新たな楽しみ方を発見!松本清張「美しき闘争」(上・下)
角川文庫から出ている、松本清張著・美しき闘争(新装版)を読了したので、
感想(妄想?)を記してみようと思う。
前提として、このように映画や小説の感想を世の中に発信し始めたばかりの私のような人間が、松本清張の作品を語ろうだなんて一億年早く、烏滸がましいにも程がある。それは充分に理解しているが、本作については、気になるところがあったので、敢えてこうして文章にしてみることとした。
私は松本清張が好きで、古本屋で見つけては購入し、読み漁っている。
その歴史は中学時代まで遡るが、それについては、いつか別の機会に言及したい。
私が「美しき闘争」について書いてみようと思った理由は、本作のテーマにある。それが、後述する本作の新しい楽しみ方に繋がる。
彼の作品の大半は、ミステリーが土台にありながら、扱うテーマは、この現代に読んでも人々の胸を強く打つ、社会風刺が効いているものが多い。
中でも「美しき闘争」は、そのテーマがより限定的だと感じたのだ。
まずは、あらすじを引用してみる。
ごくごく簡単に言うと、主人公の女性が、離婚した後に自立のために入った文芸界で、文芸界特有の欲望にまみれ、揉みくちゃにされる話しである。
揉みくちゃにするのは、主に、今風の言い方をすると“ダメンズたち”である。
前述の通り、本作もミステリーだ。そして、松本清張ならではの人間の捉え方が、「美しき闘争」にも色濃く反映されている。ミステリーと人間ドラマの融合であることは言うまでもないが、やはり他の作品とはどこか一線を画す。
私の読後感としては「スッキリしない」というのが本音だった。
何度も言う通り、ミステリーである。
しかし、あまり謎も多くなく、正直、展開に驚きもない。
読み進めるうちに、誰がどのような思惑を持ってどう行動したのかが、
ある程度予想がついてしまうのだ。
人間ドラマとしての側面で見ると、文句なく、さすが松本清張だ・・・となるのだが、しっかりとしたミステリーを楽しみたい!という方には、本作はあまりお勧めできない。
しかし、書いたのは”あの”文豪・松本清張である。
何人ものダメンズたちを登場させ、作中で様々な関わりを持たせ、
欲望がさらなる欲望を生んでいる。
ところがミステリーとしては単純だ。それがどうにも納得がいかない。
そこで、私は今作で扱われたテーマについて改めて考えてみた。
こちらも何度も言うようだが、文芸界を舞台にしている。
私は読み進めながら「松本清張は自身も身を置いている世界を舞台にしながら、随分と踏み込んだことを書くなぁ」と何度か感じていた。
そこで思い至った。〈痴情と策略の濃密な人間ドラマ〉と銘打ちながら、
本作で松本清張が描きたかったのは、ミステリーのトリックでも、ダメンズたちとそれらに翻弄される女の人間ドラマでもないのではないか。それらはあくまで副産物的なものに過ぎないのではないかということだ。
では、松本清張が描きたかったものは一体何か…。
私は本作を読んで、これは文芸界の告発本若しくは暴露本なのではないかと思った。
無論、あくまで私一個人の意見であるが、これが告発や暴露をする本だとすれば、
松本清張は、自身も身を置く文芸の世界に、一石を投じたかったのではないか。
むしろ、人間の欲望を目の当たりにし、直接肌で感じたからこそ、扱えたテーマであるともいえよう。
彼は、自分の文才という武器を使って、訴えかけたかったのではないか。
その相手は、彼の文章を一番最初に読む編集者だったか知れない。もしくは、同業の作家たちだったか。はたまた、小説の批評家たちだった可能性もある。
いずれにせよ、対象者の意識をガラリと大きく変えることはできなくても、
一人や二人くらいでも、目を覚まさせたかったのかもしれない。
なんなら、今作に出てくる登場人物たちには、明確なモデルがいる可能性すらある。
もしも、もしも本当にそうだったとしたら、本作はこれまでの松本清張作品にはあまり見られなかった、新たな楽しみ方ができるのではないだろうか。
我々読者にとって本は身近な存在でありながら、文芸界の実情は当然ながらよく知らない。本作が初めて世に出た1962年当時のこととなれば尚更だ。
その厚い雲に覆われた文芸界の闇を、本作を通して知ることができる。そんな面白さがあるように思えた。
また、文芸界にいずとも、身勝手な欲望が渦巻く世界などそこら中にある。
自分が身を置く場所はそうではないか?と立ち返る機会にするのも、受け取り方の一つとして良いかも知れない。
そんな妄想を好き勝手に膨らませていると、いつの間にか私は、
再び「美しき闘争 上」を手に取っている。
今度こそ、松本清張の本当の思惑を汲み取らねば…!と意気込むようにして、
ページを捲るのであった。
1997年生まれ、丑年。
幼少期から、様々な本や映像作品に浸りながら生活する。
愛読歴は小学生の時に図書館で出会った『シートン動物記』から始まる。
映画・ドラマ愛は、いつ始まったかも定かでないほど、Babyの時から親しむ。
昔から、バラエティ番組からCMに至るまで、
"画面の中で動くもの"全般に異様な興味があった。
MBTIはENFP-T。不思議なまでに、何度やっても結果は同じである。
コミュニケーションが好きで、明朗快活な性格であるが、
文章を書こうとすると何故か、Tの部分が如何なく滲み出た、暗い調子になる。(明るい文章もお任せあれ!)
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