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勝手に1日1推し 125日目 「Artiste」

「Artiste」(1~8)さもえど太郎     漫画

もう何度読み返したかしれない。大好き。ホント、好き。大好きなんです。心温まる人生賛歌と言うか、安っぽい言い回しで非常に不本意なんだけれども、とにかくほっこりするんです!心が落ち着いて、優しい気持ちになれる。いろんな人がいて、いろんな考え方や悩みがあって、関わり合って、影響し合って生きている健気さが瑞々しくって輝いて見えるんだよ。理屈ではなく、心に直接訴えてくるの。人生捨てたもんじゃないって思えるから、好きなんだ。大好きなんだー。

時代や年齢や国籍、性別、いかなる属性であろうと心を打つであろう普遍的な群像劇。本当に素敵。大小に関わらずみんなが問題を抱えてて、そんな登場人物一人ひとりに寄り添った丁寧な運び、それこそが本作の最大の魅力で、とことん愛おしいんだなあ。いいなあ、と思います。

パリのレストランで働く気弱な青年・ジルベール。雑用係として、毎日皿を洗い続ける平凡な日々を送る彼だったが、陽気な新人・マルコとの出会いによって、世界は変わり始める。気鋭の新人が全霊で描く、すべて人々に贈るお仕事青春ストーリー。

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前置きが長くなりまくってしまったけれど、タイトル通り、芸術=Art、芸術家=Artiste。限りない才能を秘め、一歩一歩明日へ歩を進める彼らの生活を温かく見つめたお話です。

ジルベールは嗅覚と味覚が鋭いという特性を持つ料理人。その特異性のせいで(?)、気弱な性格で世の中に馴染めずいます。でもその非凡な才能は審美眼にかかれば一目瞭然で、有名シェフの新規レストランのスーシェフ(副料理長、今回は実質、料理長)に抜擢されます。同じように、才能はあるけれど少々個性的過ぎる面々が店舗オープンに向けて集まります。

最初に記した通り、個々のキャラクターや生きてきた道など彼らを特徴づけるエピソードが丁寧に語られて、ある意味全く異なる存在同士でバラバラだった料理人たちが、まるで共生するかのように徐々にお互いを認め合ってチームになっていく様が心地よいです。

並行して、新しい職場に移るにあたり引っ越しをするジル。新居は芸術家を優遇するという奇妙なアパルトマン。画家、デザイナー、音楽家・・・こちらも個性豊かな面々で溢れております。

引っ込み思案だったジルが多様な人たちに接し、刺激を受け、変わっていきます。それと同時に、ジルも周りの人たちに影響を与えているんです。
登場人物は総勢10人以上。とっても読み応えがあります!!キャラがしっかりしておりますので、誰だっけ?となることなんてありません。どこまでも自分事のように共感を持って寄り添って読み進められます。

又、職場や居住地という関係性とは違って存在する友人、マルコのスタンスがまたいいんだよなあ。性格やルックス、考え方、何もかも正反対、いわゆる毛色が全然違うジルとマルコ2人の時間がものすんごく尊いんだよな!
読むしかない、読むしかないですゾ!

んでんで、心に刺さるフレーズが大げさじゃなくてそこかしこに散らばってて、もう、もう、もう、私をどうする気?!とか思う。いいこと言うぞってドヤる感じゃなくて、その時、その状況だからこそ生まれるセリフだったり、逆に、その時、その状況でコレ?って思いもよらないセリフだったり、でもどれも心に馴染んで、くっきり胸に刻まれて、もう、もう、もう、牛になる位MOO、感動するんだよなあ。ああ、ほんと好き。人間関係を円滑にするためのヒントももらえるんじゃないかなあって思います。

更に、タイトルに言及したいです。
芸術を支えることは、日常を支えること、日々を彩り、心に灯りを灯すこと、と捉えるお国事情を鑑みると、フランスが舞台になっいるのがとてもしっくりきます。先に記した様に、描かれる人間模様については普遍的であっても、社会や風土、文化や思想については、やはり、国によって大きな違いがあると思わずにはいられない訳です、ハイ。 

芸術家の仕事はね 人の心を豊かにすることだから (中略) 人がパンと水だけで生きていけるなら・・・あんたの仕事(料理人)はいらないでしょ

2巻

上質な音楽も料理もかしこまって味わうものじゃない 当たり前のように存在していることこそ豊かである証拠だ 

3巻

芸術とそれを生み出す人に対する敬意と心持ちがとにかく神々しいんだよなぁ~。

とは言え、話末に描かれるクソパリシリーズなんか見ると、ぎょえってっなるし、清潔なトイレや配達物の正確性なんかの素晴らしさは日本もいいなって思ったりで、文化の違い、そんなところも感じられ楽しいです!

人生訓も多く、

人間は立体的なんだよ 正面からは見えない部分がとんでもなく汚かったり 逆に隠れている部分こそが美しかったりする

5巻

とか

自分を大切にできないうちはね あんたを心から愛してくれる人は 来てくれないの そういう時近寄ってくるのは 若さや体やおカネ目当て 悪党は弱くてバカで寂しい人を狙ってる

6巻

とか

誰かに傷つけられた人は 誰かを傷つけるようになってしまう ではその逆ならば? 誰かからもらった幸せを また他のだれかに譲ることができたら? 友からの親切が 恋人の愛が 父が娘を想う気持ちが こうして今お前の手に渡った まるで絵が時代を超えて人々の手を渡り歩くように (中略) この絵には金で買えない価値があると思わないか?

8巻

とか。
他にも、マジ、名言ばかりだから!!!列挙したら、文字数・・・ってなるんだから(既になってる)、もう、もう、もう、牛になる前にMOO読むしかない。読むしかないですゾ。

で、まだまだ続くよ、どこまでも。

そして、善悪関わらず、自分の意見を相手に伝える場面が多くて、ハッとさせられます。日本人の感覚からは、気後れしたり濁したりなぁなぁにしちゃったりしがちな状況でも毅然と意見し、対峙する。たとえ、綺麗事だったとしても、自分の正義を放てる世界は眩しくて憧れます。
フィクションの世界だけでも、じゃなくて、こういう読書や映画鑑賞やフィクションの世界で体験する経験の積み重ねで、現実世界にもいい影響を与えているんだって信じたい・・・。

ジルの同僚ヤンを裏切った仲間が謝ろうと訪ねてきて、ヤンに会いたいと言った際、ジルは

どうしてヤンがあなたを許さないといけないんですか? どうして・・・あなたに謝らせてあげないといけないんですか あなたが後悔していてもしていなくても そんなのどうでもよくて 今更謝られてヤンにどういいことがあるんですか 帰れって・・・顔も見たくないって言ってた 彼に謝って それで気分がよくなるのは あなただけだ 僕はあなたを許せない

3巻

と、追い返しました。
これって、自分を大切にしてくれない(軽んじる)人は大切にする必要ないっていう割り切りというか、日本人が結構苦手にしている心情じゃないかなあと思うんです。(自分の大切な人に対しても同様と考えます。)波風立てないで穏便にって我慢しがちで、そうすると本当に自分が疲弊するだけだからほんとこういうの、良くないなって思います。変えていきたいんだよなあ、私自身・・・

アキオ(アパルトマンの住人)が自身の漫画の方向性を編集者に変えられそうになって悩んでいる際、サラ(アパルトマンの住人)が

作者はアキオでしょ? どうして作品の根幹に関わる部分を他人が変えてしまうの? アキオが漫画を載せてくれって頼み込んだわけじゃない 依頼が来た それなのにお前は新人 こっちはプロって態度は絶対におかしい

4巻

って。そうよ、そうなのよ、真理でしょ。こんな友達、いいなあ、と思う。

なんか、この作品読んでると、周りの人たちや環境で、どれだけその人自身が左右されるのかも思い知る気がするんです。いい人の周りはいい人が集まる・・・みたいな、自分もそう(相手のようで)ありたいと思う・・・みたいな、ね。とっても大切なことを教えてくれます。

そしてそして、空気を読んだり臨機応変な対応をしたり、周り人と同じように出来ず、他者への不信感や孤立感を募らせながらも懸命に生きてきた料理人リュカが同僚との関わり(対話)の中で、やっと心が通じ合い

人間は全身で何をしているんだろうか 探しているんだ 自分を認めてくれる誰かを・・・ずっと探していたんだ

3巻

って開眼した瞬間は涙を禁じえなかったし、彼に対する仲間の対応力にもほれぼれしました!インクルーシィブぅぅ(涙)。

他にもとにかく社会派な部分も結構あって、でもリアルな日常生活の延長線上で起こりうる事柄なので、全然肩ひじ張らずにスルスル読めちゃって、感動しちゃってって、じーんとするんですよー。
きっと、クロックムッシュ(猫)がかわEからや!アキオがださTシャツを所持し過ぎやからや!ジルの卑屈発言が笑えるからや!フランス料理が美味しそうだからや!デセールが美しいからやーーーーっ!(食べたい・・・)

本作がデビュー作って、さもえど太郎先生、恐るべし。

ジルが住むアパルトマンの大家カトリーヌがなぜ芸術家たちを優遇するのかが明かされた8巻。そろそろ、佳境か?!って言うか、結末の予想が全然出来ないんだけれど、この先、ジル&マルコが掘り下げられることを希望します。次巻ではどんなに名シーンに出会えるのかしら?ワクワク。ジルベール繋がりで竹宮惠子先生も応援されていることですし、ワクワク。

OMG!言いたいことが多すぎて、長くなり候。まだ足りぬが、これにて。

ということで、推します。

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