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愛しいものほど、距離感を間違えると守れなくなる。


はじめて講義中、涙を流しそうになった。


講義が終盤に差し掛かるにつれて、心を黒い雲が覆い、画面をそっとオフにした。


それくらい、あのときの自分の顔は、不安と悲しさと後悔で歪んでいる気がした。とてもじゃないけれど、誰かにその表情を見せることなんてできなかったのだ。



阿部広太郎さん主催のオンライン講座「企画でメシを食っていく」の第4回目の講義は、ライツ社大塚啓志郎さんを講師として迎えた、「本の企画」。


幼い頃から「三度の飯より本が好き」なわたしは、この回をずっと、心待ちにしていた。


けれど実際は空回りばかりで、これまででいちばん、消化不良の回となってしまった。



いつもなら、講義の当日か翌日には振り返りnoteを更新するのに、今回ばかりはそうもいかなくて、気づいたらもう、1週間が経とうとしている。


そんなわたしがいま思うのは、

好きなものほど、距離感のとり方が難しい。主観と客観のバランスを見失って、結局、誰にも届かない企画になってしまう。


ということ。



正直まだ、すべてを消化し切れているわけではないのだけれど、今まででいちばん愛と熱量と時間を注いだこの企画、このままなかったことにはしたくない。


もう少し時間を置いて、冷静になってから改めて振り返ることもできるかもしれないから、「本の企画」に向き合ったこの数週間のできごとを、ここに書き留めておこうと思う。


(いつもより煮え切らない部分も多いかもしれませんが、ご容赦ください…!)


1. 「本の企画」ができるまで

まずは、いつも通り企画ができるまでの流れや考えていたことを、整理してみる。

1-1. 「本の企画」の解釈

今回の課題は、こんなお題だった。

「自分の中で絶対いける!」という確信の持てる本の企画を
LINEグループ(事務局が作成します)に送ってください。



これを受けて、まずはライツ社さんについて調べて、大切にしていることやビジョンなど、キーワードになりそうなものをまとめてみた。

○ライツ社の理念やビジョン、大切にしていること

・企画の基準は、「社名に込めた『write』『right』『light』─書く力で、まっすぐに、照らす─」という思いに、沿っているかどうか
・たとえおもしろくても、誰かを傷つける可能性があるものは企画しない
・自分が熱狂できるもので、読んだ誰かが救われるような企画を本にしたい
・大切なのは、そのジャンルの真ん中に置ける本かどうか
・世の中への問い、提案をしたいから本をつくる


そして、サイトをみていると、こんな言葉に出会った。



100年先も、残したいと思うか?



この言葉はわたしの心にすっと一直線に入ってきて、「知りたい」という好奇心がむくむくと生まれてきた。


そこで、わたしは思い切って普段noteを読んでくださっている方に向けて、声を聞いてみることにした。


1-2. 100年先も、残したい本って?

回答を眺めていると、小説や実用書、教科書まで、様々な本のタイトルが並んでいた。


けれど、それらのほとんどに共通していたのは、「読んで救われた」「支えられた」記憶や経験と、結びついているものだった。


自分の人生の希望になった、明日を生きる糧になった。


そんな記憶の真ん中にあり続けるような本が、100年先も残しておきたい本になるのかなあと、ジャンルもばらばらな本たちを眺めながら思った。


2. わたしの「本の企画」


これを踏まえて、わたしは企画する本の基準を、こう決めた。

○企画したい本の定義
・世の中に問いを立てられているか?人々の解釈を変えられるか?
・本棚の、あるジャンルの真ん中に置くことができるか?
・誰かを傷つけることはないか?
・自分が心から欲しい、手元に置いておきたいと思うか?
・本にして、100年先も残す意味や価値があるかどうか


振り返ってみると、この中の2番目の視点が、いちばん弱かったのかもしれないなあと思う。

2-1. わたしが作りたかった本

わたしが今回特に作りたかった本は、このふたつだった。


①おひとりさま 。

恋人や家族がいても、女性ひとりでご飯を食べに出かけたり、旅をしたっていい。ひとりだからこそ楽しめる場所や空間、体験を詰め込んだ、写真メインのエッセイ集。

コロナの追い風も受けて、周りの目を気にせずに、もっと自由な生き方ができる、そんな社会にしたい、という想いから。

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ちなみに、この企画のアイディアは、わたしが出会って心救われた、このアカウントが発端。

Instagramから離れていた期間も、これだけは密かに、ずっと見ていた。




そして、ふたつめ。

②なくしたくないこの街の風景/僕たちが守りたかった、日常のあの風景

コロナ禍で、気づかない間にたくさんの風景やお店が消えてしまった。一方で、遠出ができなくなったからこそ、はじめて知った自分の住む街の愛おしい風景、日常の瞬間もあった。


どちらの切り口でもいいけれど、「たしかにそこにあった」記憶や瞬間たちを、写真で残しておきたい。一般の人たちに思い出の場所を聞いてみたり、写真自体を募集してみてもいいかもしれない、と考えていた。



▼案①

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▼案②

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2-2. その他の本のアイディア

そのほかにも、つくってみたい本のアイディアはたくさん出てきた。


「絶対に売れる」という視点で見たときに弱いかなと思ってお蔵入りしたものばかりだけれど、いつかの自分のために、メモを残しておく。

○その他の本のアイディア

・旅してでも行きたい、全国の映画館
 ∟コロナで映画館の経営が厳しい。そこにしかない物語をなくさないために。

・わたしの部屋
 ∟コロナで工夫して作った、自分好みの空間を写真と文章で。

・365日、季語・和語(和歌)
 ∟その時の季節や行事などに合わせて、毎日読みたい季語、和歌、短歌。

・お家で、キャンプ。
 ∟ベランダや屋上でキャンプやアウトドアをすることが流行ったことから。写真とアイディア集。

・二拠点生活の、すすめ。
 ∟コロナ禍で、二拠点生活など新しいライフスタイルを始めた人の写真・エッセイ集。

・人生を変えた歌詞
 ∟人生を変えたコピーや映画の名台詞の、歌詞バージョン。

・あの人の本棚

・わたしの部屋の窓から見た景色

・お菓子と、言葉。


3. 「本の企画」と、これから。


いまこうしてアイディア一覧を見返してみると、自分がいかに「自分の好きを起点に考えていたか」がよくわかる。

「好きなこと」から企画すると、売れない。
それは好きな人しか気づかないし、ただのリサイクル。



大塚さんに質問をしたときに言われたこの一言は、今でもずっと心に刺さって抜けなくて、刺さった部分は、いまもズキズキと痛んでいる。


本当にその通りだなあと納得してしまったからこそ、この一言はずしんと重く響いて、わたしの身体の真ん中に残っているのだろう。


本が好きだからこそ、「そんなに好きではない人」のことは見えていなかったなと思うし、「売れるかどうか」の感覚も、鈍かったのだろうなと思う。


3-1. 「本の企画」をする上で、大事なこと


「絶対に売れる本」を企画するために、今の自分に足りていなかった視点はたくさんあるけれど、その中でも特に印象に残っている3つを。

①「世の中にすでに存在しているけれど、まだ形がない言葉」を見つける

今、世の中がどんなことに関心を持っているのか?を読み取って、心をキャッチできる概念や、ぴったり当てはまる言葉を探す。

今回自分が出した企画は、すでに存在するものをそのまま本にする…という内容だったから、大塚さんの言葉をお借りすると「編集の仕事を全くしていない」ことになっていたなあと思う。

「そこに、どんな切り口を付け加えるか?」が大事なポイントということを、胸に刻んだ。

②どの本棚に、どんなタイトルの本があったら、絶対に目を引くのか?

星の数ほどある本の中で、埋もれずに見つけてもらい、手に取ってもらうのは大変なことだなと、改めて気づいた。

「どの本棚に、どんなタイトル・表紙の本があったら目を引くか?」という視点は、普段の仕事でも生かせる考え方だから、読者として足を運んだときに、それを意識しながら本を選んでみようかな、と思う。


③「本当に、売れるのか?」という視点

自分が本好きなぶん、「ニッチな内容でも売れるだろう…」と思っていた節があるなと反省した。

本の世界はもっとシビアで、売れなかったら、大きな借金が生まれてしまう。その裏側に想いを馳せることが、わたしはできていなかったなあと痛感した。

売れるか、売れないか。この紙に、仕様に、これだけの金額をかけてもいいのか。


売れなかったら、大切な本や、そこに関わった人たちを、守ることなんてできない。


そこの金銭感覚や市場感覚を常に持っていることの重要さを知って、今後自分が世の中に出していく企画も、この金銭感覚やシビアな視点は持ち続けていく必要があるな、と強く思った。

3-2. これからの、本との向き合い方


最後に、自分の中でひとつ、大きな気づきがあったので、これも書き残しておこうと思う。



「自分もいつか、本を出したい」



という気持ちと、



「本や出版業界、書店を盛り上げたい、支えたい」



という気持ちは、もしかすると別物として考えた方がいいのかもしれないなあと、今回の企画や講義を通して気づいた。


「本を出したい」と思うのは、純粋に「本」というもの自体が好き、手触り感のある、形に残るものが好きという「自分自身の想い」が根底にある。


一方で、「この世界から、紙の本が消えてなくなるなんて嫌だ」「もっといろんな人に、あの本屋さんの魅力を知ってほしい」と思うのは、「好きなものやそこに関わる人の力になりたい」という「他者への想い」が根底にある。


だから、わたしはここを切り分けて、これから2つの異なる方法で、本と関わっていけたらいいなと思っている。



「好きだからこそ、周りが見えなくなって、自己満足で終わってしまう」


ことがないように、距離感には、気をつけていきたいなあと思う。




本だけではないけれど、好きなものとの距離感、主観と客観のバランスは、今後も、わたしの人生における大きな試練になりそうだ。




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