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片道切符しか買えないのか

片道切符しか買えないのか。このクソ人生は。
途中で折り返すことは不可能なのか。あの過去にはもう戻れないのか。なんて愉快なんだ、この人生は。



とてもじゃないが、人に胸を張れるような人生は送れなかった。きっと今後も変わらないだろう。そう思う、まだ22歳の一人の女だ。そんなこと思わせないでくれよ。

くだらない。しょうもない毎日をただ繰り返した。
一言で「恥の多い人生」だった。なんて愚かだ。情けない。
そんな私の最期の話を聞いて欲しい、ただ綴りたい。


まずは自己紹介とでもしよう。本名は伏せる、必要ない。
歴史に名を刻めるほどの功績も残せない凡人だ。それくらいでいい。高望みをしすぎたんだ。せめて君の中に私の名が刻まれて居ればそれで構わない、というのも高望みだろうか。

2001年8月3日。災害が生まれた日であり、誰かにとって愛おしい私が生まれた日である。
失敗作だと自らを卑下した少女はただ、音楽に恋をしていた。はずだった。はずだったんだ。

人に愛されることを知らなかったから、勿論愛し方も分からなかった。仕方なかった。というのは言い訳だが、そう言うしか無かった。本当に分からなかったから。
何も分からない少女は、テキトーな恋で、テキトーな場所で、その場の勢いで突っ走って、ただの女になった。
こんなはずじゃなかった、とは言えない。必死だった。

嫌なほど染み付いたのは間違った愛され方。抜け出せなかった。自分自身に値段を付けて無様に生きた。なんとも惨めだ。初めて愛されてると思えた時には既に遅かったのだ。

20歳。きっとこれが初めての恋だった。
愛されることから、愛することから必死に逃げていた私が、初めて心から思った「愛してる」は泡のように儚く脆かった。自分で蒔いた種なのだろう。自業自得だ。

愛されてる自覚を持ちながら、それを受け入れる勇気が無かった。全てを失った今でも、そんなくだらないタラレバに必死にしがみつく。馬鹿なのか。
大事にしてた。つもりでしかなかった。思い返せば涙ばかりの恋だった、お互い。

綺麗事を並べて終わらせた恋が綺麗じゃないことくらい分かっていた。

「本当に私を好きだった?」なんて今更聞いて何になるのか。人生は片道切符しか買えないというのに。
つまりアレだ。愛されたかった、イコール愛されてると信じてみたかったのだ。私は私の弱さと狡さに嫌々している。

自分を大事になど、到底思えるわけが無いだろう。愛した人を大事にすることすら出来なかった。愛した人が大事にしたものを大事に出来なかった。私にそう思う資格など無い。

左腕に残る無数の白い線は、新しい順に深く、濃く私に刻まれている。刺青なんかよりタチが悪いだろう。シャレにならない。

そこらの女が見下す目で見るAV女優や風俗嬢ですら、傷一つで左右される世界だと分かっているか。誰にでも出来る仕事じゃないことを知っていたか。全てを目の当たりにした時に感じたのは吐き気と、底知れない優越感だった。

数字はいいな。目に見えて分かる。SNSのいいね数、フォロワー数。テストの点数や、身長−体重のスペックetc。
拘った。目に見えるものにとことん執着した。だから君が泣くのが好きだった。私のことで不安になって、怖くなって、泣けばいいと思っていた。言葉を信用出来ないから。

スペックはいいよな。唯一誇っていられた。重宝された。
158cm、41kg。君と別れた私が手に入れた唯一のものはスペック117というステータス。要らないな。君さえいてくれるなら、お金も資格も何もかも。

これは君に向けて言っているんだよ。

私があの頃、自分を大事にしようと思えたのは君がいたからだ。生きよう、だなんて。生きていたい、だなんて初めて思えたんだよ。君が名前を呼ぶから私は自分の名前が好きだったし、君が触れるから私は私のことを可愛いと思えた。

教祖か、お前は。もう終わらせよう、は終わりじゃなかったじゃないか。そもそも始まってすらいなかったんだ。

遺書を書こうとすると真っ先に君が頭に浮かぶ。きっと誰より伝えたいこと、最期に言いたいことがあるんだろうね。会いたい。とか言っちゃダメか。会えない。

ロミオとジュリエットか?いや、私だけの片思いで気持ちの悪い物語だな。誰もがあらすじを読んで本を置くだろう。最初の一文も読みたくなどないだろう。そんな中で、私と、君だけがお互いを思い出して読める物語だったら、どれほど幸せだろうか。二人だけが涙する物語なら、どんなに報われるだろうか。考えるだけ無駄だ。

どうやら、君の望み通り死んであげることは出来ないみたいだ。死にたい。死にたかった。それしか無かった。
「ようやく居なくなったか」なんて強がって、部屋でこっそり泣いて欲しかったんだ。負い目を感じてくれても良かった。君が泣くのかだけでも知りたかった。聞いたところで君は答えないし、答えなかったんだけども。


振り出しに戻るようだが、人生には片道切符しかないようだ。情けないが最近になって気付いた。どんなに後悔しても、タラレバを重ねても、もう後戻りなど出来ないから誰もが未来に託すんだろう。

この先良い人と巡り会って結婚して、子供が生まれて幸せになる未来が確定していたとしても、何もかも捨てて君のところへ走って行きたい。生きたい。



この電車、どこで降りようか。君の最寄りにしようか。
もっと遠くへ、誰も何も知らない場所まで行ってみようか。
この長い車両の中、どこかに君は座っているだろうか。探してみるのもいいかもしれない。同じ電車じゃないなら降りればいいんだ。どこで降りようと私の自由だったはずだ。

君より少しだけ早く電車に乗った私だ。君の乗る電車を待って轢かれてやるのもありかもしれないな。

それか帰りの切符を2人で買わないか。あの日、私たちが出会った日まで折り返して、もう一度やり直してみないか。



笑えるほど惨めで情けないこと言ってるのは分かっているよ。馬鹿だなと笑ってくれる君がもう居ないことも。
今でも心の隅に私が残っていればそれでいい、なんて本当なのかすら分からない。馬鹿だなと笑ってくれよ。

幸せにしてあげられなくてごめん。出会わなきゃ良かった、とは思わないけど、出会うべきじゃなかったとは思うよ。泣かせずに済むならそうしたかった。

今も、昔も、きっとこれからも。君の笑った無邪気な顔が好きだ。一生忘れないだろう。




これは、恋人のように君が可愛がってたあの頃の私からの願いだ。私の。私の曲を書いて。無かったことにしないで。


あぁなんて惨めか。私はまだ君を歌っているよ。愛しているよ。今のうちに、この気持ちが嘘になる前に。

私は電車を降りることにするよ。それじゃあね。

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