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「シュシュシュの娘」の感想(ネタバレあり)

入江悠監督最新作。

監督の舞台挨拶付きで鑑賞。
製作にあたりコロナ過でミニシアターを支援をするべく、映画作品を作る事で応援しようとする想いや、今や売れっ子監督であるのにこういう小規模作品でミニシアターをまわりながら映画を観た人と対話しようとする姿勢は本当に立派だと思う。

ルック

映画としてのルックの部分は自主映画的な貧乏臭さは一切なくて、低予算映画なのに撮影も美術も凄く良かった。
それと主人公の家や、市役所内の雰囲気、どこを切り取っても地方都市の息苦しさが伝わってくるロケーション選びもバッチリだったと思う。
特に主人公の住む家の薄暗い感じは地方都市の良い家って感じでとても重厚な雰囲気がある。

あと監督も話されていたけど、1番お金が掛かった主人公の忍者衣装も上質でとても良かった。一歩間違えたら馬鹿っぽくなりそうなのに、しっかりカッコよく見えた。

物語としての魅力のなさ

しかし、お話しや演出部分がどうしても僕は評価出来ない所が多かった。

まず本来物語のメインであるはずの「動画の内容を世間に知ってもらう」という目的がラスト周辺でカタルシスにあまり繋がらないのが良くない気がして、居酒屋での大殺戮ショー(というか、あれみんな死んだの?気絶してるだけなの?スッキリしない、、、)の方に、見せ場が持っていかれるのはどうかと思う。
あの動画を見た事であの町の人がリアクションするシーンが必要だった気がするし、あの悪人の皆さんはそれによって法で裁かれるべきだし、全員殺してめでたしというのはとても馬鹿っぽい。
主人公が暴力で解決した事による虚しさみたいなものもないし、とても浅い後味。

それと上映時間が短いのは良いと思うのだけど、僕は登場人物の描き込みがかなり不足していると思う。

親友役の女性がなぜ主人公と仲が良いのかよく分からないし絶交になる展開とかも、別にあの男と親友の繋がりがある描写があった訳ではないし、いきなり「私の男に手を出しやがって!」みたいな喧嘩になる所は高校生じゃないんだから、みっともない、、、としか思えずギャグなのかなんなのか分からなかった、、、

ライバル忍者もなんとも煮え切らない存在感。
主人公に対しあの感じで色仕掛けで惑わす感じは面白いし演じた吉岡陸雄のヘラヘラ良い人感が絶妙に地方都市のヤリチンとして説得力があって良かったけど、途中で吹き矢手伝ったのはなんだったの?
ラスト出てきたのはどういうつもりだったのか?主人公を殺す為?その割には弱すぎない?ギャグだから良いのか?など僕はなんかよく分からなかったな、うーん、、、

敵である市役所の人達や、自警団の人達もあまりに記号的な悪い奴らという感じ。ビジランテを撮った人とは思えない浅い悪役像でかなりガッカリした。ラストの市長の居酒屋での演説も政治批判のやり方がど直球過ぎて聞いてて逆に恥ずかしい。
それと今の時代に大事なデータのUSB奪っただけで安心してしまう悪役って、どんだけ古い時代感覚なの?とても2021年の映画に思えない。

主人公の魅力のなさ

主人公自体も魅力を感じなくて、周りの状況に流されているだけだと思った。
終盤のリベンジも彼女自身が自発的にやっている様に見えなくて祖父の想いに沿って行動しているだけだ。大事なUSBの入手シーンなど、ここぞという所で結局他の人の助けなどラッキーのみでミッションをこなしている感じで燃えない。
僕は最後くらいは彼女自身から生まれた切実な想いで行動しているシーンが必要だったと思う。

ラストの余韻とかも全然良くなくて、あんな大殺戮をしてその後生きていける未来が想像できない。映画が終わった後、登場人物の人生に想い馳せる事が出来ない映画だと思う。あくまで作り手がやりたい事をやる為の記号。

お前は他の人より気配が少ない、っていう彼女の才能っぽい部分も全然活きないし、毎朝踊ってるっぽいダンスもよくわからないし、血筋とかじゃなく彼女が兼ね備えたモノで忍者の才能が開花されないのも上手くないなぁと思う。

そんな感じで作品としてトータルでは正直全然面白くなかった。

撮影に参加した人達との絆や、協力してくれた人の暖かさ、ミニシアターへの熱い想いなど、監督が舞台挨拶で話されていたけど、僕はそれが作品の面白さに繋がっている様には観えなくて申し訳ないけど
あくまで作品としてのブラッシュアップがもっと必要だったと思う、、、。

同時期にコロナ禍で製作された石井裕也監督の「茜色に焼かれる」とかと比べると、どうしたって見劣りしてしまう。
あちらは今の世の中に対しての怒りや、それでもかすかにある希望の様なものを切実に描ききった大傑作だったと思う。だけど、今作は今どうしても作らないといけなかった物語としての切実さをあまり感じる事が出来なかった。

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