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アイデアを次につなげる方法|ブレインストーミングとKJ法

こんにちは、市橋です。
着想から論文化まで多くの研究プロジェクトに携わっています。

今回、ひらめいたアイデアを次につなげたい方に向けて書きます。

「ディスカッションをしたけど、何を得たか分からない」、「同じミーティングに参加したのに認識がずれていた」、「ミーティングの議事録は結局読み返さない」ということありませんか?

私もよくミーティングでアイデア出しや情報交換をするのですが、結局、次につながらないという経験を多くしてきました。あるとき、ブレインストーミングとKJ法を試す機会があり、想像以上の効果を実感しました。

そこで今回ブレインストーミングとKJ法についてご紹介します。

1. ブレインストーミングとKJ法

アイデアや情報をまとめるときに有効な方法として、「ブレインストーミング」と「KJ法」があります。まずそれぞれついて解説します。

ブレインストーミングについて

集団でアイデアを出し合うことによって発想を誘発する方法です。
アレックス・F・オズボーン氏によって考案されました。新しいアイデアを出すことを目的としており、発言された意見に対して批判をしない、質よりも量を重視する、すでに出てきたアイデアの改変や結合も許容することが特徴とされています。

ブレインストーミングを後述するKJ法につなげる場合、アイデア出しだけでなく、関連情報も出し合うことが必要になります。参加者の頭の中にあるアイデアや情報を探索する「内部探索」に加えて、自分たちの頭の中以外の世界にあるアイデアや情報も探索する「外部探索」が求められます。

KJ法について

断片的な情報やアイデアを整理しながら新しい発想を引き出す手法です。
ギリシアのアリストテレスによって提唱された論理学の方法として、帰納法(Induction)、演繹法(Deduction)、発想法(Abduction)があります。前者2つの帰納法と演繹法は今日まで十分に発展させられ学問の重要な方法となりましたが、最後の発想法は埋もれたままでした。川喜田次郎氏はこの発想法をご自身の体験から再発見して、構築した方法が「KJ法」になります。

このKJ法には、前述したブレインストーミング等によって出てきた多数のアイデアや情報を対象として、それらの関係性を可視化・文章化して、高次のアイデアを引き出すことができます。

これらブレインストーミングとKJ法は、一連の研究活動のプロセスのどこに位置付けられるのでしょうか?
下の図をご覧ください。

まず研究活動のプロセスは、1. 問題提起、2. 探索、3.観察・記録、4.仮説の発想、5.推論、6.実験計画、7.観察・記録、8.検証、9.結論、になります。しかし、これら全てのプロセスを一つの研究プロジェクトで完結している事例は少なく、多くの場合は研究分野により取り扱うプロセスが異なります。

例えば、文献からの推論を主とする人文社会系の研究では、1.問題提起から5.推論、9.結論という過程になります。実験科学を主とする理工系や生物系の研究では、1.問題提起から5.推論に接続し、6.実験計画、7.観察・記録、8.検証、9.結論という過程になります。フィールドワークを主とする人文社会系や生物系の研究では、1. 問題提起、2. 探索、3.観察・記録、4.仮説の発想という過程になります。

近年、学問分野が細分化されておりますので、現代科学の研究者からすると研究活動の全プロセスを眺めることは新鮮に感じられるかと思います。

今回紹介するブレインストーミングは2.探索KJ法は4.仮説の発想に位置付けられます。

KJ法を考案した川喜田二郎氏は野外科学を専門とする研究者であり、一見無秩序でバラバラな野外データや記録を相手に思考錯誤しており、複雑な情報の断片から背後にある原理を抽出する実践的な手法としてKJ法を考案されました。

仮説を発想する1〜4のプロセスはとても汎用性の高い科学的な手続きのため、その実践的な手法であるブレインストーミングとKJ法は多くの現象に対してアイデアを整理して高次の理解を導出する有効な方法として広く認知されるようになりました。また思考プロセスをオープンに展開するため、参加者が共通の認識に至ることができるといった副次的な効果も期待されます。

以上、まとめます。

【ブレインストーミングとは】
問題に関連するアイデアと情報を網羅的に探索する方法

KJ法とは
探索したアイデアと情報をまとめて、問題の背後にある関係性を図解及び文章化する方法

ブレインストーミング-KJ法で期待される効果】
・複雑な問題でも整理して理解できるため、次の行動につなげやすくなる
・問題に対する理解を参加者全員で共有することができる

2. 効果を実感した事例

私がブレインストーミングとKJ法を使って効果を実感した事例を2つ紹介します。

総説論文につながった!

ある日、知り合いの研究者からシンポジウムを企画しようと提案されました。そこで同世代の若手・中堅研究者10名ほどが集まり、シンポジウムのアイデアをどうするか相談することになりました。そのときに、ちょうど私がブレインストーミングとKJ法について勉強していたので、これらの方法をシンポジウムの企画で試してみることにしました。具体的には、私たちが対象とする研究分野について、現状の把握、課題の抽出、将来の方向性について議論しました。その結果、今まで漠然としていた分野の全体像が浮かび上がり、今後この分野が向かうべきビジョンを明確にすることができました。最終的なKJ法で整理された一枚の図を目の前にして、「全員でビジョンを共有する」という一体感を感じたことを今でも覚えております。

そのときにまとめたビジョンに基づいて、キーとなるトピックスに相応しい研究者をスピーカーとして招待してシンポジウムを企画しました。開催当日は立ち見が出るほどの人数が集まり、シンポジウムの後半に設定した総合討論では本分野のビジョンについて若手から大御所まで多数の意見が飛び交うほど盛況でした。後日このビジョンをたたき台として、本分野の研究者が集まるコミュニティで議論を交わす機会がありました。そこで出てきた意見について、さらにKJ法を実施し、ビジョンを洗練化させることにより、総説論文として発表することになりました。

このように、アイデアをまとめることにより論文発表につながり、分野に貢献できたという良い経験になりました。

家庭の問題が解決した!

ブレインストーミングとKJ法が役立つ場面は仕事だけではありません。プライベートの問題の解決に使った事例も紹介します。私たち夫婦はアメリカから帰国する直前に子供を授かったため、帰国後は妻の実家の近くに住むことにしました。徐々に私の仕事が忙しくなると、私は家事や育児に時間を割くことができなくなり、また妻は育児で忙しくなり部屋が散らかってしまう、散らかった環境ではゆっくり休息が取れないという悪循環になってしまい、お互い不満ばかりの日々を過ごしておりました。

そこで、どうしたら現状を改善できるか、妻と2人でブレインストーミングとKJ法を試すことにしました。その結果、意外にもお互い認識していなかった性格や好みがわかり、私たちが抱える問題の主要因が「住む場所」であることがわかりました。当時の私は職場まで往復4時間の満員電車という通勤をしており、大半の時間を移動時間に費やしていました。また当時の私たちとしては仮住まいというつもりだったのですが、次の子が生まれ、結局そのまま7年間同じ場所に住みました。そのため、家具などにも無頓着だったりと、長期的な視野を持っていない状況が浮き彫りになりました。

そこで、家族それぞれにとって適した環境は何かを相談し、引っ越しをすることにより生活を大きく変えることにしました。その結果、妻も私も精神的に余裕が生まれ、相手のことを気遣えるようになり、毎日に少しずつ笑顔が増えるようになりました。このように、目の前の複雑な課題をまとめることにより具体的な解決策につながり、またアイデアを一緒にまとめるというプロセスを通して、お互いについて共感し合うことができたという良い経験にもなりました。

3. ブレインストーミングとKJ法の実践

それでは、ブレインストーミングとKJ法の具体的な実践の方法をご紹介します。

原著では付箋のような小さい紙を使って行いますが、パワーポイント等のスライド上で行うことをオススメします。場所を選ばず、すぐに始めることができ、結果を保存することも容易です。

【準備】
・人数の目安:1〜20名(5名くらいが最適)、うち1名が記録係
・時間の目安:ブレインストーミング(ステップ1)に1時間、KJ法(ステップ2〜3)に1時間
・ツール:パワーポイント、Keynoteなど
・場所:対面でもオンラインでも実行可能(スライドを共有する)

ステップ1 ブレインストーミング

参加者全員で対象とする問題についてのアイデアや関連情報を出し合います。その際、以下のルールを徹底することを事前に確認しておきましょう。

【ルール】
・どんな意見でもOK
・質より量
・批判しない
・前に出た意見の改良や融合でも良い

記録係は、参加者から出てきたアイデアや情報をスライド1枚の上に書き込んでいきます。その際、発言をそのまま書くのではなく、発言のエッセンスを1行で書く必要があります。ただ過度に抽象化せず、発言の要点を書き留める程度が最適です。

記録係は、抽象的に考えることが得意な方が向いていますが、慣れれば誰でもできるようになります。また目安としては1分間に1〜2のアイデアや情報が出てくることが良いペースとされております。

ステップ2 KJ法 グループ化

ブレインストーミングで出てきた多数のアイデアや情報を一つずつ確認しながら、近いと思うものを近くに配置していきます。この時点では直感的に作業していくことが推奨されています。

一通り全てのアイデアや情報を確認して配置を整えると、あちこちに小グループができていることになります。そこでこれらの小グループについて再度内容を確認して、小グループごとに内容をまとめて一行のラベルをつけます。これにより、散在していたアイデアや情報がラベル付きの小グループにまとまり、少しずつ情報が整理されていきます。

次に小グループのラベルに基づいて、近いと思う小グループを近くに配置して、中グループを作り、ラベルをつけていきます。この作業を再度繰り返すことで、さらに大きなグループを作っていく、といった具合に進めていきます。

ここでは、小分けから大分けの順でボトムアップ的に整理していくことが重要です。参加者で発言力がある方が最初に大分けを提案して、そこにアイデアや情報を分類してしまうことがしばしばありますので注意が必要です。

またグループ化がどうしてもできないアイデアや情報についても無理にグループの収める必要はありません。そのような孤立したアイデアや情報はそれ自体にそれだけの意味があり、中グループや大グループといった高次のグループに自然に入ることになります。このような一連のグループ化の作業を参加者全員で議論しながら進めます。

ステップ3 KJ法 図解

グループ化した際に付けたラベルの内容を確認しながら、適切な空間配置を探索します。川喜田氏も著書で言及しておりますが、このステップは科学的な手法ではなく主観的にどうとでも決めれてしまうと批判されたそうです。確かに問題に対する切り口によって適切な空間配置は複数存在しますが、集めたアイデアや情報の意味に忠実である限り、主観が入る余地は少ないとされております。

適切な空間配置が決まったら、関係するグループ間を線で結びます。例えば、相互補完(<—>)、拮抗関係(>—<)、因果関係(—>)など。さらに空間配置をして新たに発想できた内容を書き足します。

以上により、問題に対するアイデアや意見をスライド1枚に図解できます。

ステップ4 KJ法 言語化

ステップ3までで十分にアイデアや情報をまとめることができますが、言語化することにより、問題に対する論理展開を精査することができます。

実際、ステップ3において関係があると思われた繋がりが、文章化で修正されるケースがあります。このような言語化のプロセスにも新たな発想の余地があるため、このステップまで実行されることが推奨されます。

ステップ5 累積的KJ法

さらに複雑で多量の情報を扱う場合には、ステップ1〜4までをさらに繰り返すことで発想が濃縮されます。最終的に、少数の大きな仮説に加えて、多数の中小の仮説が導き出されるケースが多いとされています。

4. さいごに

いかがでしょうか?

一見プロセスが多く感じるかもしれませんが、試してみるとそれほど負担にならず大きな効果を実感できます。いつものディスカッションや意見交換のときにすぐに適用できる方法ですので、あなたがメインで関わる研究プロジェクト、これぞと思う重要な意見交換で、ぜひブレインストーミングとKJ法を試してほしいと思います。

もっとKJ法について学びたい方はぜひ原著を手に取ることをオススメします。

発想法
続・発想法

今回は以上になります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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