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【小児ST】支援が足りないのに求人が少ないのは、育成コストを負担するのがしんどいから

「発達支援をやる言語聴覚士はなんで少ないの?」

あちこちで聞かれる。
自治体の言語相談には常に待機リストがあるし、年度で入れ換え制を取り、就学で終了にし、それでもなお、ぜんぜん足りない。

「需要があるなら、どんどん増やしたらいいのに」

それほど話は単純ではない。
「言語聴覚士」の看板が付いていたとして、「ママの話を親身になって聞く」ていどの茶話相手を求めているわけではないからだ。

言語聴覚士側の言い分はこうだ。

「小児は求人が少ないし、あってもその給与水準じゃ食べていけない」

特に新卒・未経験では自分の能力の伸び高を見積もる方法が限られているので、リスクを取りづらい。

需要が爆増しているのに、求人が無い

需要が爆増しているのに、求人が無いという、一聞するとおかしな状況になっている。
だが、業界の内側から紐解けば、すぐに理由はわかる。
人材育成コストを誰が・どこが負担するのかという課題を解決できずに来てしまった結果だろう。求人は経験者ばかりだし、臨床実習生を取らない。

・・・

誰でも簡単にやれる仕事ではないから価値がある

私が伝えたいのは、「小児臨床は、給与が低いなんてことはないよ、敷居が高いなんてことは無いよ」、ということではない。確かに給与は低いし敷居は高い。

特に交渉の場でカードを何も切れない新卒未経験の給与水準は低めで、それは自分を育成するコストを9〜10割自分で引き受ける状況と言い換えることができる(たとえば利幅が大きく取れる回復期リハビリ病院などは、新人にもそれなりの額面を提示できる)。

敷居も決して低くはない。「子ども」というジャンルも、ある種の教養である。たとえば絵本や児童文学の世界を覗くと果てしない宇宙が広がる。
ほかにも、知育、受験、保育、教育、さまざまな産業にそれぞれの歴史的文脈がある。豊かな市場で目が肥えたお客さんの前で、言語聴覚療法だけの世界では太刀打ちできない。

能力の希少性に社会の需要が掛け合わさり得られるリターンにまだ気づかれていない

しかしだ。敷居が高く参入が難しく、そして需要がとんでもない勢いで伸びているということは、スキルが備わったとき、その希少性をもとにしたリターンはけっこうすごい

ちなみに、現状、得られる可能性のあるリターンを年収に反映させていくには転職や副業が前提になるだろう。
入った職場にそのまま居続けた場合の昇給レンジは知れているからだ。

幸い、言語聴覚士法は名称を看板に掲げての自費診療を認めているし、小児臨床と開業や起業の相性はかなりよく、そうした道もある。医療行為のような危険性を伴う内容が少ないためである。

現に開業2年目の私の去年の収益は、会社員時代の手取りをはるかに超えている。
固定費がかかるのでまるまる利益というわけにはいかないが、長期で償却していく経費を除けばほぼ倍になったと言ってもよいかもしれない。みんながみんなそうなるわけではないが、取るリスクに見合った青天井はあると思う。
しかも、まだ見つかっていない。

SNS発信とも相性がよい

ちなみにSNS発信と相性がよいのも当然、高齢者領域より小児領域だ。
なぜって主な対象者が育児世代で、ちょうど20代後半〜40代のSNS世代だからである。

高齢者のリハビリについてSNSで発信しても当然そこにお客さんは居ない。居るのは専門職だけだ。だからSTからST向けの内容になる。
STは全国で4万人、そのうちSNSで情報収集を行なっているのはざっと見積もって5,000人居ればよいほうだろう。STの高齢者向け市場規模が大きいので勘違いしている人もいるようだが、インターネットに限って言えば、その5,000人のパイの奪い合いをしていることになる。

参入へのリスクは今が底で限りなく低い

小児臨床への参入障壁、それに伴うリスクは今が底である。各地に児童福祉施設がうごうご誕生し、支援の質を求めるステージに入った。
質といっても、無資格者で回していたものを有資格者に入ってもらう段階の質上げなので、ST側からするとかなり恵まれた状況である。

既に成人領域の経験がありそこのスキルで食いっぱぐれない状況を作れているSTならば、なおさらリスクが低い。向いていないことがわかったら撤退しても、別の道があるからだ。国家資格に守られている。
ちょっと掛け持ちでアルバイトして、向いているかどうか確かめるくらいのリスクが取れないなんてことは無いだろう。

もう一度言うが、小児未経験ST参入のしやすさは今が底である。今より低くなることはさすがに無いと思う。
なぜならこれからどんどん少子化が加速するし、子どもの数が少なくなるほど社会は敏感になる。評価の目が厳しくなる。事業所もかつてのようには増えないだろう。集客に苦労し出している学習塾や知育教室が、ノウハウを活かして続々と発達支援に乗り出している。

小児臨床やろう

とにかく人手が足りてない。それは"やれる"人手が足りないのである。
やれるようになるには、一般的には3年、最低1年は必要だ。向いているかどうかはやってみないとわからないが、向いていれば数年で超希少人材になれる。
STのみなさん、あなたの人生の数年を、「小児臨床が向いているかどうか」を検証するために使ってもらえませんか。

お金や人気がすべてではないですが、オイシイ思いができるよ、という誘い文句が響く人も居るんでねか、という意図で書いてみました。

小児STやろう?

おしまい。

いただいたサポートは、ことばの相談室ことりの教材・教具の購入に充てさせていただきます。