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【お題】2.峠の団子屋

 一体何時間歩けば気が済むのか。俺は、前を歩くカネチカの背中を見ながら考えていた。
 どこに行くのか、何があるのか、目的は?と聞いてみたが「あとで」と言って教えてくれない。俺は何度目かの「まだ?」と聞いた時、やっとカネチカはこちらを見て答えてくれた。
「ほら、着きましたよー!」
 指さす方を見ると、そこにはこぢんまりとしたお店が見えた。のぼりが立っていて、そこに書かれている文字を俺は無意識に読んでいた。
「………だんご?」
「はい、すっごく美味しいんですって」
 とっても嬉しそうに答えるカネチカに俺は眉をしかめた。
「固形物は…ちょっと」
「少しくらい食べてみてくださいよ。俺のイチオシです」
「うーん…」
 そうこうしているうちに、お店に着いてしまった。峠にある団子屋は、広い駐車場を完備し、客もそこそこいるようだ。

 俺たちは、トレッキングルートを利用してとある山を登っていた。道の先は峠に繋がっていて、この店にも寄れるらしい。
「おだんごセット二つください」
 カネチカは席に着くなり、メニューも見ずに注文する。イチオシと言っていたくらいだから、何度か来ているのだろう。頼む気はないが、俺はメニューを眺めていた。そんなに種類はないが、だんごを中心にそこそこ充実しているようだ。
「思ったけど、わざわざ歩いてくることなかったんじゃ?」
 俺がメニューを見ながら言うと、
「タナカさんの希望ですよ。主様がぐでたまみたいにグデグデしてるから、散歩に連れて行ってくれって」
「はあ?事情があるから家にいるだけじゃん。ぐでたまって…」
 この体は有名な画家(顔出ししてたようだ)な上に死んでいるので、騒ぎが起きないように外出は控えていた。出かける時はカネチカが気に入ったのか、俺の見た目の年齢を調整して誤魔化している。その調整が俺には負担が大きいので、最近はその姿のままでいることが多かった。今も10代後半くらいに見えるだろう。
 そういった事情で、好きで家に籠もっているわけではないのに、タナカは事もあろうに俺を「ぐでたま」とは、失礼にも程がある。

「あ、来ましたよー。食べましょう」
 カネチカは、さっそく運ばれただんごをパクついている。ヒトとの付き合いが多いのか、美味しそうに食べている。俺は、仕方なくだんごの一つを口に運ぶ。…………確かに美味しい。俺は、別に食べるのは嫌いな訳ではない。単に苦手なだけだ。食べ慣れていないのとヘタなのとで、飲みこむタイミングとか、咀嚼しすぎるのか顎も疲れて、全部食べきった時には結構疲れてしまう。
 今も口の中のだんごをモグモグしているが、どのタイミングで飲みこんだら良いのか。
「先輩かわいいですね」
「…………?」
 カネチカは、俺を小動物のもぐもぐタイムを見ているような目つきで言った。
 俺はやっと飲みこんで、さらにお茶で流し込んだ。食事って、なんで疲れるんだ。
「おいしいでしょ?」
「うん。もういいから、カネチカくんにあげるよ」
 俺が、だんごの皿をカネチカに押しつけると、
「あーん」
 と、口を開けた。………おいやめろ。周りにヒトがいるんだぞ。
「やだ」
「いいじゃないですか。あーん」
 カネチカには恥という概念はないのだろうか?健気に口を開けているカネチカを見て、俺はため息をついた。
「ほら」
 手つかずの方のだんごを口に押し込むと、嬉しそうに笑った。
「先輩。今度は俺が食べさせてあげますよ」
「いらない」
「少しでも慣れないと」
 そう言って俺の残りのだんごを手に持ち「あーんしてください」と言った。
「———はあ…」
 絶対に諦めないだろうと悟り、俺は口を開けた。
 カネチカは俺と違って自然に口に入れてくれた。———なんか手慣れてないか?
 そう思いながら、俺はだんごを食べる。

 カネチカは俺が悪戦苦闘して咀嚼してる姿が面白いのか、結局だんごを全部食べさせた。———疲れた。けど、カネチカは嬉しそうだったので、頑張って食べた甲斐はあったのかも知れない。いつか普通に食べられる日が来ると良いが。

「カネチカくん。このだんごって持ち帰れるの?」
「ええ。持ち帰り用も売ってますよ」
「じゃあタナカくんのお土産にしよう」
「いいですねー。先輩やさしいなあ」
 そう言って、俺たちはお土産を買って家路に向かった。………まさか、また歩いて帰るとは思わなかったが。

「峠まで行ったんですか?お土産ありがとうございます」
 タナカはだんごを受け取ると、早速お茶を煎れに行った。一目見てあれが峠の団子屋だと見抜くとは、あの店は有名なんだろう。たしかに美味しかった。
「てっきり愚痴られるかと思ったんですが、楽しそうで良かったです」
 だんごを食べながらタナカは言った。…………俺をぐでたま扱いしたことは許してないぞ。
「先輩の運動がてら、美味しいお店で食べる練習も出来て、そのうえ楽しんでくれてるから行って良かったです。今度はどこに行こうかな?」
 そう言ってカネチカはタブレットを取り出した。
「え?また?」
「デートですよ」
 カネチカはタブレットを見ながら答える。あれはデートなのか!?
 そもそも、タナカがあんなこと言わなければこんなことには………!
 俺は無言でタナカを睨んだ。が、本人はどこ吹く風だった。———くそう、余計な事を。

 その後、俺はカネチカのデートという名の特訓に付き合わされることになった。
 デートってこんなだったっけ?


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