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『ナナメの夕暮れ』を紹介

2015年~2018年、1978年生まれの筆者が37歳~40歳の間に書かれたエッセイがまとめられています。現在その年齢を迎えている私としては非常に刺さる文章が多かったです。

本の紹介

一般的に男性は20代~30代をピークに男性ホルモンの量が減少し、それに伴い攻撃性、性衝動、活力等が低下していきます。二次性徴期には日々増加する男性ホルモンによって起こる変化への戸惑いと、有り余る活力が感情となって噴出します、これを思春期と言います。30代後半では逆に男性ホルモンの減少による変化を体感することになります、これを「老い」と言います。(「初老」が40歳と言われるのもこの辺りに由来しているのではないでしょうか。)

年齢的に考えるとこの本は、世間をナナメからみる尖った若者だった筆者が、どのように「老い(夕暮れ)」を受け入れていくのかが、本人の心象とともに記録されたものと言えるでしょう。

印象的だった変化

例えば、本の前半「深夜、何をする?」で筆者は面白いものが見つけられないことを嘆いているのですが、具体的な解決策には思い至りません

それが、後半2018に書かれた書下ろし「ナナメの殺し方」では、自分の内側におもしろいことを創れなかったのは、ナナメ(シニカル)さから他人の行動を否定したことに原因があると書かれていました。

私なりに解釈すると、人間は基本的に自己矛盾に耐えられないため、何かを否定してしまうとそれを後から肯定することが難しくなります。例えば、誰かに対してスタバで「何、グランデとか気取ってんだよ。」と思ったり言って否定してしまうと、自分自身がスタバで注文することが気恥ずかしくなります。(過去の自分と矛盾しますし、自分と同じような誰かに否定されているような気分になるので)、そういった他人の否定を続けていると自分が何をやってもそれを否定する自分が出てきてしまい、楽しむことができなくなるという構造に筆者は思い至ったのだと思います。

そこで、筆者は自分の中の「世界への否定感」をなくすために、好きなものを書き留める「肯定ノート」を作成し、少しづつでも自分が好きなものを集めることによって、徐々に肯定できるものを増やしていきます。

この本に含まれているエッセイの多くはその途上で書かれているものなので、自分が好きなものを紹介するにも一旦ディスクレイマーを入れたりしているあたりが可愛いです。そして最終的に筆者は否定的な自分(ナナメ)を殺して、人生を楽しむことができるようになります

これも、ガンガンにホルモンが出てるときだと気付けなかったと思うんですよね。「老い」というのは一般的に悪いもののように言われていますが、自分を顧みたり生きることに余裕が出るという意味ではいいこともあるのかもしれないですね。

こんな方にお薦め

上記に書いたように、青年からおじさんになっていく途上で著者が感じたことを書いている本です。すでにおじさんな人は、懐かしく、途上の人は共感でき、若者や女性はそんなこともあるんだと、観察するように読むことができると思います。なので、万人にお薦めできますが、メディアに出ている筆者を見ていて不快な気分になっている人がいるとしたら、その方は読まない方が幸せだと思います。

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