うつになって気づいた100のこと|うつでもナンパはされる
平日の昼間。
コーヒーを片手に、一人で表参道を歩いていた。
土日よりは人は少ない。
睡眠導入にはアロマオイルが良いと聞いて、
3件くらいのお店を回った。
午後4時。
これだ、と思う香りに出会えず、
他に買いたいものもなく、
足も疲れてきたしもう帰ろう、
そう思ってぼーっとしながら交差点で信号を待つ。
「あの、すみません!」
とても若い男子に、急に話しかけられた。
本当にぼーっとしていたので、
一瞬自分に話しかけてきたことが分からなかった。
すみません、と2回目の呼びかけで、
しっかりと目を合わせてしまった上に、
はい?と咄嗟に返事をしてしまった。
「あ、あのう、すごいタイプで。」
シンプルにナンパだった。
私は都内だとよく人に道を聞かれる。
急に話しかけてくる人の9割が
道迷い人かナンパだと思うが、
(女性の場合は大体みんなそんなものだろう)
瞬時には見分けがつかないことも時々ある。
道迷い人だとすぐ分かったら当然、足を止める。
私自身が途方もない方向音痴、いや
方向感覚ゼロの人間なので、目的地にたどり着けない
失望感がよく分かるからだ。
(ただ、道を聞かれても大体分からないので
結局Google Mapで一緒に調べることになる。)
100%ナンパだと思った場合は、
聞こえていないふりをするか、しつこければ
絶対に目だけは合わせずに、
「急いでるんで」と言って早足で歩けば
大抵は諦めてくれる。
私の性格的に、一度でも目を合わせて何らかの
応答をしてしまうと、赤の他人にも関わらず
相手に何故か妙な情がわいてしまい、
急に冷徹になることができなくなってしまうからだ。
相手だって数打ちゃ当たるくらいの感覚で
声をかけているのだから、そのうちの一人に
素っ気なくされても、大して気にはしない
というのは分かっている。
けれども私にはそれができない。
ひどい時には、あまりにもしつこいナンパだと
どうしたものか、笑えてきてしまって、
ヘラヘラと笑顔を見せてしまうことさえある。
今回は完全に気を抜いていて、失敗した。
しっかりとその目を見て、
「はい?」と声を発してしまった。
「あの、すごいタイプなんで、
LINEだけ交換してもらってもいいですか?」
あ、えっと、、、
ちょっと友達と待ち合わせしてて急いでて、、
「友達とどこで待ち合わせしてるの?
一緒に行きます。」
は?いや、えっと〜、、、
「とりあえず!後ですぐブロックしていいから、
一旦LINE交換しましょ。」
あ、う〜ん、いや、、その、
たぶんあなたと歳が全然違うから、、、
我ながら謎の言い訳をしてしまった。
「え?じゃあ俺何歳だと思う?」
え、うーん、、ハタチとか、、
「いやもっといってるから!22!」
いやクソガキやないかと思いながらも、
弱冠22歳の青年にナンパされたことの
絶妙な小っ恥ずかしさと、
内心まんざらでもない自分の痛々しさが
胸にぎゅっとしみた。
とはいえ私はその時マスクをしていた。
やはりマスクの詐欺効果は
もはや犯罪級だと心の中で頭を抱えた。
男性はマスクの下に潜んでいる
リスクをきちんと想定して
ナンパをしているのだろうか?
その青年はマスクをしていなかった。
いやしかし、余計な言い訳をして
自ら会話を広げてしまった。
何やってんだ私、、と思いながらも、
青年の無邪気でキラキラとした目を
ジッと見てしまった。
「あ、言わなくて良いっすよ、
言わなくて、年齢」
22歳、と聞いてすぐ目を伏せながらウンウンと
頷く私を見て察したのか、すぐに青年はそう言った。
私が余計なことを言ったせいで、
会ったばかりの赤の他人に
気を遣わせてしまったのか、それとも
私の年齢を聞いた時に、ちょうど良い反応を
するのが面倒だったのかは、分からない。
「年齢なんて、ただの数字なんで!」
シャキーン!という効果音が聞こえた。
ああ、早くこの場から去らなくては。
長い信号は青になった。
無視して走りさればいいじゃないか。
えっと、、本当に、友達待たせてて、、
それしか言うことないのか?
自分に呆れた。
「え、じゃあ俺ブスだと思う?
イケメンだと思う?」
あ、イケメンだと思います、、
「でしょ?」
ブスだと言ったら彼はなんと返してきただろうか?
想像もつかないくらい、自信たっぷりの振る舞いに
あっけに取られ、咄嗟に普通に即答してしまった。
彼は本当に端正な顔立ちをしていた。
自分の容姿の感想を、面と向かって、
他人に直接聞くなんて、私には絶対にできない。
自分を良いと思うこと、そして
きっと相手も自分を良いと思っていると
確信できることは、すごいことだ。
羨ましかった。
眩しかった。
根負けした私はLINEを交換した。
本当に後からブロックすれば良いだけの話だ。
「何飲んでるの?」
ふ、普通のコーヒーです、、
「美味しい?」
え、はい。。
「スタバより美味しいカフェに行こう!」
ははは、、、
もうなんでもいいか、
と諦めて、そんな会話をしながら、
とりあえず逃げた。
何も謝るようなことはないのに、
ペコペコっと浅く会釈をしながら信号を渡った。
若い男子に完全に転がされている自分に
とうとう耐えきれなくなった。
ありがとう、じゃあね〜
と彼は言いながら手を振っていた。
横断歩道を渡って、ふぅ、と
少しだけマスクを外して、
近くのインテリアショップに一旦避難した。
だめだ、今日はもう本当に早く帰ろう。
帰りの電車で、LINEを開く。
彼のLINEプロフィール写真を見た。
先ほどと同じ、キラキラとした目が、
こちらを見ていた。
まだ特にメッセージは来ていない。
ゲームか何かだったのだろう。
誰でもいいから
LINEをより多く交換した人の勝ち、みたいな。
電車に揺られて、とても眠い。
これくらい、夜寝るときも
ちゃんと眠かったらいいのに。
いや、眠いのだけれど、いざ寝ようとすると、
あれやこれやと考え事が始まってしまう。
心配なこと、気がかりなこと、不安なことが
とめどなく溢れてきて、とても眠れたものではない。
病院でもらった薬は、効いているのかいないのか。
降りる駅でちょうど目が覚めた。
LINEを見ると彼からメッセージが来ていた。
「今日はありがとう!
今度カフェに行きましょう!」
ドラマだったら何か始まるやつなのかな。
歳の差の恋とか?
現実はそうナメラカではない。
私はそっと彼をブロックした。
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