勝手に1日1推し 60日目 「君ありて幸福」

「君ありて幸福」山田袋     漫画

多忙でした。精神的にも肉体的にもバッキバキに折れていました。ほんとに疲れたあああ。やっと一息付けました。ほっ。好きな物を好きと感じられるのも、心と身体、そして時間、経済的余裕なくしては叶わないという事実を再確認した次第です。何より平静の尊さよ。はぁぁぁ。と言いつつ、まだまだストレス負荷は続くよ、どこまでも。

まあ、やはり、復帰推し作品に挙げるのはBLということに致します。本当に癒し。というか、何より俯瞰して読めると言うか何というか。

BLというジャンルにおいて、主題はやはりBoyがLoveことにあるわけで、その恋愛に纏わるあれこれでストーリーが成り立ち、且つ、そこに各先生方のカラー、各個人の好みが出るという認識で、大丈夫ですか?私は読んできたBL作品を通して、そんな風に考えております。

そんな中で、山田袋先生の作家性は稀有と言えるでしょう。恋愛関係は描いておらず、Boy2人の恋愛未満な関係性を描いております。本当に不思議な雰囲気を漂わせております。ファンタジーというよりジャンル的にはミステリというかホラーというか(本作はホラーを基にしていると先生が言及しております)。先生の作品全てを読んだわけではないのですが、少なくともデビュー作、本作を見るに、この、肉体関係はあれど恋愛には結びつかない、でもお互いがお互いにとって必要であることが明確化された結末を迎えるという異色さ。この作家性には畏敬の念を覚えます。1度の鑑賞では到達しない深みが2、3回読むことで味わえます。表層ではなく、深層に近づけます。何度も読みたくなる中毒性が魅力です。世界観が独特、もの凄い!

ーー「今すぐボクと“遊んで”や 人助けやと思って」
面倒事を押し付けられては、人当りの良い笑顔で受け入れていた環。夏祭りでひとり店番をしていると、黒い羽根と尻尾をつけた関西弁の男・佐久間に出会う。
夜の公園での営み以来、環は大学にも行かず佐久間とアパートに引きこもり、淫らな生活を送るように。願われるまま行為に応じていた環だったが、段々と歯車は狂い始め…。
真夏の夜に出会ったのは本物の悪魔か、それともーー? Amazon

あらすじは以上の通りです。人と人外的なものが自然に共存するスタイル。理屈や理由は存在せず、ただそこに人外的なものが存在するって言う感じ。ゆえに意味が分からないと感じる人も多いかもしれません。過剰な説明や演出もないですもん。でも状況を把握できるに足る情報はしっかりと絵で描かれている。生活感や時間の流れ、空気感や匂い、温度さえも感じさせるんだなあ。佐久間のある一言をきっかけに、環が狂気をはらみ始め、一気に物語が加速していきます。これが薄ら怖かったりするんだけれど、絵がキレイでうまいので、何とかなります。

更に、関係性が分かりやすく「らぶらぶ愛してる♪」みたいなハッピーエンドには落とし込まれません。私は人と人ならざる者との交わりが、主人公たちのギリギリの精神状態を表していると読みました。過去や現状に閉塞感や違和感を感じている主人公の心の隙間に喪黒福蔵のごとくドーン!と入り込む人外。結果、その内に秘めた事実に無自覚だった主人公を救う形になる。その交わりで当事者同士にしか分からない、2人にとっての明るい未来を感じさせるラストを迎える訳ですが、これがまた心地良いカタルシスを生むんです。あぁ、摩訶不思議。うっとり。

このような一瞬「は?」みたいな共感を必要としないタイプの作品って意外と少ないよなあ。情報も好みも自分に合わせて選んでしまえる時代において、このまるっきり手放しで意味不明、且つ、許容範囲を超えてくる作品は本当に貴重だと思います。自分が共感できるかできないか、好きか嫌いかが全てではないみたいな、こういう感覚も中々いいものです。私も一読後は「ん?」ってなったもの。でもちがーーう!分からないで片づけるのはモッタイナイのであります。同時収録作「川の水は甘い」もブッ飛んでます。なんじゃこれ!です。子供の頃はこのなんじゃこりゃ感にワクワクドキドキしてたってのに、いつの間にか自分の枠の中でしかモノを見ないつまらん大人になっちまってた、、、と猛省。てか、大人じゃなきゃこんな絡みのシーンは見れんけどね(汗)

多くの人におすすめ出来るかと言うと、違うかもしれません(個人の見解です)。でもこういう理解を超えたところに芽生える感情を目覚めさせるようなオリジナリティを放つ作品がずっと在り続けて欲しいと願います。

ということで、推します。

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