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古き良き、日本のウイスキーを愛でる。

元気だった頃の父は、いつもウイスキーで晩酌を楽しんでいた。
昭和の頃の、どの家庭にもあったような、家族の団らんの時間。
ついていたテレビはナイターだったか、欽ちゃんのバラエティだったか。
勤めから帰って、部屋着に着替えた父は、母の作った手料理を肴にして、いつも旨そうにウイスキーの水割りを呑んでいた。

子供の頃、父の呑んでいる水割りをほんのちょびっとだけ、「なめさせて」もらった事がある。
なんという渋み、そして薬臭さ。とにかく「苦さ」しか感じなかった。
なんで大人は、こんなものを喜んで呑んでいるのだろう。
心底、不思議でならなかった。

父の背中を見ながら、少年も、いつか大人になる。
蛙の子は、やはり蛙か。
今、私が愛飲しているお酒は、やはりウイスキーだったりする。

私の子供の頃、つまり1970年の半ばから1980年代にかけてという時代。「ウイスキー」というものが、今の時代よりずっと「ハイカラな物」という扱いであっただろうことは、何となく想像がつく。
その匂いを感じさせるものは、当時オンエアされていた、ウイスキーのCMである。

YouTubeで検索すると、まあ、出てくる出てくる。当時の懐かしいCM。

改めて見ると、演出の力と言おうか、映像にしても楽曲にしても、味のあるもの、洒落ていたものが随分多かったように思う。とりわけ音楽については、最先端とは限らないけれどどこか新しくて、洒落ていて、ああ、良いな、と思わせるもの。そんな音楽を人々に膾炙させる媒体として、テレビのCMが果たしていた役割は、今よりずっと大きかったように思う。
殊にウイスキーを代表する洋酒のCMはその代表格だったのではないかと思う(同じ事は、化粧品のCMにも言えることだろう)。

穿った見方をするならば、当時のCMというものは、ユーザーとなるべき年齢層に訴求しつつ、将来ユーザーとなるべき、ティーンズの年代にも響くように出来ていたのではないか。そんな風に考えてしまうくらい、当時のウイスキーのCMは、粋だったのだ。

そんな訳で、このところ私が愛飲している「古き良き日本のウイスキー」を、ほんのわずかではあるけれどご紹介しつつ、当時のCM動画を交えながら、当時の「匂い」をいくらかでも感じていただければ、と思う。

* * *

「原酒&原酒の、まろやかさ。」
ロバート・ブラウン

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ロバート・ブラウンのCMといえば、ボトルの中でウイスキーがぐるんぐるんと揺らいでいるシーン。あれ、どうやって撮影してるんだろ。
音楽はハーブ・アルパートの「ルート101」。スムースなトランペットが堪らなく格好良い。ナレーションはおそらく広川太一郎か。

これは私と同年代くらいまでの人にとっては、懐かしいと思える銘柄ではないだろうか。ロバート・ブラウン。キリン・シーグラム(現在はキリン・ディスティラリー)の、古き良きブレンデッドウイスキー。

てっきり、もう販売をやめていたと思いこんでいたけれど、御徒町の吉池本店のお酒売り場で見つけた時、もう懐かしさで思わず買い物かごに入れてしまった一本。まるで旧友に出会ったかのようだ。

ストレートで少し口に含んでみる。程よい甘み。ナッツやチョコレートを少し感じる。後から程よく、スパイシーさがやってくる感じか。角が取れていて、全体的に丸みを感じる味。

なんだろう。このウイスキーの味として「華やかさ」や「色気」はそれほど感じられないのだけれど、代わりに「真面目さ」があるような気がする。
それは四角四面の、野暮な真面目さというのではなくて、あまり口数は多くないけれど、当たりの柔らかい、優しい人というような印象。
刺激には欠けるかもしれないけど、困った時に、そばにいてほしい友人のような気がする。

ハイボールにするのもいいけれど、個人的には少し加水して呑むのが好み。

「いだだきます。」
スーパーニッカ

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スーパーニッカのCMといえば、この動画の最初の60秒(30秒CM×2本分)で聴ける、高橋幸宏の「And I Believe In You 」と「Are You Receiving Me?」の楽曲使用が一番印象に残っている。この2曲が収録されたシングルレコードに出会わなかったら、私は音楽を趣味にしなかっただろう。
高橋幸宏には「音楽の格好良さ」を、坂本龍一には「音楽の可能性」を、細野晴臣には「音楽の深さ」を学んだような気がするのだが、それはまた、別の話。

ニッカと言えば、「余市」という偉大なシングルモルトや、「髭のおじさん」のラベルのブラックニッカ、ダルマみたいなボトルのG&Gなんかの印象も強いけど、忘れちゃいけないのが、スーパーニッカ。

ストレートでの味わいは、ああいかにも、と思わず言ってしまうくらいの、「日本のブレンデッドウイスキー、かくあるべし」という王道の味わい。
少しだけスモーキーに寄せている印象。樽の熟成香と、わずかにバニラを感じる。
最初はドライな味に感じながら、後からほんのりと甘みがやってくる。
硬派な味わいではあるけれど、質実剛健というほどストイックな感じではなく、少しだけ色気を含んだ味、という感じがする。総じて、適度な重量感を持ちつつも、スムースで、するすると軽く入ってしまう印象。

このスーパーニッカの水割りには、ドライフルーツとの組み合わせが個人的には好み。やめられないとまらない。
こういうタイプのお酒は「飲み続けられてしまう」という魔力を持っているから、良い音楽や良い映画を愉しみながらの一杯は、呑みすぎに気をつけないといけない。人というものは、往々にして、あるとわかっている落とし穴ですら、落ちる時には落ちるものだ。

「ちょっくらリザーブ、してみるか。」
サントリー・リザーブ

リザーブのCMの中でも印象深いのは、この「ボブ・ジェームス作曲編」。キレッキレのメイドさんのダンスが素晴らしい。このCMで使われた楽曲「マルコ・ポーロ」は、今聴いても何かワクワクする、素晴らしい一曲。
この曲を耳にするとウイスキー、それもやはり「リザーブ」が呑みたくなる。良き音楽は十分「酒の肴」になる、という好例だと思う。

サントリーのウイスキーで印象深いのは、RED→角→オールド→ローヤルという、メインストリームの銘柄に対して、ホワイトと並び「オルタナティブ」な銘柄(←このあたりは筆者の主観)の雄、リザーブ。
もうボトルのデザイン、色合いからして、雰囲気があるお酒だ。

ストレートで口に含むと、優しい甘み、青りんごのような果実感。かすかにチョコレートという印象。香りが先に開いてくる感じか。先の2本とは好対照に「華やかさ」や「色気」を感じる味。
このあたり、スーパーニッカが「硬」ならリザーブは「柔」、ロバート・ブラウンが「陽」ならリザーブは「陰」と言うべきか。

そこはかとなく「手弱女振り」を感じる味。加水すると、さらに甘みが引き立つ印象で、香りもさらに開いてくる感じ。
ストレートももちろん悪くないが、リザーブに関しては加水、あるいはソーダ割りで呑むほうが個人的には好きだ。より「小悪魔」的な味になる。

真偽は不明ながら、一説によれば、リザーブのキーモルトはかの「白州」なのだそうだ。「白州」が原酒不足で品薄な昨今、リザーブも改めて評価されているのだとか。なるほど、と深く納得できる話ではある。

* * *

今、コンビニで売っているウイスキーを見ると、だいたい700円台でトリスやブラックニッカが並んでいることが多い。その一つ上の価格帯で、ジムビームやホワイトホースといった海外勢、そして肩を並べるようにサントリーの角が並んでいたりする。いずれもハイボールにして美味しい銘柄だけに、それだけ家庭でウイスキー・ハイボールは愛飲されているということなのだろう。

こうした価格帯のウイスキーたちが裾野を広げる一方で、量販店やAmazonでは、ハーパーやワイルドターキーの8年といったバーボン、グレンリベット12年やグレンフィディック12年などのシングルモルトが、2000円台後半から3000円台半ばで売られていたりもする。
かつて、初ボーナスで「ハーパーの12年」を買った私からすれば、隔世の感だ。

そうした時代にあって、この記事でご紹介したような、ミドルからアッパークラスの国産ブレンディッド・ウイスキーが付けている「約2000円」というプライスタグは、消費者目線としてはいささか「中途半端」なものに感じられる、ということはあるのかもしれない。
そのせいかどうかはわからないが、この記事に書いた3銘柄も、それなりに大きい酒販店に行けなければ、入手できなかった。
もはや、こうした国産のブレンディッド・ウイスキーは、新たな呑み手を開拓するパワーは無く、昔から愛飲している固定ファンに支えられている、ということなのだろうか。

国内のウイスキーメーカーも、「山崎」をはじめとする「日本製シングルモルト」が世界的に評価されたこともあり、原酒不足となってしまった結果、ブレンディッドウイスキーの生産も絞らざるを得ない、という話もあるように聞く。

お酒を呑む習慣を持つ人が、減っていく中でもある。
このような状況が続いていけば、いずれ国産ウイスキーは、ハイボールで楽しむことを前提としたライトでリーズナブルな銘柄と、高級なシングル・モルトという形に二極化していく、ということになるのだろうか。

かつてのように、テレビCMをたくさん打つ時代でもないのだろう。この記事でご紹介したようなウイスキーたちが、身近な小売店に置かれることもなく、消費者に知られる機会すら与えられないまま、人知れずだんだんと姿を消していくようなことがあるとしたら、それはとても、寂しい事だ。

古き良き、国産ブレンディッド・ウイスキーを愛でる。
それは、確かに懐古趣味なのかもしれない。

けれど。

昭和の「オヤジたち」が、呑み継いできたウイスキーたち。
そこには、さまざまな香りの中に「あの頃」の香りも含まれている、はずだ。
じっくり、呑み継いでいきたいものだと思う。

(了)

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