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「立つ鳥跡を濁さず」- ”Abandonment” (廃坑・廃鉱) の大切さ

アルファベット順に並ぶ英単語暗記帳の最初のほうに出てくる単語の中に “Abandon”、”Abandonment” というものがあります。「捨てる、放棄する」、「見捨てること、放棄」などと訳されています。

英単語暗記が長続きしない私は、挫折してしばらくするとまた "A" から始めるので、Abandon や Abandonment はとてもよく目にしてきた単語でした。日常会話ではほとんど使うことはありませんでしたが。

しかし、この単語は石油開発会社の中では比較的頻繁に使われます。

石油開発会社の中では「廃坑」「廃鉱」などの意味でよく使われます。

「廃坑」は井戸が衰退して、これ以上商業的に採取できなくなったとき、あるいは何かのトラブルで井戸が破壊され改修できなくなったときに、その井戸を捨てることを言います。

一方、「廃鉱」は油・ガス田からの生産量が減り、商業的に生産が継続できなくなり、生産をやめて油・ガス田を完全に廃棄し、撤退することを言います。

坑井も油田も、一時的に生産を中止して、地下圧力の回復や新技術の開発・適用を待って、将来、生産再開を期待する場合には、廃坑・廃鉱ではなく、「休止 (Suspend: サスペンド)」 などと言います。

廃坑・廃鉱は石油開発に携わるものとしてはすこし寂しい言葉ですが、井戸や油田のライフサイクルの中では最後の非常に重要なプロセスです。

廃坑や廃鉱が適切に行われないと、地下に残る油やガスが漏れ出てくるかもしれません。海上の使われなくなったプラットフォームや生産施設を放置しておくと、漁業や船の運航上の障害になったり、崩壊や残油流出などによる環境汚染など、問題を起こす可能性があります。

事業実施に当って環境影響評価が義務付けられることは既に一般的になっていますが、特に海洋での採掘設備の撤去後に生ずる鉱害や海洋汚染、海上災害等を防止するため、「国連海洋法条約」をはじめとして、廃鉱に関する国際的な規制が整備・強化されつつあります。(石油鉱業連盟、(1) 石油・天然ガス開発事業の特性と開発環境:https://www.sekkoren.jp/kigyou.htm )

多くは生産が減退してきたときに廃坑・廃鉱のタイミングが来るわけですから、その時になって急に作業に必要な膨大な資金を集めたり投入したりすることは、石油開発会社にとっては非常に苦しいことです。

そのため、近年では海外の石油開発契約等において、廃鉱資金の事前拠出を義務付けられるケースも増えています。産油国との契約において、廃鉱資金をファンディングするよう義務付け、現地税制上、経費として認めるケースも増えています。石油開発会社自身も、廃坑・廃鉱コストも含めて、エコノミクスの評価を行う必要があり、資金準備をしておく必要があります。

石油会社は撤退してしまえば後はどうなっても構わないということでは通用しません。資金の面でも、技術の面でも、将来にわたって安全に完全に廃坑・廃鉱できるように準備を進めておくことが重要です。

とくに日本の石油開発会社はほとんどの石油生産を海外の産油国で行っています。たとえ将来、その産油国で生産している油田が枯渇して完全撤退することになっても、廃坑・廃鉱を適切に行うことが求められます。

廃坑・廃鉱の技術と聞くと何となく後ろ向きな技術のようにも感じますが、実は現在開発中の油田でも、坑井が減退すれば、その坑井を改修して生産を維持しようとしたり、坑井を途中まで埋め立てて、途中から別の穴を掘って (サイドトラック) 油を取り残している場所から生産するなど、常に将来の完全廃坑につながる技術開発が行われています。

また、古くなった施設も、撤去して新施設に置き換えるなど、将来の完全撤去につながる技術を蓄積しています。

完全廃坑・廃鉱後は長期間の (永年の) 安全性が求められますので、適用する技術が長期間にわたって安全性や環境に問題を起こさないかどうか見極める必要があります。そのためには今現在からモニタリングを行いながら適用した技術が長期にわたって有効かどうか検証を行っていく必要があると思います。

今から継続したモニタリングの努力が重要ですね。

話は変わって、原子力発電 (原発) でも廃炉の問題が言われています。石油に比べて歴史も浅く、技術的な困難さも非常に高いと思われます。廃炉のコスト、リスク、技術的課題などすべてを国民の前に示したうえで、原発の是非を判断してほしいと思います。そして現存する原発もいずれ廃炉を迎えるわけですから、現実問題として廃炉のための技術開発・維持のモチベーション、インセンティブも必要だと思います。

“Abandon” には「自暴自棄」という意味もあるようですが、廃坑や廃鉱に向かって「自暴自棄」にだけはなりたくありません。

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