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『魔法は風のように』第五話

「この星と歌う、最後の歌を」外伝2
『魔法は風のように』

第五話 須佐之男命

「魔法を習得するのは、かなり時間をかけないと無理かもしれないが」
俺は、父さんの言葉を思い出す。
「もし、サキ自身が持って生まれた力を、魔法以上にサキに合った方法で引き出すことで、強くなれるかもしれないって言ったら、信じてくれるか?」
「魔法じゃない、俺に合った方法?」
「ああ、たぶん、俺じゃあんまり効果がないけど、サキがすると、すっごく効果があるかも、しれないらしい」
「しれないって?」
「俺の父さんがな、困ったら、話してみなさいって言ってたんだ。父は、不破 星治っていう」
「テレビでみたことある!」
サキは、いきなり元気になった。テレビみないから知らないが、父さん、高校生にまで知られるくらいなのか。
「綺麗な絵を描く、作家さんですよね。へええ」
「でな、その父さんがな」
話がそれたのを、修正しないと。
「祓いたまえ、清めたまえ」
神社の宮司の真似をして、言ってみたけど、何も起きない。うん、わかってた。
「サキ、俺の真似してみ」
「はい。ええと、祓いたまえ、清めたまえ」
しゅわわわ、っと、俺が清められる気配がした。
サキも感じたのか、驚いて、何も言わないで、俺を見つめる。
「それが、サキの力なんだってさ」
「ええええ。今のなんですか。俺、魔法使い???」
「魔法じゃない。この国の神様から、力をもらうらしい。この国には、はらえどのおおかみ、っていう神様たちがいて、サキは今の言葉だけでも、彼らの祓い清める力をもらえるとかで。言霊から受ける影響が強いってことは、言霊を扱う力も強い。っていう理屈で」
「面白い。祓いまえ、清めたまえ!」
サキは調子に乗って、俺の部屋のいろんなものを浄化しはじめた。テレビや洗濯機、干してある下着や靴下。
「なぜそんなものを祓う。穢れて見えた?」
「はい」
「ショックだが、まあ、とりあえず、落ち着け。座れ。あのな、この国の言霊には、一定の形式をもったもので、特別に力があるタイプのものがあって。今の祓いたまえ、清めたまえ、も、そうなんだが。こう言うと、もっと神様たちに伝わるらしい」
俺は目をつぶり、父さんの言葉を思い出す。
「祓えたまい、清めたまえ、神ながら守りたまい、幸え給え」
サキが、俺の真似をする。
「祓えたまい、清めたまえ、神ながら守りたまい、幸え給え」
あ、俺の額の五芒星が反応してる。
すさ、なんとかっていう神様の気配、来た!
名前を覚えておけばよかった。とりあえず姿は覚えているから、それを思い出し、具現化されるように魔法を使う。
名前か、姿がわかっていれば、魔法で呼び出せるものなのだ。
あれ、日本の神様って、呼び出しできるっけ。向こうがその気だと、可能なのかもって、海斗が言ってたな。
腰に草薙剣を帯びた、黒髪の、凛々しい青年の姿。
神様って、どちらかというと昔風のお姿というより、普遍的な美形なんだよな。精霊も、人とは違って、外見の美しさは、そのまま精神の美しさだったりするらしい。神様は精霊より強いから、こんな風に普遍的に、時代の流れと関係なく、誰の目から見てみも明らかに、カッコいいのかもしれない。

『サキ』
すさ、なんとか様が、微笑んでサキに声をかける。
『久しぶりだな』
「はじめまして、です。隼人さんこれ魔法?」
サキは顔を紅潮させて、はしゃいでいる。
「はんぶん魔法」
『隼人から力を借りた。私は、須佐之男命(スサノオノミコト)だ。忘れないでくれ』
すいません。と、カッコ悪いから、俺は心の中で平謝りする。この神様と俺は、過去生で縁があったみたいだからな。申し訳ない。
スサノオ様は、寂しそうな様子だ。
『サキは覚えていないかな。幼子の頃、神社に来てくれたんだが』
「ごめんなさい」
『悠久のときのなかで、縁ある者とのめぐりあいは、懐かしく、うれしいもの。これからは、覚えておいてくれると嬉しい』
ごめんなさい。と、俺も心でもう一度、平謝る。
「神社ってことは、神様ですか?」
「ヤマタノオロチを退治した神様だ」
俺の短い説明に、スサノオ様がうなずく。
「強い神様なんですね。お会いできてうれしいです。俺も、強くなりたい」
『サキは、じゅうぶんに強いのだ』
すまない、と、スサノオ様は、サキに頭を下げた。
『隼人、魔法のエネルギーを、私に分けてはもらえないか。見せたいものがある』
俺は了解し、気を高めて集まった魔法のエネルギーを、スサノオ様に手渡す。

次の瞬間、俺とサキは、時代の空気的に平安くらいだろうか。すっごい昔の気配の神社にいた。鳥居とか建物が、今と全然違うもっと簡素な造りだ。
この時代、神様というのは姿が見えていた?
それとも、俺とサキにだけ見えるのか。
神社の中心にスサノオ様のお姿があり、サキにそっくりでもっと大人になった姿の宮司らしき男性が、祈りをささげている。
「未来永劫、ここに暮らすあまたの人が、安寧でありますように」
そう何度も、一心に願っている。
清らかで、強い願いだからだろうか。
どのくらいの範囲かわからない、曇り空が晴れ渡るかのように、穢れが祓われていく。

サキの過去生らしい宮司の姿が消え、スサノオ様だけがそこにのこって、時代が変遷していく。神社の周りに大きな町ができたり、それが何度か焼け野原になったと思うと、徐々に復興し、最後には現代風のビル街が現れた。

スサノオ様の手に、水晶玉が見える。その水晶が、割れた状態になって、サキの胸の気の割れ目につながっているのが、はっきりとわかった。

すっと、意識が現実に戻った。
「今のは?」
はじめてみる魔法の幻に戸惑って、サキは首を傾げる。
「魔法の力を使って、スサノオ様がサキの過去生を見せてくださったんだ。わかりましたスサノオ様。割れた水晶玉は、サキの過去生の願いを具現化したものだったのですね」
『古の宮司だったサキの祈りは、強く、尊いものだったゆえ、このような美しい水晶玉となって残った。それが、災害や戦乱で、土地が荒れるたびに祈りが発動して、そこに生きる人々の穢れを祓い、励まし、勇気づけた。しかし、力尽き、ついに割れてしまってな。私では治しようがなかったのだ。それが最近、サキ自身、相当傷つけられたのだろうか。この割れた水晶に、同調するようになってしまってな』
「そうだったのか」
ぱっくりと、大きな傷だものな。
『サキは、その胸の気の傷があってもなお、この水晶の影響さえなければ、やさしい心根を周囲に発揮できるほどに、強いはずなのだ』
「へええ」
サキは目を丸くし、スサノオ様の手にある割れた水晶玉に見入った。
『治す方法が、あればよいのだが』
こんなとき、父さんがいてくれたらなあ。
俺って、サキの役に立つには、まだまだ足りないものばかりだ。
サキが俺の肩をゆする。
「隼人さん隼人さん。隼人さんの隣に、もう一人、隼人さんが重なって見えるんですが」
「海斗!」
「気が付くの遅いってば」
俺はいつの間にか隣に突っ立っていた海斗に、驚いた。
そのまた隣には、父さんも。
「出版社に用があってきたついでに、隼人と、その弟子に会いたくてね。サキくん、はじめまして」
「わー。はじめまして。テレビで見たことあります。隼人さんには、お世話になってます!」
「筋肉魔法の弟子かー」
たのしそうに海斗が言うので、俺はむっとする。
「筋肉魔法って言葉は、使用禁止な」
「自分でも、そう呼んでたくせに」

スサノオ様が歩み出て、父さんへ微笑んだ。
『ひさしいな。星治』
「須佐之男命様。息子が大変お世話になり、お礼の言葉だけでは足りないくらいです」
『では、頼みがある。この割れた水晶玉、どうしたらもとに戻せるか、知恵を貸してはくれぬか』
「喜んで」
おっとり、にっこり、引き受ける。
父さんってば、神様に頼まれごとされても、マイペースだ。かっこいい。

つづき↓
第六話 https://note.com/nanohanarenge/n/n137c5946e9d0


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