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イマジネーション

古今和歌集にある、

「心ざし 深くそめてしをりければ

消えあへぬ雪の 花と見ゆらん」

という句が好きだ。

花にも見える白い雪の描写が綺麗だからじゃなくて、白い雪さえ花に見えるくらい深い「心ざし」が、尊く想えて。

百人一首にある、

「夏の夜は まだよひながら明けぬるを 

雲のいづこに 月やどるらむ」

も、中学ではじめて読んだ瞬間から好きだった。
ここにない月か想い人を、雲がかかった空にさがす、切ない気持ちがたまらない。

ここにないものを、あらしめる、人の持つイメージの力を、私はすごく大切に思っている。
無から有になっていく過程を想うとき、時間を最果てまでさかのぼれば、この宇宙すら生まれていなかったときだってきっとある。

人は、イメージを、どんな風にも形づくれる。

今この瞬間、ただの食材だった卵が、数分後おいしい卵焼きになったりする。
それは間違いなく、人の力。
どんな卵焼きになるかは、作り手のイマジネーションと努力と技術次第。

不可能なんて、人のなかにある概念でしかない。
得手不得手は誰にだってあるし、失敗ばかりが続いて日の目をみることのない努力だって、数えきれないくらいあるかもしれない。
だけど、強い希求はいつか、なんらかの形にならずには、いられない。

人にしかない、すごい力を、みんなが、あまりに当たり前に使っているから、忘れてしまいがちだけれど。

私は信じている。雪が花に見えるくらい深い心ざしを持てる人は、決して枯れることのない美しい花を心に宿しているのだと。

その花は世界中どこを探しても比類ないくらい、力強く、美しいのだと。


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