見出し画像

[83000回の脳のスキャンで判った、問題行動の影にあるもの]TEDスピーチ

 The Most Important Lesson From 83,000 Brain Scan

精神科医ダニエル・アメーン医師(Dr Daniel Amen)の発見は、精神と脳の機能の関連性のみならず、もっと先の未来にまで関わる重要な可能性を気づかせてくれます。2013年に発表され、1億2千万回再生されているスピーチです。

「私や同僚たちとの、83000回にわたる脳のスキャンの末に気がついた、一つの最も重要な話をしたいと思います。

精神分析学

まず始めに、私の背景を説明させてください。
私は7人兄弟の真ん中で生まれ育ちました。
1972年には兵役につき、衛生兵として訓練を受けたのが医学に興味を持ち始めたきっかけです。でも泥にまみれながら戦場で撃たれる可能性に我慢ができなくなり、レントゲン技師として再訓練を受けることにしました。
なにごともやってみなければ分からないものですからね。

その2年目である1979年に、家族の一人が深刻な自殺願望を持つようになり、優秀な精神分析医にかかりました。その治療は、彼女を治しただけではなく、彼女の子供達、さらには将来の孫たちの存在にまで影響したかもしれない、世代を超えた未来にまで貢献できる精神分析という領域の可能性にすっかり魅了され、またもや進路変更しました。

SPECT スキャン

その後にSPECTという頭脳を透視できるスキャンが開発され、すっかりハマった私は、それ以来22年をかけて同僚たちと93か国に渡る人の脳のデータベースの分析し解明に労力を費やすことになります。⬇️
SPECTスキャンは3つのことを可視化させてくれます。
1)尋常な動き 2)過剰な動き 3)緩慢な動き です。

画像1

⬆️このSPECTスキャンの写真は、脳の表面の状態と、内側の状態を示しており、色より形が多くを語ります。右側は健康な脳の表層であり、赤いエリアはアクティビティレベルを表し、脳の後ろ側に多く見られます。

次のスキャンは、左の健康な脳と、脳卒中を2度起こした脳との比較です。⬇️

画像2

次は、アルツハイマー病の脳の様子です。脳の内部で起こるアルツハイマー病は、初めて兆候が表層化する30−40年前から起こり始まるのはご存知ですか?⬇️

画像3

次は、心的外傷(トラウマ)から来る脳の損傷です。⬇️

画像4

次は、薬物中毒患者の脳です。ドラッグを使ってはいけないと言われるのは、脳に深刻なダメージを与えるからです。⬇️

画像5

これは強迫神経症(Obsessive Compulsive Disorder/OCD)。これは、頭の前の部分を使いすぎるため、考えを抑えることができません。⬇️

画像6

てんかんは、脳のシグナルがひんぱんに増えすぎるものです。⬇️

画像7

1992年に医学会議に出席した際、世界中のSPECTスキャンの素晴らしい活用リポートがなされましたが、そこでSPECTスキャンは精神医学研究者の研究のためだけのものであり、臨床精神分析医は脳スキャンを使うべきではないという主張がで議論されました。

ふざけるな、と

視覚化なしでは、1840年にアブラハム・リンカーンがうつになった際に受けた治療法とほぼ変わらないやり方で、ただ喋るだけで治療しろというのです。脳内部を視覚化できるスキャンは、より早く明白に問題箇所を導き出すことができるのに。

心臓外科も、神経外科も、整形外科医も、他の専門医も自分たちの担当の器官を「見る」のに、精神科医だけは、当てずっぽうをしろと言うのです。⬇️

画像8

このスキャンができる前は、患者の治療はまるで暗闇の中でダーツの矢を投げるようなものだと感じていました。恐ろしいものです。もしこれを間違った人に任せようなものなら大惨事です。

早いうちから脳のイメージを見れると、色んなことが分かります。
ADHD(注意欠陥多動性障害)にしろ、不安症、うつ病、中毒症にしろ、それらはたった一つの原因で起きているのではなく、色々な事情が折り重なって起きています。

画像9


⬆️これは二人のうつ病の患者の脳です。症状は同じなのに、脳の様子は全然違って見えます。一人は活性化しており、もう一人のは鈍化した様子が見て取れます。
それなのに、どうやって治療できるのでしょうか?
治療は十人十色で、一人ひとりに合わせて仕立て上げられたものでなければなりません。

画像10

⬆️これは、3歳の時に階段から落ちたことのある15歳の少年のです。その際の失神時間はほんの数分だったので、その際に受けた傷には気付きようがありません。彼が15歳になって診察した時には、ちょうど3軒目の対暴力行為療法のための住居型医療施設から追い出されたところでした。

リハビリで治せる

彼に必要なのは、脳損傷のためのリハビリテーション・プログラムであり、めくらめっぽうに薬物漬けにされ、施設に放り込まれることではありませんでした。

そんな彼にとって行動療法は残酷なものでした。
その行動は、問題点を反映させる為の表現なだけであり、行動自体が問題ではないのです。(Behaviour is the expression of the problem, it's not the problem.)

診断も治療もされていない脳の損傷は、ホームレスの原因になり、薬物中毒やアルコール中毒、うつ、パニック障害、ADHDの原因になり、果ては自殺に追いこみます。自殺は、戦争帰還兵が陥りやすいのにも関わらず、誰も脳の様子を見てみることもなく放って置かれた故に、見逃される死因です。

私たちがSPECTスキャンを使い続けることの批判が大きくなるに比例して、得られる教訓もより大きくなりました。

90人の殺人犯を含む500人の受刑者のスキャンでは、多くに脳の損傷があったのは予測できたことであり、驚くに値しませんでした。

でも真に驚くべきは、それらをリハビリで治せるということです。
脳が正常に機能するようになれば、もの凄い節約になります。刑務所を出て社会に貢献するようになり、働き、家族を養い、税金を払います。

ドストエフスキーの名言

画像11


ドストエフスキーは言いました。
社会の円熟度は、優秀な市民をいかによくもてなすかによってではなく、犯罪者をどう扱うかによって測られます。
(A society should be judged not by how well treat its outstanding citizens, but by how it treats its criminals)

犯罪を犯したのなら、それを評価分析し、治療をするべきです。
(Crime, Evaluation and Treatment)

22年間の83000件のスキャンを通した治療の中で判った一つの重要な事実は人の人生を変えます。それは、今持っている脳のまま立ち往生することなく、それを治せるということです。もう立ち往生している必要はなくなったのです。

画像12

⬆️このティーネイジャーの脳は、ADHD持ち、自殺未遂、学校は落第、両親とは喧嘩ばかりでしたが、脳のリハビリ後は成績が1や2から4や5になり、より落ち着いた毎日を過ごせています。

画像13

⬆️これは認知症のナンシーです。主治医は夫に1年以内に夫のことも分からなくなるだろうから、介護ホームを探すように勧めました。
そこで集中的に脳の治療をしたところ、右の写真のように回復し、あれから4年が経ってもまだ夫のことが分かります。

ここで私のお気に入りの話をします。この9歳の男の子アンドリューは、野球場で訳もなく他の少女に殴りかかったのです。⬇️

画像14


自分の絵を描かせたところ、木の下で首を吊りながら周りの子供たちを銃で撃っているシーンを描きあげました。
みな、サンディフック(学校での集団銃撃事件)がまた起こるぞと騒然としました。通常の精神科医なら、彼を薬漬けにしてしまったことでしょう。

ですが私はこの子の頭の中を見るまでは納得できません。
暗闇の中で当てずっぽうにダーツの矢を投げるのではなく、きちんと見て理解しなければなりません。SPECスキャンを撮ると、左のコメカミの上の辺りにゴルフボールサイズの嚢胞を見つけました。⬇️

画像15


これではどんな優秀なカウンセリングでも治せなかったでしょう。
手術で嚢胞を取り除いた後は、この子の振る舞いはすっかり改善し、愛らしく成長しました。

⬇️これは、あれから18年後のアンドリュー、わたしの甥っ子です。家を買い、就職し、税金を払ってます(嫌味っぽく)。彼の頭の中を見れたからこそ、適切な治療ができたので、彼は良い息子になり、夫、父親、そして祖父になるでしょう。

画像16

人の脳を視覚化し治せる特権を駆使することにより、本人の人生だけでなく、来たるべき次の世代も恩恵を享受するのに貢献できるのです。

私、ドクター・ダン・アメンからはここまでです。」

画像17

このSPECTスキャンは今、どのくらいの普及率で、どのくらいの精神科の患者が実際に、どれだけ恩恵を受けられているのか、とても興味が湧きます。

まさか今だに、暗闇の中でダーツの矢を当てずっぽうで放つ手法を治療の王道として採用しているのではないことを願って・・・。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?