対して何ら罪悪感がない。むしろ10万でも20万でも出すので、良いものを食べたい、という世界観がある。前田氏や、その周辺で生きる料理人たちが、そのマーケットで戦っている。

一方、私はその世界観で戦う人を賞賛しつつも、同じようにはなれないので、別の道を模索している。完璧な食材を仕入れることはできない。ただ、浦和市像という微妙な市場で、スーパーとは違った視点で四季の魚を見極め、それなりに良いものを仕入れる。そして、一人5万円ではなく、一人5000円で飲んで食って楽しめる世界観を創りたい。




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