長い、長い、休日 第2話
タナカの話をまとめてみたが、予想通り最悪な話だった。
先に言っておくが、俺とカネチカはレスキュー隊で、地球には要請を受けて出向く。地球は危険な原生生物(ヒト)がいるが、それを凌駕する資源の宝庫だった。なので、その資源を求めるものや、調査をするものが滞在している。ただし、危険が伴うので自由に行けるわけではなく、特別な許可が必要だ。(許可を得ていても、遭難者が出たりすることが多く救助にかり出されるのは日常茶飯事だった)
その日は、別部隊のレスキュー隊(カネチカの所属部隊)が、地球上空の中継船が制御不能になったため、救助活動をしていた。その船は巨大で一見衛星にしか見えない。無事全員の救助を終えたとき、突如船が地球へ落下を始めたらしい。カネチカたちはなんとかしようと試みたがうまくいかず、俺に泣きついた。
というのも、俺はレスキュー隊の中でも最高クラスと呼ばれるライセンスを取得しているので、こういった無茶なことを任される。ただ、今回は完全オフ状態でかつ、急なのもあり、不完全な状態で出向いた為、なんとか地球へ落ちる前に船を破壊出来たものの(あの流星は粉々になった船だ)地球では欠かせない俺の装備は壊れてしまった。
むき出しになった俺は、必死で原生生物(ヒト)を探し出し、側に居たのが消し炭と化した原生生物(ヒト)しかおらず、緊急避難的にそれを装備した。原生生物(ヒト)がこんな状態だったのは、俺と共に落下した破片の影響だろう。
緊急避難とは言え、この対処は、一時的なものに留めないとならないうえに、非推奨とされている。条件や後の厄介ごとが多いからだ。だが、命に関わる場合は致し方ない。条件のひとつである、原生生物(ヒト)の魂は残っていなかったので、俺はそれを装備した。
俺たちは、普段地球へ行くときは装備(ガワと呼んでいる)を纏って作業をする。そうしないと生きられないからだ。原生生物(ヒト)と形は変わらないので、カモフラージュにもなる。なんせ、原生生物(ヒト)は自分と違うものには凶暴な行動を取るほど危険だからだ。
ボロボロの俺を見つけ出したカネチカは、装備(ガワ)を補修するため、袋のようなものに俺を押し込んでいた。(おかげでもろくなった部分はそこらに飛び散ったようだ)
その姿をタナカに見られ、俺はタナカの家で装備を補修され今に至る。
———だが、おかしいのは遭難者であるタナカが、地球に住処を持っている事だ。それに、タナカは自分が遭難者であるという自覚がなかったらしい。これはおかしな話である。
問題はそれだけじゃない、俺は一時的にこの原生生物(ヒト)を装備しているだけであり、本来の装備を装着しなければ帰るに帰れないのだ。この装備(ガワ)はもろいので、とても地球上空にあるレスキュー船まで行くことが出来ない。しかも俺の場合はランクが高すぎるため、一般的な装備だと上手く装着出来ない。あまりランクが高いのも厄介だ。
なので、俺専用の装備(ガワ)が直るまでここに留まらないといけなくなった。やっと取れたバケーションは危険な原生生物(ヒト)に囲まれた環境で過ごさないとならなくなった。これを最悪と言わずに何と言おう。
「まあ、俺は装備(ガワ)が直るまでここにいなきゃならなくなったけど、タナカさんは、自分が遭難者だという自覚がなかったってどういうことなんです?」
俺が聞くと、タナカは困ったように首をかしげる。
「それがよく分からないんです。カネチカさんに言われるまで、僕はヒトという自覚しかありませんでした。自分は大学生でこの家から通ってて、ちゃんとヒトとして生活してたんです。記憶もシッカリあるし、両親だっています。あ、今は両親は別の所にいますが。………でも、それはヒトとしての記憶なんです。おかしいですよね。僕はヒトじゃないのに」
たしかにおかしい。俺は今、原生生物(ヒト)の装備なので、彼が俺たちと同じなのか見分けが付かないが(それに目が悪いのか全然視界が良くならない!)カネチカにはソレが分かるので、彼が言うのだから、タナカは原生生物(ヒト)ではないはず。
ならば、なぜ原生生物(ヒト)の記憶なんてあるんだろう。そう思いながらも、俺はあるタブーを思い出した。
「もしかして、タナカさんも緊急避難をして、それが魂がある原生生物(ヒト)を装備したとか?」
「先輩、俺もそう思います。じゃないと自覚すらしてないなんておかしいです」
「カネチカくん。タナカさんの装備(ガワ)は原生生物(ヒト)なのか?」
「ああ、はい。そうです。………我々の装備ではないです」
だとしたら、俺の予想は当たったようだ。原生生物(ヒト)の使用条件では、魂のある装備は使ってはいけない。自分とヒトの境目が曖昧になって最悪の場合融合してしまう。そうなると、装備(ガワ)は外れず、いずれ装備(ガワ)の老朽化と共に朽ちて死んでしまうのだ。
「まだ装着して時間も経ってないだろうから、今からなら外れるだろう。カネチカくん、急いで隊に連絡して、代わりの装備(ガワ)を持って来るんだ」
「いや、それが………」
なぜかカネチカは口ごもる。と、タナカに声をかけた。
「すいません、タナカさん。ちょっと外に出てますね。…先輩、こっちへ」
カネチカは俺を家の外にひっぱりだすと、辺りを警戒している。
「どうしたんだ?」
誰もいないのを確認すると、カネチカはとんでもないこと口走った。
「当然俺も先輩と同じく代わりの装備(ガワ)を持ってこようと思って、連絡をとったんですが———その時、分かったんです。タナカさんのこと」
ごくりと息を呑んで俺は促した。
「もったいぶるなよ。何だってんだ?」
「彼、遭難者リストに載ってなかったんです。存在しない遭難者なんですよ」
その言葉に、俺は何も言えなかった。
存在しない遭難者。それは———。
ブラックリスト、と同義だからだ。
厄介な状況で、これまた厄介なものと関わってしまった。
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