やさしいライオン
昔、近所にあった本屋に入り浸っていた頃、画材見たり、手芸本見たり、文庫本見たりして、たまたま絵本コーナーにいた。高校生〜社会人くらいだったと思う。
目の前に、やなせたかしさんの「やさしいライオン」があったので、あーこれか、なんか聞いたことあるな、と思い少し読んでみた。
もう号泣した。店頭にいたので、非常にやばかった。
田舎なので、ほぼ全員が知り合いみたいなものだ。本屋でも知らない人などいない。
大急ぎで家に帰って、そしらぬふりで自宅のタオルで顔を覆った。。
当時やなせ氏は「詩とメルヘン」という雑誌で、投稿者の評価や、この本はどう、など個人的な思いをかなり書いていた。
投稿者をやっている立場からしたら、「口うるさいおじさん」である。どうしてこんなに、自分のことを自由に書けるのだろう、という謎もまだほとんど知らず、そういう人なのだ、と思っていた。
わたしも何度も投稿したが、一度も採用されたことはなかった。
次点になったことがあったが、そこでも手酷い言葉をかけられました…。
そんな人がこの絵本を書いたのだ。
時代的に言えば、これがあったから70年代好きなことができたのだそう。
おそらく、大半の人が嗚咽するほど泣くと言われている本だ。
アンパンマンの少し前の作品のようだ。よく売れていたようで、本も何冊も置いてあった。
これが大ヒットして、アニメ化されたりとかして、あのやなせ氏になったのだ。何も成し遂げていない人間にはぐうの音も出ない。
結末に賛否両論ありますが、やなせ氏の作品はいつもそうです。描き直そうとする人を止めて、そのままにさせたという話も聞きます。
戦中を過ごした人ですので、多少表現がアレになりますが、それは真実。だから、戦争したらいかんねん。
わたしの父母は、悲惨な戦争体験をしていないので、読み聞かせる本もディズニーだったり、もっとのんびりした本が多かった。
それで、こちらの世界を覗くことがなかったのだが、70年代は戦争体験者が体験を書くか否かで割れていた頃。色々な人がいて、うちのように戦争色のない生活でも、反対を叫んでもどちらでもいい。
結局、色々な本やテレビなどで、どちらも見ることになる。
どちらにしても、何かしらの熱いテーマ、どうしても伝えたい事のあるなしの差はでかい。
わたしらの書くものなど、物足りなかっただろう。
でもこれだけ時代を過ごして、戦争こそないが、人とぶつかったり褒められたり、悔しい思いもして、伝えたいことはかなり増えた。今あの頃のように睡眠時間を削って漫画描けるのなら、書きたいことはいくらでもある。
今の人形というスタイルは、伝え方としては全く違う。
いまの時代、やっぱり色々な思いをして生きてきて、伝えたい人ばかりだ。逆に聞き手が足りない。
人形というのは、メディアのように発信のみではなく、聞いてくれるもの。
発信が増えすぎた時代に、吸収するというジャンルに飛び込んでしまった。なんとも不思議ではあるけれど、イマココなのだ。
なのに、思えば当時からやっていた事でもあった。
その本屋はもうない。妹に聞いたら、跡継ぎがいなくてやめてしまったとの事。
手に取った当時で20年前の本だったが、今まだ求めるひとが後を立たない、すごい絵本だった。
そういう、人に残せるものが作れるのか?とやなせ氏は投稿者たちに説いていたのかもしれない。
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