「トップガン マーヴェリック」の感想(ネタバレあり)
前作を観てから鑑賞
今作を鑑賞前に前作のトップガンを初めて観たけど、今観てもとても面白かった。
特にオープニングの役名もない男達が夕陽をバックに飛行準備をしている中、印象的なトップガンのテーマ曲のイントロからエンジンの点火と共にお馴染みの「デンジャーゾーン」に食い気味に変わり、飛行シーンになっていく、この一連の流れがなんとも味わい深くて好き。
今作もこの雰囲気をそのまま現代にトレースしたオープニングで映画が始まっていくのだけど、これが前作の精神をしっかり引き継ぐという宣言にも見えるし、エンドクレジットにも出るトニー・スコットへの手向けみたいで、このオープニングの時点で結構泣いてしまった。
そして前のトップガンで僕が一番感動したのが、トムがギリギリを飛んで管制塔の上官がコーヒーをこぼすシーンで、ラストにそれを繰り返す事で友の死を乗り越えてマーヴェリックが再びヤンチャさを取り戻すことを表しているのだけど、今作のラストは更にそれをなぞる事で「俺はまだしっかりここにいるぞ」とトム・クルーズ自身が宣言してるみたいで、まあ泣いた。(ここの信じられない奇跡を見るようなジョン・ハムの表情がまた良い)
それでいて前作でも結構迫力のあった戦闘機シーンを更にパワーアップしている、というかマジで撮ってるシーンの数々に度肝を抜かれる。
大事なクライマックスのフライトシーンなのに何が起こっているのかよく分からなかった前作とは違い、今作はどのシーンも格段に見やすい、しかもCGをほぼ使ってないというのだから凄い。
撮影の為に凄まじい飛行訓練などを実際に行い CG全盛の今、身体を張ったアクションや撮影でこれだけ圧倒的な驚きを体験出来るとは思わなかった。
マーヴェリックと映画人トム・クルーズ
という感じで前作を復習した直後に行ったので、今作のマーヴェリックの登場シーンからかなりグッときてしまった。
秘密基地みたいな住まいに飾ってるグースの写真、今も変わらず着ているジャケット、愛用しているバイク、そして出だしから相変わらずめちゃくちゃ危険なミッションに挑戦している彼の姿が前作の終わりから変わらず、そこに居続けているのを示しているみたいだ。
しかし未だに大佐のまま現場から離れられず身体を張り続けている訳だけど、前作から時代は変わり軍のドローン化が進み、彼の様なパイロットの存在意義が揺らいでいる事が分かってくる。
この映画がまず凄いのは、このマーヴェリックの現在がそのまま映画人トム・クルーズのフィルモグラフィとも重なってくる作りになっている所だった。
CG全盛期のハリウッド映画が主流の中で危険なアクションに挑み続け不器用なまでに生身の感動にこだわるエンターテイナーの彼の映画人生が、劇中のマーヴェリックのストーリーとも繋がり、ストーリー内での不可能なミッションをこなすマーヴェリックに感動してるのか、こんな無茶な映画を成立させたトム・クルーズに感動してるのか、よく分からないまま泣きながら観ていた。
劇中で言われてて笑ったのだけど「その顔やめて」と言われても、変わらないトム・クルーズの顔しか出来ない人なんだと改めて感じる。
終盤ルースターの為に彼が犠牲になったかと思いきや「そこからどうやって助かるの?」という展開も凄く良かった。
それまで如何に今回のミッションが大変なのかを丁寧に観せられてきたからこそ、まさか墜落後、敵機を奪って普通に帰ってくるという予想の斜め上具合がザ・トム・クルーズ映画という感じで最高。
ただそこまでちゃんと段階を踏んで丁寧にお話が積み重なっていくし、更にユーモアも混みで書かれた脚本も本当見事だと思う。
次の世代へのバトン
今回の映画ではトムだけがメインで活躍するこれまでの映画と違い、しっかり次の世代への継承も示しているのがまた涙腺を刺激された。
当然トム・クルーズ映画なので、ただ単に教官として教えるだけな訳はないと思ってたけど、自分がまず身体を張りそれを見せる事で彼等を導いていくというのが、トム・クルーズらしい継承映画で面白い。
冒頭のエド・ハリスとの会話でも言われた通り、いつかトム・クルーズ映画の時間は終わりがくるのだけど、まだその時ではなく、だからこそ終わりに向け次の世代と一緒に映画を作っているみたいで、トム・クルーズの映画が次のフェーズに入っていく感動があった。
特に重要な継承の相手が監督の前作「オンリー・ザ・ブレイブ」でも魂を託される役で名演を見せていたマイルズ・テラーなのが良い。
セッションとかもそうだけどこの人は本当何かを誰かから教わる役が未だにピッタリハマる俳優さんだ。
マーヴェリックとの事故で亡くなり、ルータスは父親とほとんど一緒にいる事が出来なかった人だけど、これは前作のマーヴェリックも同様だった訳で、父親の愛情を受けられなかった二人が同じ戦闘機に乗って疑似的な父息子関係になっていく展開がとても胸にくる。ラストの会話にも、もちろん落涙。
その後映画最初の1人だった朝と対になる様に、ルースターがいて、ペニーを招いている彼の住まいの場面で終わるのがマーヴェリックの孤独からの解放を示していてとても美しい終わり方。
ジョセフ・コシンスキー監督
ジョセフ・コシンスキー監督はトム・クルーズとの仕事だと「オブリビオン」が印象的だけど、個人的には監督前作の「オンリー・ザ・ブレイブ」がめちゃくちゃ傑作だと思っていて、命の危険を伴う仕事の過酷さと、それに携わるタフな人達のドラマ演出、その両方を描ききった手腕が本当に素晴らしかった。
そしてその手腕が今回も遺憾なく発揮されていて、キャストの顔つきがみんな良くて、それぞれの人達に人生の重みを感じる記号的じゃない魅力的に溢れていた。
あとデカい戦闘機を引きでカッコよくそれでいて美しく撮る画面設計力は「オンリー・ザ・ブレイブ」「オブリビオン」でも大自然を雄大に撮れていた流石の腕前。
印象的な登場人物
脇を固めるキャストもみんな良かった。
ジェニファー・コネリーは「オンリー・ザ・ブレイブ」から引き続きヒロイン的な役回りだけど、今回は相手を「見送って帰りを待つ」といういかにもジャンル映画的な女性像じゃないのが良かった。(オンリー・ザ・ブレイブは実話モノなので当たり前なのだけど。)
トムが帰還しても居なくてちゃんと自分の人生を生きてる人と描かれていて、逆にトムが彼女の帰りを待っているという構図になっているのも凄く好き。
ハングマン役のグレン・パウエル、「ドリーム」「エブリバディ・ウォンツ・サム」などでも印象的だったけど、こういう昔ながらのど真ん中アメリカ俳優って佇まいが素晴らしい。
ルースターのライバルで前作で言うとヴァル・キルマーのアイスマンの位置になるのだけど、腕があるだけに他を置いていく傲慢さはグースが亡くなるまでのマーヴェリックとも近い存在感。
グレン・パウエル自身は元々ルースター役を狙っていて、この役になったらしいのだけど、それを知ってから彼のラストの活躍シーンを観るとかなり味わい深く感動する。
ジョン・ハム、最近は悪役の印象が強く、最初の方は嫌な雰囲気を出しているのだけど、冷酷にも思われる役割を自らに課している人でもある。
だから不可能な事を不可能と言わないといけない、この映画を締める為にかなり重要な役でもあった。
でもトムが自分の想像を超える様な突拍子のない事をする度に戸惑いつつもちょっと嬉しそうにも見える表情をするのがとても良くて、ラストマーヴェリックが帰還してきた時の色んな感情込みで信じられない奇跡を見る顔と、その後の頷きシーンが最高に泣けた。
そしてなんと言っても実際咽頭がんになり声が出にくいヴァル・キルマーがそのままの佇まいで出てきて、トム・クルーズと話すシーンはそりゃ涙が出てきてしまう。
お話し的にもマーヴェリックが軍に居続けたというか、居続けられたのは彼の存在があったからなのが分かるのだけど、ここでマーヴェリックが涙を見せながら弱気になっているのも凄くグッとくる。
同じ時間を共有してまともに心を通わせられる相手が彼しか居なくて、だからこそ前作のグースの役割を担う様に彼が亡くなりマーヴェリックが再び自分と向き合っていく。
あと彼の死を悼むお葬式シーンが切ないけどとても華やかで、これまで映画で観たお葬式シーンで一番好きかも知れない。
というわけで、めちゃくちゃ最高としか言いようのない作品だった。
個人的には今年の映画の中でもぶっちぎりのナンバー1の傑作だと思うし、歴代トム・クルーズ映画の中でも一番好きな作品になった。
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