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エッセイ的なもの:コロナになって思い出した事

先日、コロナのようなものに罹った。
39度の高熱、倦怠感、関節痛、咳・喉の痛み、胃腸の不調など、症状はほとんど一致している。一応抗原検査も陽性だったからほぼ間違いないと見ていいだろう。仮にそうじゃなかったとしても、同等の危険性がある感染症である事には変わりない。

会社には本当に迷惑を掛けたのに、上長には単に仕事に穴を開ける存在以上に気を遣ってくれたし、友人からはやたら救援物資が送られてきた。
特に会社の上長に関しては、まだ異動したばかりで面識が浅い人物だったのもあり「ただの一社会人以上の倫理観を持っている」事が意外に感じられた。
8月にわたしの休職希望が却下された事や今までの会社の上の人らの前科を考えれば、どうせ管理職クラスの人間にとって現場のスタッフは使い捨ての消耗品としか考えていないと思っていた。
(わたしが上長の立場ならそう対応せざるを得ないだろうから、その歪な価値観について理解は出来なくもない)


それにしても、やはり熱を出すとやたらみんな優しくしてくれるのが印象深い。
思い返せば、わたしが小学生の時も学校に行かせる行かせないは熱が出てるかどうかが基準になっていた。
熱が出ていなければ学校に居場所が無かろうが精神的な重圧が苦しかろうが殴ってでもランドセルを外に放り投げてでも学校に行かされたが、そんな事をする人間でも子どもが高熱を出していれば相応の対応をして果物や消化のいい食事を用意してくれたような記憶がある。他にも、プールの授業への参加をスルーできる、休んでも周りの人に白い目を向けられないための大義名分化できるなど、「高熱の特典」は数多くあった。

だからこそ当時妙に身体が丈夫だったわたしは体温計の数値を誤魔化す方法を自分で試行錯誤して探していたのだが、結局小学生のうちに見つけることはできなかった。


少し話が逸れたが、体温とはおそらく唯一の一般市民が数値化と共有できる体調のバロメーターだ。
「お腹が痛い」も「疲れる」も「頭が痛い」も「心がつらい」も数値化出来ないから、これだけでは働かなくていい・学校に行かなくていい理由にはなり得ず、病院で詳しく検査し医師による診断というプロセスが必要となる。
とは言え医師も万能の神ではないから原因を特定できるとは限らないし、ひょっとしたら患者が大袈裟で多感すぎて辛そうにしているだけで、平均的な人間からしてみれば大した事ない事だってあるかもしれない。それを黙って聞くのが医者という職種の人間だ。

しかし体温は違う。明確に健康と健康では無い状態を判別できる一線が存在する。
多少の個人差はあれど、平均的な体温は36.0度前後で、37.0度を超えれば風邪などの疑い、39.0度を超えればインフルエンザなどの命に危険が及ぶ感染症の疑いが浮上するという基準がある。
特に新型コロナウイルスが流行り始めてからは、毎日検温を義務付け、37.0度〜37.5度以上なら即刻出勤停止、所定の検査を受けて陰性が確認され次第出勤可能という感染症対策マニュアルが定めた会社は多い事だろう。
「熱を出すとみんなが優しくなる」のはきっと体温が万人に共通する基準を持つ体調を示す数値だからだ。


わたしは身体も心も弱い人間だ。心の弱さで人生における失敗をしたことは数えきれないほどある。学校も辞めたし、仕事も学校を卒業して最初に意気揚々と就いた仕事はすぐ辞めた。今の仕事だって辞めかけた事は二度や三度では無く、今も辞めようと考えている。
歳をとって尚更ストレスが身体に悪影響を及ぼすようになり、さらにずっと薬を飲んで生きていたせいか人より疲れやすいのではないかと疑い始めている程だ。

しかしこんな人間でも生きていくには働かないといけない。「身体を壊したらどうしようもない」「無理をするのは良くない」と綺麗事を口にするのは簡単だが、実際には生活費と心身の丈夫さは比例しないが故に、心身が弱い人ほどどこかで無理をしなきゃいけない時が来る。本質的には世の中は弱肉強食なのだ。

わたしは「お腹が痛い」も「疲れる」も「頭が痛い」も「心がつらい」も数値化出来る様になってほしいと常日頃から考えている。
自分が辛いと思っている事でも、数値化した時に客観的に見て大した事ないのであればまだ諦めが付き、無闇に悪あがきをしなくて済む。
仮に真っ当に生きるように心掛けたとしても、無理をしなくちゃいけない場面か無理をしなくてもいい場面か、見切りを付けることが出来るようになるのはかなり大きいはずだ。

わたしはずっと心が弱いせいで人生における失敗を繰り返してきたから、「あの時の辛かった時期をもう少し耐えていれば別のマシな人生もあったのでは無いか?」と思わずにはいられない。
だからこそ耐えるか/耐えないか、諦めるか/諦めないかを判断できる体温のような客観的で明確な基準が欲しいのだ。コロナに罹って、それを思い出した。

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