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永遠に理解できないと思っていた祖母の発言を理解できた瞬間①「美味しい」のチカラ

都内某所のアパート、四畳半の1R(一応キッチンとの堺にドアがあるので1Kか)で一人暮らしを始めて1ヶ月が経った。

実家(というか祖母)が苦手だった私は、2時間もあれば帰れるあの神奈川のジャングルに、まだ1度も足を運んでいない。

私の祖母は今年72歳。(くらいだったと思う。苦手なので正確な歳は記憶していない。)

祖母の作る料理は基本全て酸っぱかった。酸っぱいというのは、レモンや柑橘類で味を仕上げたとか小洒落たそれではなく、単純に「お酢」の味だ。

祖母の大好きな健康長寿番組の影響で「お酢は体に良いものだ」と言う理念が染み込んでしまって以来、私と同居するようになってからほぼ毎日、食卓には謎の料理が並んだ。(影響を受けた祖母が、都度何かキテレツなメニューを打ち出してくるので私は健康長寿番組を恨んでいる。一人の未来ある若者の人格形成に大きく関わっているからな!忘れないからな”テレビ○日”! 一人暮らしを始めた今、絶対観てやらないぞ!)

祖母は、サラダや小魚、何にだって構わずお酢をかけるようになっていた。彼女の料理には、基本的に名前がない。(というか、つけられない。キャベツと煮干しの酢浸し?アボカドのマリネ?いや、しんどい。)

「美味しかったぁ…」

お世辞にも「美味しい」とは言えないその料理を、祖母は毎食、食べ終わると同時に、ため息のようにそう自己評価した。

(嘘つけい…!!)

私は祖母と二人、食卓を囲む度に内心ツッコんでいた。

だけど苦手な祖母にそんなことは言えるはずもなく、私は大学やバイト、サークルに明け暮れ、祖母と同じ食卓から遠のいて行った。

ーーそして、一人暮らしを始めて1ヶ月が経った今。

”○ookpad”やら”○天レシピ”やらを見ながら自炊生活を始めた私。祖母には負けじと和洋中、どの料理にも対応できるように調味料を揃えた。

2018年11月29日(木)。本日の晩御飯は餃子専門店の焼き餃子一人前とサラダ。(ツッコむところだよ)

早くも自炊の匙を投げ始めた私。食べ終わるや否や、

「美味しかった…」

(ん?あれ?)

聞き覚えがある語感だった。祖母の言葉が移った?あの家では一度も言ったことがなかったのに?

その時私は思った。「美味しい」と言う言葉が持つ本当の意味を。JDがインスタのストーリーに載せるために使う、「〇〇ちゃん可愛い〜〜」と同じような「ファッション美味しい」とは訳が違う。孤独な空間を、精一杯の幸せに満ちた虚像で補う言葉だ。「美味」という幸福に溢れた単語で、味気のない冷え切った食卓を包み込む。

8人家族の末っ子として、サザエさんのようないわゆる”家族”で育ってきた祖母はそうやって、両親が離婚して突然流れ着いた、祖母からしたら”不幸な孫娘”との冷え切った食卓を「美味しかった」という魔法の言葉で補っていたのかもしれない。





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