時を経て集まる光が、舞台を一層輝かせる|タカハ劇団『ヒトラーを画家にする話』ステージング稽古レポート
この公演が開幕の日を迎えられること、心から嬉しく思います。
タカハ劇団 第18回公演
『ヒトラーを画家にする話』
タイトルにある通りこの物語には、史上の人物、アドルフ・ヒトラーが登場するのですが、舞台となるのは、1908年のウィーン。ヒトラーは19歳で、画家を志しウィーン美術アカデミーの受験を控えていた頃。後に独裁者といわれる政治家への道を進むより前のお話です。そんなヒトラーと一緒に登場するキャラクターには、ウィーンの人たちのほかに……現代を生きる美大生も!?美術大学に通う学生3人が、あることをきっかけに、1908年のウィーンへタイムスリップしてしまうのですが、これまたあることを理由に、史実上は不合格だったウィーン美術アカデミーの試験に、ヒトラーを合格させようと奔走するのですーー
タカハ劇団主宰の高羽彩さんが脚本・演出を務めるこちらの公演。昨年7月の上演を予定していましたが、感染症の影響により、残念ながら全公演延期となりました。しかし、公演に携わる皆さんのご尽力で、2023年9月28日(木)、約1年越しに、キャスト・スタッフ続投で念願の幕開けを迎えます!!
同じメンバーでの再始動となるものの、台本はブラッシュアップ。さらに、タカハ劇団初の試みとして、上演に「ステージング」を取り入れるそう。
ステージングでは、激しい踊りはありませんが、物語を印象づける特徴的な身体表現がなされます。ダンスとストリートプレイの中間、といったところでしょうか。指導を担当するのは、振付家・演出家・ダンサーの下司尚実さん。最近の演劇公演では、EPOCH MAN『我ら宇宙の塵』・小松台東『オイ!』などでステージングを務めています。
私は、9月前半、ステージングの練習初日となる稽古場に密着しました。
《ほぐすからだ》
まずは身体をほぐす、ウォーミングアップから。2人1組になって、1人はうつぶせになります。もう1人は、うつぶせになった人の背中の上で十字になるよう寝転がり、ゴロゴロゴロ。転がる俳優たちはマッサージ機のよう……?あちこちから「あぁー!」「とっても良い!」と、非常に気持ちよさそうな、リラックスした声があがりました。
ゴロゴロ転がった人は、今度はうつぶせの人と背中合わせになって、仰向けの体勢をとります。2人の背骨がいい具合にはまるよう、下司さんが一人ひとり丁寧にアドバイス。そして、互いにブルブルと身体を揺らしたり、両手を繋いだり……。対となった2人の身体は、ジワジワとほぐれていきます。
ワークを終えた俳優たちは、身体がかなり軽くなったようで、「踊りたくなる!」と言いながらその場でステップを踏み始めたり、「内臓がリセットされたみたい!」と笑顔でお腹をさすったりしながら、全身で身体の変化を喜んでいました。
下司さんによると、これらのウォーミングアップは、心身をリラックスさせるとともに、2人1組で行うことで、チームワークを高める狙いももつとのこと。下司さんは「俳優の皆さんに、身体で表現することの楽しさを感じてほしい」と、ワークに込めた想いをお話しされていました。
《はなすからだ きくからだ》
ウォーミングアップが終わり、続いては歩行のワーク。
4~5名で横1列になり、全員が前(同じ方向)をむきます。声は掛け合わずに全身で互いの様子を感じながら、同じタイミングで歩き出す!これがとっても難しいのです。頭でコネコネと考えると、その瞬間足並みが崩れ、うまく揃わなくなってしまいます。
下司さんは「はなすからだ きくからだ」という言葉を用いて、自分の動きの意思を示す身体の状態(はなすからだ)、相手の動きの意思を汲み取る身体の状態(きくからだ)ーー心身をひらき、その両方のアンテナをもってほしいと、俳優たちに声をかけました。
5〜6回ほど繰り返していくうちに、足並みがピシッと揃う瞬間が増えていきます。動きが揃うときは、俳優たちを纏う空気が淀みなくクリアだと感じました。とても美しいです。
今度は同じ隊列のまま、スローモーションで歩いてみることに。ゆっくり歩くことも、非常に難しい身体のコントロールが必要です。頭の先からつま先まで、全身の意識がうまく作用しないと、ロボットのようなぎこちない動きになってしまいます。
下司さんは、スローモーションで動く俳優たちに向かい合い、彼らの手や足の動きに細かく目を配りながら修正点を指示します。俳優たちは、自分の番ではないときも積極的に自主練習。さらに互いにアドバイスしあうなど、前のめりでワークに取り組む姿が印象的でした。
《オープニングが立ち上がる》
稽古開始から3時間程が経過。ここまでのワークを通じて、俳優たちの身体はあたたまり、最初より外にひらいているように感じました。いよいよ、『ヒトラーを画家にする話』オープニングシーンのステージングに挑戦。
美術アカデミーへの入学を目指すヒトラー(犬飼直紀)と、現代を生きる美大生(名村辰、芳村宗治郎、渡邉蒼)が、1908年のウィーンで対峙する今作。オープニングでは、舞台上に複数の額縁が点在しています。額縁は木枠でつくられていて、内側は空洞です。俳優たちがこれらの額縁を持ったり、動かしたり、フレームの内側におさまったりすることで、冒頭のステージングが披露されます。
それぞれの動きは、とても颯爽としていて、緊張感のある空気が生まれていました。現代の美大生が過去で史実とは異なる動きをすることで、ヒトラーをはじめ、ウィーンを生きる人がどう運命を辿るのか。これから舞台上で起きるできごとを予告するような、話の展開に一層興味を惹かせるステージングでした。
下司さんと演出の高羽さんは今回が初のタッグとなるそうですが、とても気が合う様子。互いに意見を交わす時間もあれば、下司さんが俳優に振りを付ける様子を高羽さんが信じて見守ることもあり、良い環境で創作が進んでいました。
オープニング以降も、ステージングを披露するシーンがあるようです!物語にどのような相乗効果を発するのか、とっても楽しみです。
《約1年越しの稽古場で》
実は私は、昨年の上演へ向けた稽古場も見学をしていました。約1年振りにお会いする座組の皆さん。若いメンバーが多いのですが、昨年よりも大人っぽい……!というのが、今年の稽古場に入った瞬間の印象でした。
昨年も、今年も、演出の高羽さんと俳優の皆さんは互いに萎縮せず、創作に向けて対等に(かつ謙虚に)話していて、風通しの良い素敵な現場だなあと感じているのですが、昨年は、良い作品にしようと模索するカチッとした目をもっていた俳優の皆さんが今年は、柔らかい目で落ち着いている様子。とても聡明で、作品を面白がろうとする明るいエネルギーに溢れていたのです。
1年前の稽古を経たうえで良いチームワークが生まれている稽古場ですが、それだけでなく、今年の稽古においても、ハラスメント予防研修やストレスチェックの時間をつくり、チーム全体で心地よい創作環境の維持に努められています。
(↓本公演プロデューサー、半田桃子さんのXより)
また、想いをこめてつくりあげた公演を届けるにあたり、観客に向けた細やかなサービスやサポートも充実しています。
★鑑賞サポート付公演あり!
9月29日(金)18:00公演
9月30日(土)13:00公演
【サポート内容】
舞台手話通訳:田中結夏(TA-net)/バリアフリー字幕のタブレット貸し出し/音声ガイド/事前舞台説明会/池袋駅からの移動サポート
★若い人が観劇しやすくなる!
U25:2,500円/高校生以下:1,000円
(※入場時要証明書)
★人物相関図あり!
「ヒトラー……?名前は聞いたことがあるけれど……」というあなたにも。
タカハ劇団のお芝居。どこまでも、いつまでも、演劇にふれたいと思う人の手を優しくつないでくださるような気がします。
まもなく開幕です。ぜひ劇場に、足をお運びください。
写真:塚田史香
取材/文:臼田菜南
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