勝手に1日1推し 41日目 「風と木の詩」
「風と木の詩」竹宮恵子 漫画
誠に遺憾ながら、この2021年まで、かの有名な伝説的超大作「風と木の詩」を読まずして生きて参りました。こんなことって、こんなことって。自分を恥じます。そりゃあ、知ってはおりました。ジルベールのこと。友達が学校で騒いでいましたし。しかし、正に、知っていることと理解すること、感じることとの違いをこんな形で再確認することになろうとは。一気読みの時間をありがとう、GW。素晴らしかったです!!!泣きました。
エグイくらいに真っすぐに人間の尊厳と人権、性と生と死が描かれていました。そして、少女はほぼ出てこないにも関わらず、壮大な時代設定、大胆でドラマチックな展開、背景の装飾描写(花々、木々、葉々、蔦のきらめきなど)は完璧なる少女漫画でございました。嗚呼「風と木の詩」。タイトルがなんとしっくりくることか。
寄宿舎で同室となったジルベールとセルジュのお話です。それぞれの生い立ち、学校に入学するまでの過程、学校、寄宿舎での生活をおって彼らの関係性と人生を描きます。とんでもない美貌を誇るジルベール、人種的に異質であるセルジュ。ルッキズム?!どちらもモブにはなり切れない2人であることが共通点であり、2人を近づけたようにも思います。
両親に捨てられ、叔父(?)から人間としての尊厳を無視した扱いを受けて育ったジルベールが、いかにその後の人生を重く暗いものにしたかがひたすら不憫で、美し過ぎるという見た目が更に彼を苦しめるという残酷さにも目を覆いたくなります。性的搾取と洗脳。はあ、恐ろしや。
逆に両親から愛され、すくすく育った才能に恵まれたセルジュ。両親を早くに亡くすも健やかに清廉に育ちます。真面目さと実直さでジルベールと向き合う彼の姿は健気で応援せずにはいられないのですが、その性格が裏目に出ることしばしば。涙。ジルベールを引き受けたことへの葛藤もしばしば。涙。
2人の育ての叔父、両親の歩みと彼ら自身の歩みの相違も見どころです。
「我思う、ゆえに我あり」デカルトです。本作でジルベールとセルジュが悩み苦しむのは「身体と心は別にある」という「心身二元論」に基づく哲学的な思考かなあと。(あ、デカルトってフランス人!)心ではセルジュを求めるジルベール。でも身体はオーギュを求めちゃう。みたいな。ってか、オーギュが元凶!されて嫌なことは人にしちゃいけないって大人から教わらなかったの?!悲惨な過去は認めるが、それでもあなたの言動は許されるものではありません。子どもにも人権があり、尊重されなければならない。子育てをする上で、決して忘れてはならないことです。まだ2人はアーリーティーンズ。子どもです。体力も思考力ももちろん生活力も何もかもが足りません。当時としては草分け的な自立した女性パット(子ども)が彼らのサポートをするのが救いです。終始、大人たち、なにしとんねん!ってなります。弱き者からの搾取、許すまじ。
いずれにせよ、ジルベールとセルジュは魂が共鳴し合ったんでしょうね。悲劇的なラストなんてもろに少女漫画で、もろに好みど真ん中でした。
こりゃ伝説にもなるわ!世間ではBLのはしりだとか言われているようですが、いやいや、それとは違うような。性的なシーンは暴力でしかないし(セルジルは除く)、彼らの魂の繋がりはエロス、フィリア、ストルゲ、アガペーを全てを内包した愛だし。学習漫画的な位置づけも良いのでは?
ちなみに、時代的背景やフランスの貴族社会や社交界、更には市民生活や当時の流行り、遊びなどの風俗や宗教的観念は興味深いし、描かれる衣装や建物、内装も素敵です。
文庫版で読んだのですが、解説陣も豪華ですよ!寺山修司先生とか。当時のことが色々知れました。舞台化したとか、凄いんですけど~。
「この作品が読者に受け入れられなかったら、漫画家をやめる」との覚悟を掲げて連載をスタートさせたという竹宮恵子先生。誕生から終焉、その後、何年にも渡って読者に感銘を与え続けておりますよ!渾身の作品を届けて下さり、心から感謝します。
ということで、推します。
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