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小児言語聴覚士が教える、子どもと仲良くなるコツ

こんにちは。言語聴覚士のななさんと申します。
お子さんに、ことば・コミュニケーションを教える仕事をしています。

ななさん、実は言語聴覚士になる前は、塾で小学生や中学生に教えたり、不登校の子のお宅に訪問し、勉強をサポートしたりしてました。

そんなななさんは、子どもと仲良くなるコツをすこし知っています。
というか、この仕事をやってると、子どもと接するの、そこそこうまいね?となってくるのです。やはり、多少の心得があると全然違います。

たとえば、とあるパーティー(通っている料理教室の○周年イベント)で、大人の席に連れ出されて退屈している5歳の女の子がいました。実は、彼女とは以前に料理教室で会ったことがあり、その際にもわたしのことをえらく気に入ってくれていました。

わたしの座る椅子の周りをぐるぐる回り、机の下に潜ってそこから何度も顔を出し、わたしを驚かせて気を引こうとし、ぴょんぴょん跳ねていました。後日、そのパーティ会場でわたしを見かけると、もじもじしながらそのときの遊びの続きをリクエストしてくれた…というわけです。

わたしが彼女とした遊びとは、、、なんてことありません。ただのじゃんけんです。わたしが座っている椅子の下に彼女が潜り、顔を出した瞬間にじゃんけんを高速で繰り返すという謎のプレイ。特に意味はありませんが、エキサイトしてくれました。

仕事でお子さんのご相手をするときには全力でホスピタリティを発揮します。声を張り、笑顔を見せ、身体を大きく使い手振り身振りをします。仕事なので。
しかし、オフはオフです。なるべく汗をかかずに省エネモードで、カロリーを温存しつつ、お相手をさせていただいております。

とはいえコミュニケーションを取るにあたり、最低限満たすよう心掛けていることはあります。これを守るだけで、大抵の子どもとはうまくやることができます。先ほどのお嬢さんのようになついてくれることもあります。

これってひょっとして、お役立ちなのでは?

子どもと接する機会がなく、いざ交流しようとするとまごつくことってありますよね。それって普通です。子どもって、話は合わないし、すぐに緊張するし、かと思えばすぐに飽きちゃうし。それが子どもです。

ぜひこれを読み、今度、年に1度しか会わない親戚の子に実戦してみてくださいね。

コツその1 親に先に挨拶する
コツその2 しゃがんで目線の高さを合わせる

これはコツというか、初歩的な礼儀や社会常識です。
臨床実習生の指導を担当すると、必ず初日にこれを伝えます。親に先に挨拶する。保護者に挨拶しないで先に子どもに話しかけるのは、やってはいけない初歩的なNGです。NGですよ。逆に、成人した入院患者さんにご挨拶するときに、付き添いのご家族に先にご挨拶するのもNGです。認知症の方でも、意識の無い方でも、サービスを受ける当人に、先に挨拶します。

また、挨拶のときは必ずしゃがんで、子どもと目線の高さを合わせましょう。あなたと親しくしたいよ、というメッセージを身体で伝えます。
ちなみに、目線の高さを合わせるのは、車椅子に乗った方、ベッドに寝ている方、杖をついた高齢の方、etc,,すべての方に同じくです。
相手に敬意を表す、いちばんシンプルな方法です。

コツその3 基本的に話しかけない

とんち話のようですが、楽しく話をするためには話しかけてはいけません
これは意外と知られていませんが、子どもはべらべらとやかましい大人よりも余計なことを言ってこない大人のほうが好きです。

大阪のおばちゃんを想像してください。

「うわ〜!タクちゃんえらい大きなって〜〜、お父ちゃんによう顔似てきたなぁ〜〜!男前やぁ!おばちゃんびっくりしたわぁ、ようけ食べとる?我慢せんと取って欲しいもんあったら言いや〜!?」

…とまあ、こういうこと、ありますよね。

ごくりと唾を飲み込んで黙り込む少年・・・。
盆や正月によくみる光景です。

このあと大抵、寡黙に新聞読んでるじいじの後ろか、ゲームをやってる親戚のお兄ちゃんの横に陣取り固まります。

たとえばわたしが、初対面のお子さんとマンツーマンでご挨拶するときはこんな感じでやってます。

わたし「(目を合わせてからひと呼吸おいて・静かな声で)こんにちは」
少年「・・・・・・(ママを見上げる)」
ママ「ほら、たくちゃん、先生にご挨拶しなさい、こんにちはは?」
少年「…こんにちはぁ…」
わたし「こんにちは、ありがとう」

こんなかんじ。
返事が返ってきたからと言って、嬉しくなって「あら〜上手にご挨拶できたね〜!偉いわぁ〜!」などと、畳みかけてはなりません。

お子さんとの距離を縮めようと、急いてこちらが先に動き出してはいけません。向こうが詰めてきたら、そのチャンスに、こちらも同じ歩数だけ歩み寄る

コツその4 はじめの質問は、長くて3語文

初めてお話するとき、お子さんの会話能力の感じがわかりません。また、よく会うお子さんでも、いきなりだらだらと長文で話しかけてしまうとびっくりされてしまうかもしれません。

わたしの場合はたいてい1語から最大3語の長さの文で質問すると決めています。

「お名前は?」
「いくつ?」
「(手に持っているもの・洋服のプリントなどを指して)それなあに?」

何聞いていいかわかんない〜という人は、名前・年齢・目の前にあるものの3つから質問を選ぶと無難です。

ちなみに言語発達のめやすとしては、2歳児は2語文くらい(例:ばなな食べる)、3歳児は3語文くらい(例:パパが車で来た)の長さの文を理解できるとイメージしておくといいでしょう。

<ことばの理解力めやす>
2歳 2語文    例:でんしゃ きた
3歳 3語文 例:パパ かいしゃ 行った

通りすがりの親子の会話を観察すると、幼児の理解力を超えた長さの文で話しかけている親御さんが意外と多くいらっしゃいます。障害児さんの場合ではそれではかなり困ることが多いので折をみて親御さんにお伝えしますが、健常児さんだと文脈や声の調子などの周辺情報を読み取る力が高いので、ことばの理解力が追いつかなくても意外となんとかなっているのです(内容の正確な理解があるわけではない)。

わたしたちが英語を習いたての頃、リスニングテストにとても苦労したことを思い返してみてください。2〜3歳の幼児さんはあんな感じで聞いているんですよ、意外と。

コツその5 目の前のことを聞いてあげよう

世の中の話題には2つあります。

それは、目の前にあるものか、目の前にないものか。我々の業界では現前と非現前、と呼んでいます。

<話題の種類>
現前・・・目の前にある
非現前・・目の前にない

当然、より難しいのは非現前です。
個人差はありますが、非現前のことがらについて上手にお話しできるようになるのが、だいたい4歳くらいです(例:今日保育園で何したの?)。

さらには、「もしも〜」や、「〇〇たら、××できないよ!」など、仮定や条件の表現では、実際にはしていない経験、複数の情景を掛け合わせて思い浮かべる必要があり、非現前の中でもさらに高度です。充分に理解した受け答えが多くのお子さんではじまるのは5歳くらいです。

というわけで、いきなり非現前の話題を振るのはやめましょう(例:たくちゃんは大きくなったら何になりたい?)。

コツその6 シャイな子にはひとりごとを聞かせてあげよう

恥ずかしがり屋のお子さんには、そもそも質問をしません。その代わり、ひとりごとを聞かせてあげます。

「あー失敗しちゃった〜」
「あれれー?ボールどこー?」
「うわ〜おっこちた〜〜」

抑揚をつけたり、間をたっぷり取るようにして、お子さんが横から口を挟みやすい状況をつくります。
緊張しやすい子には、大人があえてわざと軽く失敗して見せることで緊張をほぐすことができることが多く、わたしはよくこの手を使います。しまった!系のひとりごとを軽ーくジャブで挟むと、だんだんクスクスしてくれるようになります。小学生も、先生が失敗するシーンを見るのが好きですね。わざと消しゴムおっことしてみせたりしてます。

コツその7 というか、ことばじゃなくて良い

そう。実は、なにか話しかけよう!と気負わなくてもよいのです。むしろ、頑張って話しかけると、そこに緊張やぎこちなさが出てしまい、うまくいかないことがあります。それより、「あ!」とか「お!」とか「ふふん」とか。あとは鼻歌がいいです。身体って相手と同期するようにできていまして、低年齢の幼児さんほどそれが顕著です。ほどよくこちらが声を出していくと相手も声を出しやすくなることがあります。

コツその8 言語聴覚士や保育者などがよく使うテク

実はテクニックがあります。学校で習いました(笑)それは、まるで鏡のように子どもの手の動き、顔の表情、出した声をすかさず真似をすること。ミラリングやモニタリングと呼ぶこともあります。

舌をぺろっと出したら、こちらもぺろっと舌を出します。頭を掻いたら頭を掻きます。お尻を叩いたらお尻を叩きます。バンザイしたらバンザイします。身体を傾けたら身体を傾けます。笑ったら笑います。「あれ?」と言ったら「あれ?」と返します。

たいていの子どもはこれをとても喜んでくれます。面白がって繰り返し求める子もいます。

そうしたら、こんどはこちらからも仕掛けます。2本の指でトコトコしてみせたり、目を開いて驚く顔をしてみせたり、肩をすくめてみせたり、足踏みしたりします。恥ずかしがり屋さんもニヤッと笑い返してくれます。小さな幼児さんでは、口に手を当てて「アワワワワワ」や、唇を震わせて「ブー」などをやって見せると喜びます。
年長さんくらいのお子さんでは、カウントダウン「3・2・1」やせーの・せーで、といった掛け声、じゃんけんなどを楽しめるので、よく使います。

コツその9 話題を広げない・変えない・進めない

ある程度の会話が続くお子さんが相手にも、このテクニックは応用できます。相手の言った内容を繰り返すことで会話を続けていく方法です。広げたり、変えたり、進めたり、奇想天外な方向に誘導したりは基本的にはしません。むやみに面白いことを言おうとせず、聞き役に徹するのがベストです。

子ども「これ、たっくんちにもある!」
わたし「そうなんだー、これたっくんちにもあるんだねー、へええ」
子ども「(得意気)うん!それでね、たっくんちのは青色!」
わたし「青色かー」
子ども「パパがメルカリで買ってくれた!」
わたし「メルカリで買ったんだ、いいねえ」

ご覧のように、基本的にはお子さんの話の内容をただそのまま繰り返しているだけですが、これで会話は問題なく続きます。ことばがすこし足りないなと思うときだけ最小限補ってあげたり、整理してあげるだけでよいのです。

子どもと話すのが苦手な大人はこういうとき、

「へえ、他にも同じの持ってるお友達いる?いま保育園で人気なのかな?」

と、矢継ぎ早に質問し、話題を性急に進めてしまうことがあります。
こういうのは、極力無いほうがいいですね。

先ほども言ったように、大人と会話ができるようになったお子さんでも大人とまったく同程度の理解力があるわけではありません。

大人にくらべると考える時間も長く必要なので、話題が急に変わると対応できませんし、自分が話したかった方向とずれることで、軌道修正に戸惑う子も居ます。

仮に、話題を新たに変えたいと思うとき、わたしはこうしています。


「ところでさあ、教えてほしいことがあるんだけど、あのね、この玩具保育園でみんな知ってるの?」
【 意図 】
「ところでさあ(補助①)、教えてほしいことがあるんだけど(補助②)、この玩具保育園でみんな知ってるの?(「人気」ということばを知らない子だったのでこの表現を避けた)」

その時点までで集めた情報を使って相手の会話能力を推しはかり、こうした補助をちょこちょこ挟みつつペースを調整しています。このちょこちょこ挟む補助によって、「質問くるぞ!」と心の準備ができたり、考えるゆとりが生まれたりしますよね。

さいごのコツ 年齢や能力は違っても尊厳は同じ

挨拶のとき、「目線の高さを合わせること」は、相手に敬意を表すもっともシンプルな方法だとお話しました。

相手の理解力や考えるペース、話したい話題に合わせることも、同じく、「あなたを尊重します」という意思表示です。

会話のレベルを下げることを、「相手を侮ること」、「馬鹿にすること」だと考えている人に足りないのは、相手への敬意です。それに気が付かない人が表面のテクニックだけを磨いても決してうまくいきません。

0歳でも100歳でも、相手の方に知的障害や認知症があっても、それは変わりませんね。

いただいたサポートは、ことばの相談室ことりの教材・教具の購入に充てさせていただきます。