短編小説『まだ、ここにない青空』
雨は読書によく似合う。
雨音、少し暗い室内に電灯、しっとりとした雰囲気。
よく晴れた日に、晴れた空を思い出したりしないけれど、雨の日に、晴れた空を想うのは素敵だ。
すぐそばにいても、特に好きかどうかわからない人が、もうすぐ旅立つとわかって、実はすごく大切だったのがわかるように。
「ないがある、あるがない」
これは、最近、部屋がわかれたばかりの兄の口癖。
口癖というか、困ると口から出てくる、不思議なおまじない。
一つ違いの兄は、部屋がわかれたのに、なぜか私の部屋に入り浸