28年間正義を貫いた男 映画『八犬伝』
概要
公式が出している映画の概要は以下。
本作は、映像、物語の構成、「南総里見八犬伝」の物語の理解のしやすさ、
どれをとっても非常に満足度が高かった。
滝沢馬琴(役所広司)が八犬伝を28年もの歳月をかけて完成させていく「実」と、
その八犬伝の物語の「虚」が順番でシーン替わりする構成であったが、
全体を通して実と虚の時間配分のバランスが絶妙であった。
また冒頭、虚のシーンからスタートし、実に移っていくのだが、
その流れにすることにより、虚が実の上で成り立っていることが
より分かりやすくなっていたと思う。
総じて満足度の高かった本作の主な魅力は、3つある。
1.実世界と虚世界の対比
馬琴が描く物語「南総里見八犬伝」とは、ざっくりと言うと、里見家にかけられた呪いを、八人の剣士が解くまでの物語だ。
本作ではその物語が虚のパートとなっているが、この虚の登場人物たちは、着実に、同じ思いを持った剣士たちと巡り合い、助け合いながら悪に立ち向かっていく。観ていて気持ちのいいテンポだ。
一方、八犬伝を執筆する馬琴を中心として進む実の世界は、その真逆である。
物語の執筆の裏で、滝沢家を武士に戻したいという野望がありながらも、自身には叶えることができず、その夢を託した一人息子も、病気で臥せてしまう。
何も悪いことはしていないのに、不条理な目にばかり合う。
そんな生活の中にいた馬琴だからこそ、「勧善懲悪」「因果応報」をテーマに据えた八犬伝が書けたわけだが、ともかく実と虚のギャップが大きく、そのギャップが、お互いをより際立たせていた。
そして、2つのパートの真逆なところは他にもある。
虚は、八人もの剣士が戦う物語なだけあり、壮大で見応えのある映像だ。『アバター』『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』『アベンジャーズ』などに携わった上杉裕世が、虚のパート全体を通し、VFXスーパーバイザーとして参加している。アクションシーンのほか、城、呪い、妖犬など、細部にまでVFXのこだわりが見える。
実のシーンの大部分は馬琴の創作部屋での会話劇が中心だ。普通の民家なので当たり前ではあるが、色味も地味である。
同じサイズのスクリーンで観ているはずなのに、実と虚では、物理的な奥行きすらも全く違うように感じられた。
実と虚の対比が見事で、観ていて飽きのこない作りであった。
2.親友ならではの空気感
滝沢馬琴には、葛飾北斎(内野聖陽)という親友がいる。作中で親友という表現はされていないが、側から見たらそう捉えることのできる関係性だ。
実際にも、本作と同じように北斎が馬琴の作品に挿絵を提供している関係で、仲が良かったようだが、作中の実のパートで、名優、役所広司と内野聖陽の作り出す空気感は、まさしく親友のそれであった。
互いの才能を認め合ったうえで、時に冗談混じりで面と向かって悪口を言ったり、時に真剣に意見をしたり、時に慰め合ったり・・・。親友ならではの沈黙、会話の間が観ていて心地よかった。
前述の通り、実のパートは絵変わりも少なく、色も単調なため、絵面的には地味になりがちだった。ところが、それなのに楽しく観られたのは、2人のクスッと笑えるような会話と、”本物の親友”が織りなす空気感のおかげであった。
役所広司の底なしの表現力
滝沢馬琴は、役所広司にしか演じられないと思う。
この感想は決して大袈裟ではない。彼にしか成し得ない演技を、今回も大画面で観られたことが何よりも嬉しかった。
馬琴は晩年、徐々に視力が衰えていき、ついには両目とも失明する。
「目は口ほどに物を言う」と言われるように、人間の感情が表に出る時、
目は重要な役割を担う。実際に、瞳の動きや瞬き、瞳孔の大きさで感情表現をする演技は多いし、観ている者も、それを感じ取ることは容易い。
しかし晩年の馬琴は、失明によって目でする演技を封じられるのだ。
自身の失明で自信を喪失する馬琴
お路からの提案により、再び八犬伝完成への希望を滾らせる馬琴
この過程で起きる迷いや心情の変化を、役所広司は目でする演技を封印した状態で、見事に表現する。
馬琴が言葉を発さずとも、思うことが我々にしっかりと伝わってくるのだ。
彼のあまりの表現力には、言葉を失う。
役所広司の演技を観ていると、それこそ実と虚の境界が分からなくなりそうになる。
1997年生まれ、丑年。
幼少期から、様々な本や映像作品に浸りながら生活する。
愛読歴は小学生の時に図書館で出会った『シートン動物記』から始まる。
映画・ドラマ愛は、いつ始まったかも定かでないほど、Babyの時から親しむ。
昔から、バラエティ番組からCMに至るまで、
"画面の中で動くもの"全般に異様な興味があった。
MBTIはENFP-T。不思議なまでに、何度やっても結果は同じである。
コミュニケーションが好きで、明朗快活な性格であるが、
文章を書こうとすると何故か、Tの部分が如何なく滲み出た、暗い調子になる。(明るい文章もお任せあれ!)
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