長い、長い、休日 第20話【完】
「なんだ、知っちゃったのか」
俺が呑気にソファで寝っ転がっていると、酷い顔をしたカネチカが立っていた。「バカです先輩!全部背負い込んで……こんな目に遭って…」
「そうかな?」
「そうですよ!…奴隷だったなんて、俺……」
「もう奴隷じゃないし、あの頃から君には「様付け」は止めろって命令されてたしね」
カネチカの顔色は悪い。無理もない。幼い子供には大きすぎる出来事だった。それに特別な子供のカネチカには手厚いケアが成されていた。その結果がこれだ。記憶は深く沈められ、俺は単なる先輩として、カネチカの相棒を務めた。
「先輩……どうしてですか?俺が特別って意味わかんないし。なんでそんな…」
カネチカは力なく膝から崩れ、俺の体に頭を寄せた。俺はそっとやさしく撫でた。
「俺のこの名前は、表向きとあるネットミームを参考にしたって事になってるけど。本当はどこかの星の一族だったらしい」
カネチカがこちらを見つめる。
「……まあ色々あって、身寄りのなくなった俺は、奴隷として使役されることになった。カネチカくんの身代わりとしてね。俺の一族って、命を交換出来るらしいよ。身代わり人形みたいな感じかな。便利だよね、その結果滅んだけど」
「身代わり…」
俺は構わず続ける事にした。
「何度も言ってるけど、俺はカネチカくんが思うような奴じゃない。このまま死んじゃうのは嫌だったし、アレが絡んでるのも知っていたから、いつか不幸が起きるって分かってたんだ。………チャンスだったよ」
カネチカの力を目の当たりにしたとき、俺はその力を欲した。これがあれば、滅ぶことすらなかったし、特別でいられるから。———いずれ死ぬなら一か八か。
結果、俺はカネチカの力を手に入れられたし、他の奴らは、うかうか俺に手出し出来なくなった。俺は「特別」を手に入れた。忌み嫌う奴らはずっといたけど、今は気にもならない。
ただ、カネチカは俺を慕い続けていた。ソレが、正直辛かった。
俺は、カネチカが嫌いだったわけじゃないが、好きなわけでもなかった。
だが、幸せになってほしいと本当に思っている。———今でも。
「カネチカくんには感謝してるよ。俺が死んだら力は戻ると思う。それまで貸しにしてくれ」
ひゅっと、小さく息を呑む音が聞こえた。ショックを受けたんだろう。ずうずうしいお願いなのは分かっているが、この上「特別」まで奪われたら地球の生活が苦しくなる。
「先輩———ごめんなさい」
「なんで謝るんだ?」
「俺は、先輩をずっと苦しめていたから」
顔を上げたカネチカは、目が真っ赤だった。………また泣かせてしまった。
「………もうそういうのわかんないんだ」
俺は感情が欠けてしまった。それは生き返った代償なのかもしれない。本来は死んでいるのだから、何らかのペナルティが科せられるのは仕方がないのかも。
「俺の所為…で…」
カネチカの頭をポンポンして、「カネチカくんは幸せになりなよ」
俺はようやく体を起こした。
「力を奪っておいて言うのもなんだけどさ。俺に関わると碌な目にあわないから、俺から離れて楽しく暮らしなよ」
これは、俺の本心だ。俺に関わる奴は大抵苦しむ。———あ、俺も疫病神?
「だったら、俺と一生一緒に暮らしてください」
突然の言葉に、俺は耳を疑った。
「は?」
「俺は先輩と一緒にいたいってずっと言ってます。俺の幸せを願うのなら、俺と一緒にいて下さい」
遠くで食器のぶつかる音が聞こえた。タナカが聞いていたのだろう。彼もビックリしたようだ。
「俺は咎人だよ?」
「今はヒトですよね」
「まあ、くっついちゃってるからなぁ」
「なら罪はないです」
「は?なんでそうなるんだ?つか、ヒトとはそういう…一緒に暮らすとか駄目だろ」
「ヒトと融合した場合は別です。………結婚も出来ます」
「いやいやいや、だめだって、何言ってんのカネチカくん?!」
カネチカは俺に依存していたのは知っていたが、そういう感情だというのにやっと気付いた。これはマズイ。なんとかしないと。———どうしたらいい?
焦る俺を無視して、カネチカは俺に馬乗りになると、両手で頬を挟んだ。……顔が近づいてくる。やばい!!
「好きです先輩。………ずっと、愛してます」
耳の側で、カネチカのピアスが小さく鳴った。顔が近い近い近い!!!
「タナカくーん!たーすけてー!」
だが、タナカは来なかった。くそ!マジもんの奴隷にしておけばよかった!設定甘くしすぎた!
「たすけ———んんーーーー!!」
俺は、このあとどうなったのか。それは絶対に言いたくない。
のちに、カネチカが俺の側を離れないと宣言した所為か、地球暮らしには変わりがないものの、俺に対しての待遇が改善されたことは言っておく。
俺の休日は、このまま地球で暮らすことで継続され、別の意味での新生活も始まってしまったようだった。———いいのか、カネチカ。覚えてろ、タナカ!💢
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