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ピザくらい買えるようになりたい。

この夏に一時帰国したのだが「もう英語ペラペラなんでしょ?」という質問には閉口した。

んな訳ないでしょ。

アメリカに暮らして1年が経つが、できないことの方が多いし、知らないことの方が多い。

駐在家庭の暮らしなんて、期待に反して地味なもの。
私は英語が話せないし、子どもは思春期でアメリカっぽいことが苦手。さらにインフレが凄まじく、用心しないとちょっとの外出でもそれなりのお金がいとも簡単に飛んでいく。結果、自然と引きこもりがちになる。

「ピザ屋さんでピザ買ってみない?」

今日の夕飯はカレーか炒飯…。材料と手順を考えながら運転する私の横で、長女が言った。

聞けば、英語のチューターと好きなピザの具を言い合うゲームをしたらしい。「私全然知らなかったんだよ。美味しそうなピザの具、たくさん教えてもらったよ」

ソウルフードさえも素通りの私たち。

アメリカに住んでいるのに、実はピザ屋に行ったことがない。引きこもりすぎだろ。これはまずい。

夫が会食ということで、カタコトの母娘でオーダーするしかない。ピザ生地のサイズ、具の種類や数、ドリンクやサイドメニューまで、上手く伝えられる気がしない。

何を大袈裟なと思うかもしれないが、英語が話せない者がこの国で一人前の扱いは受けることは少ない。迷惑そうな顔をした店員の顔が目に浮かぶ。そう思っていつも尻込みしてきたのだけど。

がんばってみる?

冷や汗かきかき、YouTubeで美味しいと紹介されていた、PAPA John's(アメリカの大手ピザチェーン)へやってきた。

直接行っても分からない。

なんとかなると思っていたのが甘かった。
よくよく考えれば当たり前なのだが、ピザは普通はデリバリーで、モバイルでオーダーするものなのだ。だから分かりやすいメニュー表など店内には置いていなかった。絶体絶命だ。

困ったねえ、と娘と言い合ってみてもロクな解決策は出てこない。時間だけが過ぎていく。諦めて帰りかけたその時に、忙しそうな店員のおばさんが、手を止めて話しかけてきてくれた。

嗚呼、女神様。

コソコソと母国語で話し合っている東洋人親子に、それはそれは親切に説明してくれた。私よりも少しだけ英語が分かるようになった娘が受け答えして、何とかトッピングもチョイスできた。

全体にパイナップル、右半分にはきのことチキン、左半分はペパロニとハム。もっと追加しても値段が変わらないからと、何度も勧められ、気がついたら言われるがままにものすごいボリュームのピザになっていた。そしてなぜか9ドルも割引してくれ、思った以上に安価ですんだ。

しあわせ〜

ピザの匂いに包まれながら、箱を抱えて帰る。

そのピザの美味しかったことは言わずもがな。あれだけ色々のせたのに不思議と重くない。アメリカのピザは日本のとは別物だった。

アメリカの外食は高くつく。価格に加えて税金とチップ。計算にも慣れていないからもたつくし、それを思うと面倒になって極力行かない方向になってしまう。

でもこうして、たくさん助けてもらってありついた美味しいものは、人を幸せにするものだなと改めて。たかがピザだけど、そのピザさえも大きなハードルの向こう側なのが現実の、異国に暮らす駐在家族。

ピザくらい買えるようになりたいな。またあの店に行ってみよう。




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