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2023年の本ベスト約10冊

…というタグが某XというSNSで盛り上がりを見せる年の瀬になりました。
例によって僕も今年読んだ作品(小説)から10冊選んでみましたので、よければ覗いていってください。あらすじはなく、いきなり感想から語り始めますので、読後の熱量だけをお届けする記事となっております。自分で言うのもあれですが、けっこう癖あると思います笑

注)今年刊行された本以外も含みます。紹介順は順位ではありません。


奏で手のヌフレツン/酉島伝法

遠大で幻想的な世界を描く神話・頌歌でありながら、太陽をめぐる摂動の中に「命」の普遍的、根源的な営みを感じました。荘厳な音楽を身に浴びた時に鳥肌が立つ体験ってあると思うんですが、それと同じ類の感動を物語で味わえるとは思いませんでした。すんごい。
酉島さんならではの造語のオンパレードなんですけど、読んでいると、不思議なことにスルスルっと頭に入っていくようになる時が急に訪れるんですよね。読者の想像力が存在する階層をぶち破って飛躍させるような筆力がもうただただすごい。僕が読めたんだから普段SF読む人は読んでほしい。
『皆勤の徒』が未読なのでわかった口きけないけれど、たぶん圧倒的にこの作品のほうが読みやすいと思います。
いち読者になれたことに感謝。

エレファントヘッド/白井智之

は~もうまじですごい。放心ですよ。色んな意味でどうやったらこの話が思いつくのかわからない。また一切の事前情報なしで読んでください系の傑作が爆誕してしまったな。
発売以来、僕のXのタイムラインをずーっと(今も)席巻しているミステリです。もうとにかくすごいので、白井智之作品に免疫があると自覚している人は必ず、そうでない人も勇気出して手にとって読んでみてほしい作品です。事前情報はなければない方が至高の読書体験度は上がると思います。

ディアスポラ/グレッグ・イーガン

ぐはあ。これはUSHHSF(※)
それでも断片的にわかる箇所をストーリーと接続して読み進めてみるとしっかり「小説」で、読み終わった時の満足度が果てしない。思考を超非現実のその先にトリップさせたい方、ぜひ。絶対SFでしかできない読書体験。
なんですかね…読破したはずなのに、内容に言及できるだけの能力を僕が持ち合わせていないのもありますが、すごすぎて言語化がほんとにできないんですよ。
文字情報の塊が「最高の読書」になって襲って来るさまをぜひ皆さんにも味わっていただきたい。SFってこういう「わからないけど面白い」体験ができるから知的好奇心を刺激されてたまらんのですよね。

※ウルトラスーパーハイパーハードSFの略。

ゲームの王国/小川哲

史実としての不条理も、SF的要素も、荒唐無稽とも思えるキャラクターも、”ゲーム”というモチーフも、すべてこの『ゲームの王国』という物語のために全力で奉仕している。暗闇の中を弄るように進む展開の先に待つ2人の運命。ちょっとこの読書体験は別格でしたね…
ストーリーもめちゃくちゃ面白いんですが、たまに破壊力抜群(ぜひお確かめください)の文字列が出てくるので感情の振れ幅がバグるんですよね笑
『地図と拳』も大傑作だと思いましたが、『地図と拳』よりさらに自由に書いてる気がしてまして、個人的に『ゲームの王国』の面白さの方が上回ってしまった感があります笑

ハーモニー/伊藤計劃

言わずと知れた夭折SF作家の代表作。読むのがもったいなくてけっこう温めていて、満を持して2023に読みました。
人類へ向けたハーモナイゼーション。意識の果て。双曲線が双曲線で無くなるとき。物語の向かう先も、無機質だけど鮮麗な文章も刺さりまくりました。
『虐殺器官』もそうでしたが、これほど”現在と未来の接続”が体現されている物語はないと思います。

追想五断章/米澤穂信

5つの結末のない物語によって辿り着く真実。終始漂う淡い靄のような雰囲気がこの作品を格調高いミステリに仕立てている気がしました。長編の中の作中作という構造と、その一つ一つの物語が傑作で完成度がすごいです。
なかなかこういう趣のミステリって自分は読んだことがなくて、独特の読後感に虜になってしまった作品でした。

ソラリス/スタニスワフ・レム

冒頭から散りばめられる謎、度々挟まれる「ソラリス学」の(虚構の)科学考証パート、〈海〉とは何かという物語の帰着地点。全部ドンピシャにハマってしまい、SF読み始めて良かったな〜としみじみ思っています。作者の思考の徹底度には敬服せざるを得ません。
訳者さんの解説でいろいろ腑に落ちたところも多分にありまして。「人間形態主義への皮肉」を主眼に置いたSF的な物語への拡張がほんとに最高でしたね…。ラブロマンス的な部分は本筋ではないと捉えて読んでたので、解釈一致でちょっとうれしかったです笑
ふーん、なんか有名なSFでも読むか〜って半ばノーマークで読んだんですが、読み終わったら名作!!ってなったんですよね。古典SFの括りだと思うんですけどこれちょっと色褪せてなさすぎでは?

幽玄F/佐藤究

あるひとつの幻象とともに、重厚ないくつもの成分が頭の中に幽玄と溶け込んでいく。天才パイロットしか辿り着けない超感覚的な世界と、常人がふと空を仰いで思い得るような感覚は対照的でありつつも実は相補的なのかもしれない。
これは語るべき要素が多すぎてXの1ポスト内文字制限140字でまとめるのは絶対無理ですね笑
その題材のひとつに「三島由紀夫」があり、テーマの重厚さだけだと目眩がしそうになるんですが、鋭い文体ながら読みやすくまとめ上げているのがほんとに脱帽。何より読後のカタルシスがものすごい。

正欲/朝井リョウ

作品の性質上、「正しい」感想は誰にも書けないのかもしれない。多様性をはじめとした耳障りの良い概念を表面的にだけ理解した気でいることの浅はかさを痛感する。今という時代に、小説でしか表現できないことが詰め込まれている作品だと思いました。『何者』もそうだったけど、朝井さんの作品読むと、無いふりして自分の中にしまいこんでしまっていたものをいつも引き摺り出されるんですよね…

禍/小田雅久仁

なんなんだこの全編高品質で独想的な怪奇譚の集合体は…!夢現の境をぐしゃりと歪められた日常の”禍中”に読者も否応なしに堕とされていく。各話のアプローチというかテイストが違うのに、しっかり全部面白いのがすごすぎました。
とりあえず「喪色記」が個人的ベストということで。最後の2篇は小田先生の筆致が設定の面白さを飛び超えてきてる感じがしてまあすごかったですね。全編すごいんですけど(すごいしか言ってない)。


というわけで、今年読んだ作品からベスト10を選んでみました。
来年もできるだけ本を読んでいきたいな〜と思っている次第です。
それでは皆様、良いお年を。

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